魔武本表彰式
第65話 転火泰平(てんかたいへい) 前編
***
「只今より、表彰式ならびに閉会式を行います」
生徒たちの突き刺さすような眼差しを受けながらも僕はどうにか立っていた。
この視線の原因は確実に賭けのことだろう。
二条さんは野次を止めてくれたけど、みな内心は憤りを感じているのは明確だ。
僕らが勝たなければ、ある程度のお金を手にしていた訳だし……。
それがパァになったら面白くないよなぁ……。
はぁ、なんとも言えない……。
「なぁ皇?」
前列の鮫島くんが急に話しかけてきた。
「点数わかんないけど最終的に1500ptも入ったら俺らが優勝だよな?」
「あ……う、うーん。確かに午後から点数が隠されてたからはっきりとは言えないけど……。午前はそれほど大差ないって言ってたよね。1位が破格の1500点だから優勝だと思いたいけど……」
「おま……負けフラグ立てるなよ? ……あ、そうだ。それと今だから言うけどな。俺、アッシュとお前の勝負なんてどうでもよかったんだよ。賭けもしなかったし。優勝すれば特典があるから別にどっちが勝ってもよかったんだ。……だけどな……お前らが勝ってなんかスカッとしたってのが本音」
……驚いた。
騎馬戦でもアッシュと同じチームだった鮫島くんがまさかそんなこと思っていたなんて。
でも、そう思ってくれている人はほんの一部だと思う。
賭けをしてないからそう思うだけで、賭けてる人からしたら確実に恨み買ったに違いない。
それよりも今後アッシュとどう接すればいいのか……。
あれから顔を合わせてないけど……。
「――なので臨機応変に対応していってください。これから表彰式なのに話が長くなってしまっては申し訳ないのでこれくらいにします。今日はみなさんご苦労さまでした!」
パチパチパチパチ……
気がつけば校長の話は終わっていた。
「それでは表彰式です! これからあがる花火の色にご注目ください! 一番高くまで上がった花火の色が優勝ですので、上位3位までに入ったクラス代表は壇上へ上がってください。それではお願いします!!」
ブォォ……ン
空一面が暗くなる。
ピュフウウゥウゥ……
12色の花火がゆっくりと空にあがっていく。
パン……パン……パン……
「「「あー……」」」
花火が上がるごとにどこからともなく感嘆の声があがる。
悔しがるというのは本気で取り組んでた証だろう。
次々と炸裂音が響き、残る花火はあと3発……。
まだ白い花火はあがっていない。
ドーン!
「ウオオオオ!!」
水色の花火があがったけど、確か逆井さんのクラスだったはずだ。
強かったしな……。
……2位は……。
僕たちが優勝してるなら……ここは黒い花火なはず!
ドドーン!!
「アアアァァー!!」
白色の花火……!!
なんと僕たちは2位だった。
アッシュとの勝負のことばかり考えていたけど、やっぱり負けたのは悔しい。
ドカーン!
最後に大きくあがった花火は黒だった。
「……お、おい皇……どうなってんだよ! なんで黒が優勝してんだよ! お前らがあの競技で1500ptも稼いだのにおかしいだろうがよう!」
興奮していた鮫島くんは僕に掴みかかりブンブン揺さぶってくる。
「ぼ、ぼ……僕にいっ、われてっもっ……」
会場はザワザワしている。
「再び失礼します、二条花楓です。えー……このどよめきの理由は把握しております。魔武本は基本的に、最終的な点数の開示は行っておりません。ですがここまで僅差だと逆に伝える必要があると判断致しました! 最終的に1位の黒は2504pt、2位の白は2497ptです。午前中での点数はその時お伝えした通り、上位5チームは僅差となっていました。それが最終競技の1000pt寄付前には、1位の黒3−4は2009pt!白1−1の点数は997ptです」
「ど、どういうことだ? じゃあ寄付してもまだ黒の方が優位だったってのかよ!」
「午前は僅差だったのに午後だけで1000点も離れるのか? 1000点チョロなんか?」
「1位は1500点だとしても2位と3位で500点……。どうみても白が勝ちじゃないのか?」
「はい、説明させていただきますのでお静かに願います! まず基本的に競争系の種目は、1位から5位まで点数が割り振られていますが……。例えば1位以外がリタイアすると2位から5位までの点数が1位のチームに全部入ります。これは開会式の時にも説明しております。最終競技は1位から3位までがゴールとなりましたのでそのチームに点数が割り振られます! ですが! ここ重要ですよ!! 1000ptの寄付がなされた時、〝1位のチームに1500ptが入る″と取得点数の固定化がなされ……、そのため1位以外に点数の分配がなされました。2位と3位であった黒3−4に点数が分配された結果、順位点の300ptと200pt、4位と5位のポイントが100pt、50ptと加算されています」
「え、それでも……650点じゃん……。1500点の比じゃなくね?」
「変だよな」
「てか……寄付しなかったら圧勝じゃんか」
「ヤバすぎ……」
「そしてもう1つ、これも最初に説明したルールがありましたが、〝人数が少ないチームへのポイント倍率加算″です。ちなみに黒3−4はクラスメイト総数17名なので40人ベースに合わせて点数が2.3倍されています。つまり最後の点数は白に1500pt、黒へは650pt×2.3の1495pt入っていることになります。仮に4位と5位に他のチームが入賞していれば、黒3−4への点数は500×2.3で1150ptとなり、白1−1の優勝という結果になっていたのです。ちなみに午前中は黒3−4が出場していた競技は他のクラスに比べてかなり少なかったです。競技が午後に集中していたため、怒涛の追い上げとなっておりました。それくらい黒は強かったと! 始める前にこれらの説明はしていますので異議は受け付けられません! それでは1位から3位までのチーム代表は壇上まであがってきてください」
僅差での負け……か。
……いいんだ。
僕は僕なりにやりきったから。
優勝できなかったことに対して、悔しいけど悔いはない。
それにまともに体育祭を楽しめたのは初めてなのだから……。
それよりもアッシュは……大丈夫なんだろうか。
僕なんかに負けて相当ムカついてるんだろうな……。
でもアッシュたちが諦めずにあの後、ゴールしていれば優勝は……。
ってそんなこと言っても仕方ないか。
あ……いた……アッシュ……。
1−1代表だから壇上にあがっている。
表情は普通っぽいけど……。
3−4代表の東さんも壇上へあがっている。
もう1人は水色……だけど。
あれ、逆井さんじゃないのか。
あ……もしかして東さんがいるからかな?
「それでは優勝した黒3−4には魔武学ファウンダー土田清美学校長より、全国で使える図書カード3000円分と魔武学購買部より、学食最高ランクであるSS定食が1食分……クラス14人全員に進呈されます! そして……なんと魔武学生徒会より生徒会長、真道月詠への公式挑戦権1回分!! 1枚ですので欲しい人はクラスで話し合ってください。そして担任と副担任にもハッピーボーナスがあります! 皆様、盛大な拍手をお願いいたします!!」
パチパチパチ……
え……図書カードとかメチャんこ普通だな……。
商品券じゃなくて図書カードとか渋すぎる……。
それに学食のSS定食ってなんだ……初めて聞いたぞ。
てか教師にも特典があるのか……!
だから楠先生はあんなに燃えてたんだな。
「それでは2位の白1−1です! 図書カード1000円分と、C定食3食分がクラス全員に。それとこれは……ある意味1−1に相応しい賞品かもしれません! 冬頃に開催される魔武イチ決定戦の出場確定権が2人分! なんと予選をせずに本戦出場できます! ……その時もまたあの2人のアツい戦いが見られるかもしれませんからね、はい。そして担任と副担任にもラッキーボーナス! 皆様、拍手をお願いいたします!」
パチパチ……
……図書カード1000円分ねぇ……。
まぁ体育祭で貰えるとしたら羽振りが良いのかもしれないけど……。
普通すぎる……。
……ん、魔武イチ決定戦……?
またあの2人……って言った?
僕とアッシュのこと、言った⁉
絶ッッ対出ないけどね!!
「最後に3位の水色2−1です! 図書カード500円分と、A定食5食分! そして魔部イチ決定戦の観戦チケットアリーナ席をクラス全員分プレゼントです! そして担任、副担任へは、リトルボーナス! 皆様、温かい拍手をお願いいたします!」
パチパチ……
「おい、魔部イチ決定戦のアリーナ席とかそっちの方がいいじゃんか」
「俺も3位の方がよかったな」
「けどA定とC定は雲泥の差があるからな。それだけでも勝った勝ちがあるってもんよ」
「確かに」
「言えてる」
ここの学食は本気で美味しいからな。
みんなが喜ぶのはわかる気がする。
「魔武学体育祭……、通称『魔武本』! 長きに渡る熾烈な戦いの結果、黒3−4が優勝となりました! これで黒は3年連続優勝という快挙をなしとげ、後世に残る偉業となるでしょう! 皆様、最後となりましたが全生徒に熱い拍手をお願いいたします!!」
パチパチパチパチ……
全員頑張ってたもんな。
勝った人も負けた人も胸を張れるか。
しかし3年連続とか……凄すぎる。
12チームいてその頂点を3回か……。
確かに凄いことだよな。
「閉会の言葉。教頭先生お願いします」
「これにて第5回、魔部学第一高校体育祭を終わります。はい、」今年は大きい怪我がなくてホッとしてます。現在、怪我をして治療が必要な者、体調が悪い者は一旦保健室まで来てください。ここで治療ができれば行いますので。それでは解散ー!」
終わった……。
長かったようであっという間だったな。
***
「1年生で2位とか……先生嬉しい……。いくら魔法は力の差が学年であまり影響ないって言っても……経験とかあるからね。だからこの2位は純粋に凄いと思う! みんな、本当にありがとー!!」
一旦教室に戻り、先生の挨拶が行われている。
終わったみたいだから帰ろう。
「ちょっとホッくん! 何帰ろうとしてるのさ!」
「え……? だってもう終わりで……」
「打ち上げ! 聞いてなかったの? 先生が奢ってくれるってさ! 焼き肉〜!」
随分羽振りがいいんだね……先生そんなに嬉しいのか。
なんとかボーナスってお金だったのかな?
「あ……ちょっと疲れてるから……帰るよ」
「え! お肉食べないの? 1−1全員来るよ! ハナちゃんも!」
「っ……! ……い、いや……今日は本当にいいや……」
正直、行きたいけど……きっとクラスメイトの中でも賭けをした人がいるに違いないし。
賭けに負けた当日にわざわざ皆からのヘイトを買う必要はない。
……それを言ったら今後、みんなとどう接すれば良いのか本気でわからなくなるけども……。
「あ、そう……。ハナちゃんでもダメなら諦めるわ……」
寧ろ2人は気にならないのだろうか。
僕と一緒のチームだったわけだし、皆からも怒りの矛先が向いたりしないのか心配だ。
そそくさと帰る準備をして教室を出ようとするが、その先には……。
アッシュだ……。
しかも笑っている。
喋りもせず、微笑みかけるようにジッと僕を見ている。
「ご、ごめん。帰るね……それじゃあ……」
精一杯の言葉を残し、足早に立ち去った。
後ろを振り返るとまだこっちを向いていた。
……絶対報復とかするタイプだよ……ハァ……。
……あ、凍上さんに挨拶してない!
改めてありがとうって言いたかったのにアッシュのせいで……忘れてた。
あの場はすぐにでも立ち去りたかったからな……。
はぁ……。
携帯で……いや、直接の方がいいよな……。
休み明けたら言おう。
帰り道、普段の2倍は時間がかかった。
***
「焔や、おつかれさん! どうじゃ、あのオレガノんとこの孫との勝負は――。……あ、いや、言わんでいい。そんな
「ちょっと爺ちゃん! それって負けたと思ってるってことでしょ!」
結局黙ってもなかったし優しくもなかったし……!
「え、そうじゃないんか?」
「違うよ! アッシュとの勝負には勝ったよ! どうにかだけど……。それに優勝も出来なかったけど……」
「……本当に勝ったのか?」
顔をしかめて無言で頷いた。
爺ちゃんは急に静かになって黙り込んだ。
……なんだっていうんだ。
皆して馬鹿にして……。
「うっ……うっ……」
え、泣いてる⁉
「あ、あの……爺ちゃん……?」
「毎回毎回良い意味でワシの期待を裏切りよる……。いや、嬉しいんじゃ……こんな短い期間で立派になって……」
「泣かないでよ! でもあれだ、僕だけの力じゃないし! 2人が強かったから勝てたんだよ」
「……そうじゃなそうじゃな。ワシも正直勝てるとは思っとらんかったし……すまぬ……」
……タイマンだったらズタボロだったと思うよ。
あの上級生とも渡り合える力……。
勝ち気、負けん気、そして絶対的な自信がある。
あれだけ強かったら……僕ももっと変われたかもしれない……。
「さ、今日は馳走じゃ。焔の好きなモンをたっぷり用意しとったでの」
……凄い量だ。
でも爺ちゃん……ありがと。
***
「う……っ」
入浴後の布団の中。
体中が悲鳴を上げているのにつられて自分も声がでた。
魔法を食らったり意識しない力が入っていたりしたせいか、体が言うことを聞かない。
明日は振替休日だし……少しゆっくりしようかな。
ずっと練習漬けだったし……。
……でも正直、爺ちゃんとの特訓の方がキツい……かな。
それに体育祭では、あの2人がいてくれたからそんなに苦じゃなかったかも。
前世でもこんな想い……することなかったな。
女子と話したりくっついたり……。
人生、やり直しをさせてくれて……。
神様、ありがとう。
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