第62話 紙面粗可(しめんそか)
「さあ、時は満ちた!! 最終競技……三人四――ちょっと、な、なんで止めるんですか! ……え? あ、はい……え! そんなことが!? えー、皆様! 少々お待ちくださいませ」
ん、なんだろう。
大会の本部で慌ただしいことになってるけど。
「な、なんとここで重大なお知らせがあります! 黒3−4が三人四脚の1位チームに1000点を寄付するそうです!!」
ザワザワザワ……
な、なんだってー!?
そんなことできるの?
アリなの!?
「3−4全員が了承したとのことで寄付に至ったそうです!! 黒組の参謀、
な、なんだそりゃ……。
いくらなんでもわざわざ寄付するって……どういう意図があるんだろ。
「えー……と。私、二条花楓。焦り、興奮しております。前代未聞の点数の寄付! これで黒3−4の点数は-1000点とされ、三人四脚1位になれば1500点入りますので……なんと全クラスに優勝の可能性が出てきました!! 粋な計らいですがこれは逆に、『3−4はそれでも負けない』と言っているようなもの! さあ、全クラスの代表者達よ! この提案を飲めぬと言うならば前へ!!」
……破格の条件だけど、この状況で「前へ出ろ」って言うのは難しいと思うんだよね。
「……反対者ゼロ! 黒3−4の条件は可決されました!! さあ、全チーム再び熱を取り戻してきました! 諦めていた者、飽きてきた視聴者! ……いや飽きはしないか。最後の最後にサプラーイズ!! 三人四脚に全振りしていたチームにはホント、朗報だと思います。……いやー、今年はあの2人に感化されてどのクラスも生半可なチーム編成ではない! 最後の最後にアツいバトルが観られます!!」
「大変なことになったわ。これで私達の勝率が若干下がったわね」
「え、なんで……?」
「点差が激しい今回の大会で、下位のチームはほとんどやる気がなかったはず。最後の三人四脚で勝ったとしても500点入ったところで上位にすら程遠い。でも1500点入るとなると最下位でも優勝の目処が立ってくる。諦めてたチームもやる気が再燃……。敵を増やして私たちの争いを混戦させて
……凍上さんは途中から独り言になっていた。
とにかく状況は最悪ってことか。
だけどアッシュも騎馬戦でかなり消耗したはず。
中級とはいえ、あれだけ魔法を連発してたんだから少しは疲労しててもおかしくない。
「そうかしら。あの表情、まだまだ余裕がありそうだけど」
「え……それじゃあ結構、ビッグピンチ??」
「……なに? その表現……」
……自分たちにプラス要素が一つもなくて動揺したんだと思う。
その証拠によくわからないことを口走ってしまった。
アッシュは競技の度に魔法を連発していた。
眩い光を放ち、MPなんて気にせず暴れた、と思っていた。
それでもまだまだ余力を残しているのが本当だとしたら、どれだけ強いんだ……。
「考えても仕方ないわよ」
「そ、そうだね……。……ん、如月さん?」
「……。ふう、ちょっと心を落ち着かせてた。よし、いこ!! 派手に蹴散らーーッす!」
いつもの如月さんだ。
いよいよだぞ……。
長かったけどついにアッシュたちと戦うんだ。
「手筈通りやるわよ。皇くん、私が細かいところの微調整をやるから、加速、お願いね! 文華は消耗激しいからあの魔法……できるだけ使わないで2人で加速合わせてね。防御に回るとどうしても速度低下するから」
「わかた!」
微調整……。
凍上さんは周囲の心を読みながら臨機応変に対応するという。
ただ、トラックを氷上にしながら周囲のリーディングも行うとなると、かなり負担になるはず。
それでなくても日頃から頭痛がヒドイのに、無理させて大丈夫なのかな……。
「余計な心配しないで。内服もしてるし。今は勝負のことだけ考えて」
「あ、うん……」
2人が俺の足に魔法輪をかける。
これで固定がなされた。
数分後には……勝負が決まっている。
もう無駄な会話はいらない。
2人ともそれをわかっているだろう。
「それでは最! 終! 競! 技! 三人四脚……!! 全長およそ3000mのコースには色々な仕掛けがありますが、チャチな説明必要ナシ! トップでゴールテープを切るべし! 切るべき! いきます!」
3……2……1……
これが僕の……僕たちの走りだ!!
「せーの……!」
GO!!
「《アクセルターボ》!」
「〘颯舞〙!」
2人の加速でスタート直後は文句なしのトップだった。
ただ、僕は真ん中で如月さんは右側……。
この勢いで進むと左側の凍上さんにかなり負担がかかる。
そこで、凍上さんの氷で位置を固定しながら、如月さんの魔法で、凍上さんの背中を押してフォローする。
それだけでも踏ん張らなくてはならない力を軽減できるのだ。
凍上さんの体はひんやりしていて柔らかい。
僕は離れないようしっかりと肩を抱き寄せた。
地面に氷を張って滑るのはまだ早い。
あれも速すぎるが故、他チームからヘイトをかいやすいし負担もかなりでかい。
消耗を考えるとなるべく温存したいところだ。
「トップはスタートダッシュに定評のある白1−1、皇チーム! 大半のチームがバフをかけているため、バフなしのチームはここで差をつけたいところ! しかしバフなしでどこまでやれるのか! 続いて黒3−4が後を追う! メンバーは
アッシュたち……強化を怠ったのか?
いくら村富さんでも全ステータスを強化するのに時間がかかるはずだったんだけど。
「門音魅紗緒の魔法で、対象のステータスを模倣できるというのがあったはずよ!」
凍上さんの大声が辛うじて聞こえた。
「……あー、そうですか、はい! えー……、確認したところアッシュ選手にしかバフはかかっていないとのことです! それで早かったんですね。……しかし2人にも速度系のバフがかかっているような速さですけど……。え、な、なんと門音選手の魔法⁉ 対象のステータスを模倣……!! それを両脇の2人にかけていると……。ははぁ……ヤバいですね……。そんな強力なメンバーを集められる、さすが英雄の孫!!」
なっ、ステータスの模倣だって⁉
ってことは……アッシュ3人と同等……⁉
村富さんのバフばかり意識してたせいで、門音さんを舐めて……いや、舐めてはいなかったけども。
凍上さんは前にそんな俺を怒ってくれたけど、確かに無知って怖いな。
しかしもっと怖いのは……、黒3−4。
四天王2人のチームはまだ前に来ていないし、あの謎の3人もそれ以上に凄腕で厄介なのか……?
クラス全員が1000ptを寄付してもなお勝てると見越したメンツ……。
どれほど驚異なのか全くの未知数……。
初めてみた黒組の3人のことは記憶にないから他の競技で目立っていなかったはずだ。
この三人四脚に賭けているということなんだろうか。
ガシッ
「いでっ!」
凍上さんに左手グーで小突かれた。
きっと余計なことを考えすぎてたからだ。
ゴメン、凍上さん……僕の悪い癖だ……。
「先頭集団はその3チーム! 他のチームはあえて後ろを走って
何だって?
こんなトラップがあるなんて聞いてなかったぞ。
これも全て校長の仕業なのだろうか。
「足を止めないで! そのまま行くよ!」
やはり走りながらだと隣にいても声が聞き取りにくい。
それほどスピードが出ているのか、如月さんの暴風が原因なのか……。
「……【フリーズレーン】!」
凍上さんは人工芝の上にうっすらとした氷を張った。
氷を張ったらそこでは足を動かさずに滑る、と事前に決めていた。
しかしこの薄さ……乗ったら割れるんじゃないか?
……と思ったら大丈夫、超丈夫。
凍上さんこそ疲れてる筈なのにホント凄いよ。
やっぱり氷の精度も日に日に上がってるし。
シャーーッ……タッタッタッタ……
面倒くさいと思われたトラップを容易に回避できた。
「白1−1皇チーム、トラップを凍上選手の氷で回避! 難なくクリア! 未だ首位独走中です! 続いて黒3−4白山チーム、トラップをものともせず通過……⁉ なんとトラップが発動しませんでした! うまいこと作動しないところを通ったんでしょうか? 続いて白1−1アッシュチーム、こちらも通過……? ト、トラップは発動しましたが全く動じない……。どうなっているのか? おっと、黄1−2が凍上選手の作った氷の上を渡ろうとしている!! 大丈夫なのかー⁉ だーー! やっぱり割れてコケたー! 氷は既に溶けて脆くなっていた模様! 黄を避けて灰色、水色2チーム、緑……と続くがトラップにかかるかかる! 本来ならこれが普通です! 先頭集団の方が変です! あ、変って言っちゃった……」
今のところ1位だけど、四天王チームは影を潜めていて何もしてこない。
逆に怖い。
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