第60話 二者卓越(にしゃたくえつ)
AMAが展開され、競技者がそれまで使用していた魔法は一気に消滅した。
しかし如月さん……、いくら部長に憧れてるからって突っかかりすぎだよな……。
「……ホントそういうとこだけ鈍感なんだから。ま……文華自身も嫉妬に気づいてないっていう……」
凍上さんは何かをつぶやいた。
凍上さんもヒヤヒヤだったのだろうか。
「それでは魔法で判定しますのでカゴをおろしてください! 審査員の方、各チームのカゴを判定してください」
♦如月side♦
「やってくれたのう……風ちゃん。甘くみとったわ。まさかこれほどとはの。外から入れられんなら直接、中に入れたろ
「転移魔法対策……ちゃんとしてたんで。これで少しは見直しました?」
「見直すもなにも、アンタは強いで。〖禁呪書〗の魔法を使いこなしてるんやから」
「……!」
「あー、安心しなはれ。皇はんにちょろっと聞いとったからの。ま、誰とは言ってなかったんやが……ウチからしたら一目瞭然やわ。そしてアンタの強みは、『強固な意志』やな。その性格、元は攻撃タイプやったんちゃう?」
「え? ま、まぁそうでしたけど」
「それで〖禁呪書〗の代償で攻撃魔法が使えなくなった……、違うか?」
「……なんでもお見通しってことですか」
「攻撃が使えんくなっても、気持ちはそう簡単に変わらんよな。ウチも攻撃特化やったんでわかるわ」
「センパイ……」
「球を入れさせんくしたのは囮……。目くらましに風の音で誤魔化すなんて……機転もきいてるし中々できるもんやない」
この人、ホントは良い人?
「結果がでましたー! 得点表をご覧ください!」
「……でもなぁ風ちゃん。勝負に負けて試合に勝つ……やで。そもそもウチ、風ちゃんとタイマンするなんて言ってないからの!」
「え……? ……な!!」
「いやー、持つべきものは強いクラスメイトってな。攻撃特化集団なもんでこの競技にかけとったんや」
♠皇side♠
各クラス得点の増減はあるものの、部長率いる2−1は減がなかったわけで……他のクラスから奪うことに専念できたわけか……。
「1位、黒3−1! 増減込みで260点! 2位、水色2−1の減はなしで……210点! 3位、白1−1! 増減込みで185点! 4位……」
うちのクラスが3位に食い込めたのは、カゴ役を操って点数をガッツリ稼げた門音さんのお陰か……。
むしろ凄いのは2−1……、何よりもチームワークがヤバイ。
自分たちのカゴに球が入れられない状況を瞬時に判断して210点取ってるんだもんな。
単純計算で2倍入れなきゃいけないってことだし……。
しかも虎視眈々と最後の1発を狙ってる人がいたっていう。
……部長の最後の転移魔法が決まってたら断トツで1位だったよな。
恐ろしい……。
「あ、文華が戻ってきた。ほら、皇くん」
「え、え? えー……」
僕にどうしろと……。
部長との勝負には勝った感じがしたけど、結果的に点数では負けちゃったよな。
でもこれは如月さんのせいじゃないし、むしろ点数を離されなくて済んだ気はする。
「ただーま。なーんか結局上手くいかなかった。あの人から称賛されても点数離されちゃ意味ないよね……」
「そ、そんなことないよ……?」
「…………」
ゲシッ
「痛!」
凍上さんが横から肘で脇腹を突いてきた。
結構強めに……。
「なんでこうもフォローが下手なの! さっき思ったことを素直に言えばいいのに!」
小声で
思ったことってったって……。
「あー……で、でもこれは如月さんのせいじゃないし、むしろ点数を離されなくて済んだ気はする……かな」
「……、ほんと? ……ありがと……」
グッ( ̄‐ ̄)b
凍上さんは親指を立ててみせた。
……これでよかったのかね……。
「さぁさぁ……残り3競技、続きまして仮装リレーです! 出場選手は入場門まで集まってください」
ここにきて仮装リレーか。
こんな終盤にやるくらいだからきっと、点数とかも高いに違いないな……。
「よっしゃー! ウチのメインディッシュやで! 気合入れたるさかい!」
ま、また部長……。
メインってことは……ここが本気⁉
今までのはまだまだ序の口なのか……。
「……サカちゃん……。せめてこの競技だけでも一緒だぜ……」
あ、ヒガシ先輩……。
部長の姿を見て涙目になっている。
ここまで露骨な人も珍しいよな。
でもこれはこれで純粋ってことか。
えーと、他に知ってる人は……。
あの人……、確かギル……なんとかさん。
きらびやかなオーラの人だ。
そんな人が仮装リレーなんて……?
あ、あれか……ランダム競技の方かな。
「それではお待たせしました。選手入場です! 同時に仮装リレーの説明を行います! 選手の方たちには事前に衣装を用意してもらっています。その衣装は箱に入れられていて、ランダムでその1つを選び、コース途中の試着室で着替えてもらいゴールするだけ、という簡単なものです。確認したところ……着るのが大変そうなキグルミ、着物なんていうのもありましたね……。大丈夫なんでしょうか! さあ間もなくスタートです!」
これまた今までにない競技内容だな……。
普通は着替えた終えた状態で走る……って感じだったと思ったんだが。
まぁこれはこれで楽しいかもしれない。
あ、また部長がいるんじゃ一瞬でゴールするオチだろ……。
あの人がトップになるって目に見えてるじゃないか。
「それでは全選手、位置について……よーい!」
パン!
「さあスタートされました。衣装ボックスに入っているモノ次第……っていう感じもしますが、いかがでしょうか。簡単なものならすぐに着替えられますが……、1人じゃ大変なものもあったという報告があります。大丈夫ですかね……。おっと、ここでギルフォード選手が真剣に衣装ボックスを選んでいるー! あ、しかし彼はアナライズをほぼマスターしていますから中身を確認することなど容易いはず! 確かに魔武学一のファンクラブを持つ彼が変な格好をすることになるのは避けたいはずです! ……と、決まったようです! 1つを持って試着室へ駆け込んだ!! さぁ、他の選手も次々と選んで試着室へと入っていきます!」
自分のしたい格好ができないなんて……結構キツイことになりそうだ。
まぁ中身がわかる人もいるなら安心だろうけども。
「おーーーっと、逆井選手……、着替えるのが早すぎる! そしてもはやコスプレです! めちゃくちゃ似合っているぞ! 自分で用意した衣装のようにぴったりだ! いや……どうやら自分の衣装のようです! ……でもなんで自分の衣装とわかったのでしょうか……。……あ、転移魔法! まさか自身の衣装に永続魔法でゲートをつけておいて、取り寄せたのでしょうか……? なんという執念……。そしてあえて転移魔法を使わずにゆっくりと走って! 自分の格好を皆に見せている……! なんというあざとさでしょうか!」
「くっ、逆井光め!! 私をこのような格好にさせるとは!!」
げ……!!
ギルなんとかさんは怒りながら凄い格好で試着室を飛び出してきた。
「「「きゃー! キャーーッ゙!!」」」
女性たちから悲鳴が聞こえる。
「へへん、ギルぅ。【アナライズ】なんてそないなズルいことせぇへんで男ならバシっと決め――……。……ククッ、存外似合うやないのwww」
悲鳴の正体……。
ギルフォードさんは、なぜか白い下着を1枚しか履いておらず、その下着を伸ばして顔を隠している。
これでは正直、『仮面をかぶった変態』の皮をかぶった変態以外の何者でもない。
……僕は何を言ってるんだ……。
「ギ、ギル様は……紛れもなく私たちの目の前にいます!! どんな格好をしていても! 誰がなんと言おうとギルフォード様なのです!! 目を背けてはいけません!! 棄権をせずにきちんと衣装を着て出した答えがここにある!!」
「く……、では貴様のそれはズルではないというのか!!」
「えー、だってウチ、オタクやし……、好きな格好したかってん。ええやろ?」
「な、なんて勝手な……! 最早このような醜態、いつまでも晒しておくわけにはいかぬ!」
そういうとギル先輩は猛スピードでゴールを目指す。
だが部長はゆっくりと走って周囲にアピールしている。
……本気とはこういうこと……、自分に正直なだけか。
結局、1位はギルさんで、部長はビリだった。
それにしても、わざわざあの格好を見せたいがために仮装リレーを選んだんだろうか。
*
「さぁ……いよいよ待ちに待った騎馬戦です。今年は最終競技ではありません! ラスト2です!! 準備はいいですか!! 悔いは残さないよう全力で挑んでください!! それでは選手の入場です!!!」
もうあと2競技か…。
だいぶ
時間が経つのは早いもんだ。
あ、アッシュだ……。
「もうじき……お前のドン底が見られるんだなぁ……。ウズウズして騎馬戦を最速で終わらしたくなるぜ……」
「……確認するけど、僕らのチームが1位じゃないとダメなんだよね? 君らに勝つだけじゃダメなんだっけ?」
「いちいち五月蝿ぇな……。俺らに勝つってことは1位ってことなんだよ。ボコすぞ」
……。
「いいか、〖盟約血書〗は勝負が決まったと同時に行使される。ってことはお前が俺らに負けた瞬間、あの2人の記憶からお前が抜け落ちる。わかったら最後に挨拶でもしとけ」
……。
半年間しか経ってないけど、色々あった。
だけど……、ここで終わるようならそれまでってことだ。
どんな結果になるかわからないけど、負けてもまた思い出を作っていけばいい。
僕は僕なりに……、勝負をしよう。
「それではお待たせしました。学校長、お願いします!!」
え、校長……?
どういうことだ?
「
ウオオオオオッ!!
校長がわざわざ始まりの合図をするのか……。
「はじめぇぇぃ!!」
うちのクラスは巌くん、鮫島くん、土山くんが騎馬、その上にアッシュが騎乗する。
自分の競技ではないとはいえ、さすがに緊張してきた……。
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