第61話 敗軍之将(はいぐんのしょう)
♠アッシュside♠
「さて、手筈通りやんぞ。2人共バフよこせ」
「はいよ! いくぜツッチー!」
「よし、同時に行くぜサメジ!」
コイツらのバフは村富の
一応、役には立つ。
この大会の肝は、〝上級魔法以上使用禁止〟だ。
だからバフが必須になってくる。
不本意だが初級・下級系の魔法を上級並に引き上げるには少しでもバフの恩恵は得ておく必要がある。
三人四脚用に【
「よし、気張れよ馬ども」
「各馬、バフやら強化やらがかかって、まるで闘牛の様に血気盛んだ! さあ、はじめに仕掛けるのはどこだー⁉ 水色2−1! 早速仕掛けたー! 馬のパワーで押していくスタイルだ! 赤1−4に体当たり! 凄い勢いで飛ばされたがまだ崩れていない! そこへ桃3−1、体勢を整える前に
「巌、あっちだ、あっちに向かえ。止まらなくていい、走り抜けろ」
ちょうどいい。
下位同士がやりあってるのなら現状の
「【グランテイル】……!」
一時的に地形の歪みを引き起こし、エリア内の対象へ地形酔いを起こさせる下級魔法。
デバフじゃねぇが範囲内にいれば必中……効果はどうだ?
「「「うぐあ!」」」
「「「うぷ……」」」
ほう、効果も効果範囲もそこそこ上がっているな。
つっても相手がカスなら余裕か。
やり合ってる真ん中を素通りし、2チームの鉢巻をもぎ取る。
「そうこうしているうちに白1−1が2チーム沈めたぞー! さすが1年主席……! 紫2−3、«風魔法»を連打! 体勢を崩しにかかる……が桃3−1は耐性を上げているのか効いていない! 灰3−3、フェイントを入れながらヒットアンドアウェイ作戦かー!?」
ケッ……、どこも大したことねぇな。
「こ、ここでついに動いた……!? 黒3−4!! 四天王で固めた騎馬……反則並に次々と他の騎馬を落としていく……! 溶ける溶ける!! 表現としては一番最適な言葉!! すれ違った騎馬は成す術なく崩れていくー!」
そういやぁ、まだ骨のあるヤツらがいたな。
四天王、東、北栄、西之、南芭か……。
クソムカつくことにヤツら3−4の優勝はもう決まっている。
だが体育祭は個人競技じゃねぇんだから仕方ねぇ。
そういうことじゃねぇんだ。
俺、個人が負けねぇことに意味がある。
ヤツら相手に【七光】なしでやれるかどうか。
だが、タイマンすんのは正直ダりい。
先に沈めてえな。
「巌、ヤツらにちょっと寄せろ」
「…………」
MA内を前方に尖らせ、ヤツらが範囲内に入ったことを確認し魔法を放つ。
「【ダークストール】」
【
「む……ふん、デバフか。どこのどいつだか知らんがそんなものは俺には効かん!
チッ、脳筋め……。
そんな誘いに乗るかよ!
「【サンダージェイル】!」
雷属性の中級魔法、サンダージェイル。
高電磁場の壁を作り対象を閉じ込める。
無理やり出ようとすると感電し速度低下、スタンしやすくなる。
「なんだこりゃ、電気の檻……?」
「どうやら熱烈なファンがいるみたいだネ」
「ぐ、ヒガシ! どうすんだい!」
「こんなもん……、力でどうにかなる」
でたでた……脳筋の考えそうなことだぜ。
なら、もひとつブチかます。
俺は隠し持っていたクリップを針状にして投げつける。
ズシュッ
狙い通り、脳筋の腕に突き刺さる。
「【ライトニングソード】」
サンダーウォールのエリア効果を得て【ライトニングソード】のダメージは倍増する。
ビシッ……バリバリバリ……
「グヌオッ……! お、お前ら大丈夫か……?」
「何言ってんだい! 伊達に番張ってないよ!」
「ちぃ……、オレっち電気系は苦手なんだよ……」
「僕は«雷単»だし楽勝ネ。でも壁を破るには絶縁系の属性があると簡単だ――って、ヒガシには聞こえないわナ」
「こんなもの……! ウオオオ! 【マチスモ】……!!」
ガリガリガリ……!
な、何だコイツ……、【ライトニングソード】を痩せ我慢した上に【サンダージェイル】を自力で破りやがった……!?
ただの脳筋番長じゃねぇのか……?
仕方ねぇ、【七光】きゃねぇか。
「あ、アンタらだね? こんなチョコザイな邪魔してんのは! アタイらに喧嘩売って、ただじゃ済まないよ!」
「おいモルゲン……。バレたぞどうする」
「ハッ、もう知らねぇ。本気で仕留めてやんよ。俺はなぁ、俺より偉そうなやつが嫌いなんだよ!」
両手を前に出す。
「秒で終わらせる。……【七光】」
眩い光が俺の騎馬を包む。
「オホ! 西之が相手した時の状態になったネ」
「流石にありゃ折れるぜ……」
「……アタイら4人なら問題ないだろ?」
「間近で見るとこれほどまでとは……。……【グランドウォーリア】!」
木偶の坊がバフを張ったか?
ならこのデクボーが張ったバフを割れば俺の勝ちか。
見てろよこのカス野郎が。
上級スレスレの高出力魔法で粉砕してやんよ。
「いくぜ……【ペルセプション】!」
ドドン……!
「ぐぬう……!!」
「一年主席、アッシュ=モルゲンシュテルン選手! 最早、魔法の威力は上級を超えているんではないでしょうか! 実際は中級の光魔法でしょうが……。それを受け止める3年総番長、
……思いの外、粘りやがるな……。
だが、
もう一発撃ちゃ倒れるか。
「おい巌。しっかりやれよ」
「……」
しかしコイツら、クソ不良にしては根性あんな。
やっぱ魔法っつーのは見た目じゃ判断できねぇから、いちいち滾らせるんだよな。
ここまでくりゃ先輩も後輩もねぇ。
やるかやられるかだろうが。
ま、百に一つもねぇ。
俺がやられることなんかな。
「このまま押し切んぜ。【ペルセプション】!」
「ヒ、ヒガシ! アンタはもうこれ以上受けられないよ! 一旦退避だよ!!」
「お……こ……、…………げ…………ない……」
「は? なんだって!? おこげ!? 何言ってんだい!」
「おとこならこれくらいでにげるわけにはいかない」
「おーっと渾身の2発目!! よくもまぁ、高出力魔法をポンポンと撃てますこと……。それよりも総番長はもうギリギリだ!! これを受けるのか!?」
ドドン……!
「な、なんと受けたー!! 背中も見せず100%受ける意志!! 南芭選手がいてもなお、放たれた魔法を受け切る漢気を魅せたーっ!!」
バチチバチチ……
「……すまん、お前たち」
「ふん、いいよ。……全く、南芭に任せればまだ余力残せてヤれた筈なのに。けどアンタが決めたことだから。アタイらにだけバフをかけて、アンタ自身は気力だけで耐えるとか相当バカなんだからね」
「全く、番長ってのはそんなに見栄を張らなきゃいけないものなのかネ」
「守ってもらわんくても2発くらい耐えられんだろ。そこまでしなくちゃ番長のメンツってのは保たれないのかね……。俺らはそこまで弱かないんだがな」
「な……、なんとヒガシ選手……!? バフをかけたのは味方だけで、自分は素の状態であの中級魔法を食らっていた!? 3人は無傷……!! 味方を守る、これが総番長の在り方だ!!!」
なんだ……と?
俺の【ペルセプション】2発を素で耐えきっただと……?
フ……フハハ!
まるで、やろうと思えばもっと善戦できたと言わんばかりだな。
ま、こうでなくちゃ楽しくねぇよな!
まだまだヤリ甲斐があるってもんだ、フハハ!
「アッシュ、すげ……あの優勝候補……いや、優勝確定の黒を倒すとか……」
「見事だねぇ……んじゃま、満身創痍の彼らにケジメを……ってね〜」
「…………」
「ヒガシ選手、完全に沈黙! 圧倒的な強さで黒3−4を倒した白1−1アッシュ選手たち! まだまだ余力を残しているのか? 動かない騎馬に手をかけようと迫る!」
あの女……、まだ何か狙ってやがるな。
タダで鉢巻を寄越すって感じじゃねぇ……。
「【ブルーバード】!」
……!!
コイツ……やはり狙っていやがったか!
俺は見えない何かの気配を察知しギリギリで躱す。
【七光】を解除していなくて正解だったな。
「チッ、あーダメだ。アンタたち、もう諦めていいかい?」
「……仕方ないネ。ヒガシに続いてキタエもダメならもう、この布陣で出来ることはないネ」
「しゃない。なんかうまいことやられた感じだが、タイマンならもう一度やりたいぜ」
……この男……。
「先輩はまだそんなことを言ってるんですか? アレだけ力の差があったにも関わらず――」
「……オイ……テメェ。覚えとけよコラ一年……。先輩に対しての言葉遣いに気をつけろ。確かにあん時ゃ俺は負けを認めたがあれは競技だ。
「あーもう西之、アンタウザい」
「な、う、ウザ……?」
「持ってきな。これきりなのが残念だ。ホラ」
そう言って女は鉢巻を外して渡してきた。
「……もういいんですか? その様子だとまだやれそうな気がしますが」
「
「そうですね。いい勝負でしたよ」
ドドドン!!
ウオオオオオ!!
「タイムアーップ!! 決着ー!! またしても白1−1が黒3−4を破りました!! 1年が3年に2度勝つということは、5年前以来の快挙だそうです! これが英雄の孫、アッシュ=モルゲンシュテルン!!」
「いやー……、ほんとアッシュは外面がいいからびっくりするよな。俺も本性を知った時には――」
「おい、サメジ! 聞こえるぞ」
「聞こえてんだよコラ馬。いいかお前ら、バラすんじゃねぇぞ。学校に来れなくなるぞ」
「あ、ああ……、はい……」
「だから言ったろ……」
「……モルゲン、これでいいな?」
「ああ、上出来だったぞ巌」
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