第80話 孤軍奮刀(こぐんふんとう)3
***
「Dチーム第1試合! 一年、皇焔 対 三年、
「あ! あの人確かあれっしょ? アナライズ特化のダブリさんっしょ?」
「卒業出来なくて、学長が別の道を勧めてんのにダブってまでも魔武イチにしがみついたって人?」
「親がお偉いさんだから金には困ってないらしいけど……アナライズ特化でどうやって戦うんだ?」
「ダブリさんの一回戦の相手が棄権したから、まだ戦い方を見られてないんだよな。超気になる!」
「……ほう、1年坊。魔法は使えないというがお前……、何か力を隠しているな?」
「…………!!」
ば、バレてる!?
「やはりな。俺のアナライズは一味違うんだぜ。あの1年主席のアッシュや現生徒会長の能力も大体わかってんだ。だからお前が何をしようが無駄だ。隠しているとは言え、お前の能力は取るに足りないってこともな! 今度こそ優勝して俺の無為に過ごした3回目の3年生を取り戻してやる」
おいおい、3年もダブってるのかこの人は……。
そのダブリさんは小さなアタッシュケースから注射器のようなものを1本取り出した。
「おーっと打鰤選手、ポケットから取り出したのは……。これはもしやエレメントチップ……⁉ 最近開発されたという魔法構造再構築ナノマシン! 確か、魔力砲身の出力形式を一時的にアシストしてチップ内に収められている属性を使用できるようになるというかなりグレーなドラッグの一種!!」
「……解説が全部言っちまったけども。お前みたいに完全無魔には使えない代物だがな! 用意してきたチップは3属性だけだが人相手には十分よ!」
そう言ってダブリさんはそのエレメントチップを自身に注入し始めた。
ドシュッ……チウウウ……
「フハハ! これで俺は属性魔法が使えるようになった。悪いがお前はもう終わりだ。さて、何をしようか……フハハ! 手も足も出ず負けとけ!」
ビュン!!
言い終わると同時に石が飛んできた。
速度はあまり速くなく余裕で避けられたが、次々と石の投擲攻撃がくる。
「打鰤選手!
「アッハッハ! どうしたどうした1年坊! やはり手も脚もでないよなぁ!」
ビュン!ビュン!
当たったら痛いだろうか。
野球ボールほどの大きさの石を、速度の変化をつけて投げつけてくる。
この速度の緩急は地味に厄介だ……。
僕は避けるので精一杯になってきた。
「ウハハ! じゃあもう少し難易度を上げてみるか?」
もう1本のシリンジを取り出すと再び注入し始めた。
ドシュッ……チウウウ……
ビュウウ……!
今度は風の攻撃がきた。
対処が出来ず、皮膚を切り裂かれ少量出血した。
と言っても、子供の頃に短パンで草むらを歩いている時に少し切ってしまう程度のものだ。
風の攻撃自体もそれほど強くない。
耐えられると思い、相手目掛けて突っ込んだ。
「ハハハ! 単純でいいよなぁ!」
石を2つ同時に飛ばしてきたが、速い方を瞬時に躱す。
サッ……! ドスッ……
躱したと思ったが腹部に衝撃が走る。
「ヒャッハハ! 2属性同時に使えるんだよ。このチップのお陰でな」
迂闊だった。
石の軌道に気をつけていたのだが、遅い石の軌道を風魔法でタイミングをズラされたのだ。
「ケホ……。やっぱり弱いな、僕は……」
タイマンだと自分の弱さを痛感する。
相手は高々、石を投げて攻撃しているだけだぞ……。
何を使っていようが、アッシュよりも格段に弱いはずなのに。
「へー。ダブリ……さん、やるじゃんかよ」
「あの人、昔野球部でストレートしか投げれなかった人だからな。風魔法があれば変化球も自在だよな」
「……いや、それよりもよう。……やっぱりどう考えてもドーピングはいかんだろ? いいの?」
「今判断してるんじゃん? 続行してるってことはいいんじゃねぇの? それよりもあの速度の使い分けはただ単に、利き腕だと速くて逆だと遅いだけだな」
「お、おう……。よく見てるな」
「これで終わりだ。無魔のお前にはお似合いの最後にしてやるぜ」
最後のシリンジを注入する。
「こ、ここでお知らせです!
「ヘヘ、初戦から使って失格になっても嫌だったからな。運営から許可出ちまえばこっからは無双だぜ!!」
ドシュッ……チウウウ……
「フフフ……ヒヒャァァ! いきなり燃え死ねー!」
ボウッ!!
火が体を覆う。
「すっ、皇選手! 打鰤選手の炎でいきなりコンガリ焼かれているー!!!」
「ヒャハ! 熱いよなぁ! 消火器が欲しいよなぁ!! ……って、あれ……?」
……
「バ、バカな! お前は無魔の上に火耐性の数値も
体に火が取り込まれたことでちょっとイキイキしてきた気がした。
「……俺に対して燃え死ねとか……ちょっと昔を思い出しちゃうじゃないか」
パチン……ボッ……ボボウ!!
ダブリの持っていたシリンジを燃やし、その体全体を俺の炎で覆い尽くした。
「…………⁉ うぐぁあああ!!」
「おーっと! 何故か打鰤選手までもが燃えた⁉ 両者、大丈夫なんでしょうか!! すぐさま消火班がやってきたーっ!」
ダブリは火だるまになって転がっている。
それを見ると何故か懐かしさを感じて笑みがこぼれた。
俺は〘燧喰〙で自身に纏う火を消した。
ブシャアアア……シュウ……
「今、打鰤選手の火がようやく消されました……が! 皇選手を覆っていた火は消火前に消えてしまったー?」
結果的にはダブリさんに僕の力はバレてなかったってことなのかな?
うーん……。
それにしても、僕に火の攻撃が通じなくておかしいと感じる人がそろそろ出てくるんじゃないかな……?
このままだと火耐性が高いことがバレてしまうのでは……!
……あ、でもアナライズ特化のダブリさんは僕の火耐性が0だとか言ってたよな。
なんでだ……?
「ダブリの使ったチップ……、最悪だったな」
「まさか相手にダメージなくて自分が燃えるとか超不良品じゃん」
「まだ開発されたばっかってことは治験みたいなもんってことだろ? こっわ……」
「それよかよぉ。やっぱドーピングはよくねぇよな!」
「最後まで立っていたのは皇焔!! 皇選手、まさかの切り傷のみ!!」
あと2回勝てば決勝戦……。
逆に今のうちに負けたほうが恥ずかしさは少ない……?
だけどさっきのアッシュの感じ……勝ち上がってこいってこと?
どうすればいいか……。
2回勝ってベスト8。
無魔の僕が8位とか上出来じゃないか。
もうここで辞退しよう。
これ以上恥ずかしい戦いを見せられない。
「えー……ここでお知らせです! な! なんと準々決勝第2試合の、カス=タード=デジャブ選手とマル=ガリタ選手の両名が、第1試合時の怪我によりドクターストップ! よって……皇選手の不戦勝が現時点で確定!! 一番有り得ないと思われたダークホース! 魔武本でアッシュチームに勝っただけのことはあるか⁉ まさかまさかのベスト4進出を一番乗りで決めてしまった!」
え…、……え?
「はー⁉ んだよーそれー! そんなんおかしくね⁉ ぜってー何かの陰謀だろ!!」
「ガリタも無魔なんだけど、そこそこ強えから試合見たかったのによ……」
「ホントだぜ。どっかの口だけの男よりはやるよな」
「誰のこと言ってんだコラ」
「誰もてめぇのことだなんて言ってねぇだろがコラ!」
え、なんで僕がベスト4に……?
目立っちゃってるじゃんか!
ただの運なんだからそっとしといてくれー……!
……て、準決勝の相手……。
順当にいくと……もしかして藤堂さん⁉
うわ……無理ー……終わったー。
でもこれなら納得だよな、うん。
負けても仕方ない相手だよな、うん。
「ヤホヤホー、ホッくん! 準決勝進出おめでと~! 凄いじゃん!!」
「あ、如月さん。いや……たまたまじゃないかな……。対戦相手はみんな自爆したようなものだし……」
「はぁー、何言ってんの? ある意味それって相手に失礼だかんね! 実力で勝ってるんじゃないの? 不戦勝は仕方ないとしても、みんなホッくんに勝つ気で向かって行ったんじゃないの?」
うぐ……正論……。
確かに相手に失礼だけども……なんというか、素直に喜べないんだよー……。
これはもう多分、昔の傷のせい……。
いじめられたトラウマがきっと僕をネガティブにして、自分に自信が持てないでいる……。
……ってこの前も自己分析してたよな……。
いじめられたことない人にはわからない感覚なんだよきっと……。
「皇くん。痛みって共感できるの……知ってる?」
「え……?」
凍上さんも来ていた。
「例えば……人が包丁で指を切ったり、針で刺しちゃったりしたのを見たら……どう思う?」
「え、痛そう……」
「それ。
「凍上さん……」
「お、お2人さん……急になんの話してるの? あたし、ついていけてないじゃんか……しょぼー……」
如月さんがしょぼくれてしまった!!
「あ、いや…その……ベスト4ウエェイ! あと2勝でチャンピオーォォン!」
自分でもよくわからないがテンションをアゲてハッチャケてみた。
「……不安定なのかな?」
「…………」
空回りしたみたいだ。
いつまで経っても僕はダメダメだぁ……。
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