第59話 起死回生(きしかいせい)
*
午後の競技の一発目は『玉入れ玉逃げ』という競技だ。
如月さんが出るので応援席に来ている。
「あーあー、入ってます? あ、はい。それでは午後の部、再開します。その前に二条花楓による
へー…、体育祭とかでたまに演武とか殺陣があるとは聞いたことがあったけど生徒1人だけでやるのか。
……!!
そこには……炎を
その炎に……その場の全ての人が声を出さずに魅入っていると感じた。
炎天化の世界でも、こうやって大っぴらに«火魔法»を使う人がいるんだ。
部長は自分でも異端扱いしてたくらいだからな……。
«火魔法»の使い手は肩身が狭いんだもんな。
根強い負のイメージってやつか。
「ありがとうございました。二条花楓に拍手をお願いします」
ピイィイッ!!
「カエデちゃ〜ん♡ かわいい〜」
「凄かった! カッコよかった!」
「凛々しいー! ギャップ萌え!」
そうした声は聞こえてくるが、«火»に対しての発言は全く聞かれない。
やはり炎天化現象のせいで«火»のイメージはあまり良くない世界なのだろうか。
「えーと、それでは午後の部が始まります。玉入れ玉逃げに参加する生徒は入場門に集まってください」
如月さんは僕を見つけるなり声をかけてきた。
「ホッくん! やってくるぜっ! まぁ見ててよ!」
「うん。……!」
その奥に白のハチマキをした生徒が見えた。
あれは門音さん……。
アッシュと三人四脚で同じチームの子だ。
無口だが成績優秀で自分の意見をハッキリ言える強い人……という印象。
出場者で知ってる顔といえばそれくらいかなと思っていたら――。
「皇はん。ちゃんと
ベチン!
「いたっ!!」
そう言われながら背中を強く叩かれた。
部長……。
「ナ、ナデナデ関西……! 先輩〜、またしても一緒の競技だったんですね! つくづくご縁がありますねえ!」
「今回はおもろい勝負を期待しとるで風ちゃん。ウチをガッカリさせんといてな」
「あらー、期待に答えたいと思います♪」
この水面下での攻防……。
なんかここの学校の生徒は……ホント血の気多いよ。
「今年から始まった『玉入れ玉逃げ』! ちょっとわかりにくいかもしれませんが競技説明です! まず、各チーム全員がこの後クジを引きまして代表を一人選んでいただきます。その方たちは、自チームの〝カゴ役″となります。そしてこれがカゴです」
……へぇ。
カゴとは言ってもまるで壺みたいな形だな……。
普通に投げ入れようと思ってもかなり入りにくいぞ、コレは。
「中は見えないですので、何色のボールが入っているか外からは見えないですね。そしてカゴの色がそれぞれのチームのカラーとなっています!それに向かってボールを入れていくんですが……、試しに地面に落ちている白いボールを手にとってみてください。掴んだ瞬間に自分のチームの色に変わります」
なるほど、自分たちは白チームだから色は変わらずってことね。
「それを自分のチームのカゴに入れると2pt、そして……他のチームのカゴに入れるとそのチームの点数、1ptを横取りできます!! 注意点ですが、カゴ役の方は魔法を使って逃げたり仲間をサポートすることは出来ますが、地面のボールを拾って自分でカゴに入れることはできません!」
そんなことする人なんていないんじゃないかな……。
拾ってる間に敵から入れられちゃいそうだし、リスクが大きい気がする。
「そしてそして……地面にあるボールは頻繁に魔法で補充されますので終了するまで気が抜けません! カゴには大体100個以上のボールが入ります。一応言っておきますが……カゴは硬化魔法を重ねがけしてますので強度MAXです! 他のチームのカゴを壊そうとしても無駄です! それを踏まえて……やってまいりましょう!! 間もなくスタートです!!」
触るとそのチームの色になるとか……やっぱ魔法は凄いな。
パソコンの授業で習ったエクセルの関数に似てる気がする。
セルに決められた数字が入るとその色になるとか……だったっけか。
しかし説明聞く限り、点数の変動がかなりありそうな競技じゃないか?
アッシュはこういうのに参加すればよかったのに……。
それでも三人四脚や騎馬戦を選ぶってことは、これ以上に点数が取れるのだろうか。
♦如月side♦
あたしは弱い。
人間そんなに強くなれない。
周りが言う「文華は強い」ってのと、あたしが思う「強さ」は全然違うと思う。
確かに足はそこそこ速いし、魔法だって他の同年代の女子からしたら多彩で威力っも強いほうだ。
……まあ今は攻撃魔法が使えないけど。
だけど……、自分の弱さは知っている。
見栄を張っているだけだから。
あたしが欲しがっているのは精神的な強さの方だ。
本当の強さってなんだろ。
相手を圧倒する力なのかな。
誰かを守りたいと思う心なのかな。
まだそれが……、あたしにはわからない。
「この人に……。ナデナデ関西風に勝ったらわかるかな……」
声に出して言ってみる。
……それだけでハッキリとわかった。
強さがどうとかじゃなく、今はこの人に……この先輩にただ勝ちたいと確信したんだ。
あのデタラメな強さに憧れたわけじゃない。
あの力を使いこなし、絶対的な自信を持つ周りを圧倒させる存在感。
だからこそ、あの人に一泡吹かせたい……。
あたしがただの風使いじゃないってこと、証明してやる。
♠皇side♠
うちのチームの代表……カゴ役は門音さんか。
体の半分くらいある大きさの籠を抱えているぞ……。
大丈夫なのかな。
……あ、部長もカゴの係か……。
なんか嫌な予感がしてきた……。
いや、嫌な予感しかしない。
「代表が決まりました! それでは代表者だけ自陣とは逆
「先手必勝……!」
如月さんはスタートの合図と同時に飛び出した。
あの感じだと、味方のカゴ役である門音さんのところまで猛ダッシュするつもりなんだろうけど……。
MA展開後の暴風のせいで落ちてる球が転がっていっちゃう……。
あれじゃ自分も味方も球を拾えない。
どうしようとしてるんだろ。
風の防御魔法しか使えない如月さんが仮に、門音さんを対象に魔法を使ったとしたら……。
敵の球を防げたとしても、自分たちの球も入らなくなってしまう。
どうするんだろ、作戦がわからない……。
「敵チームの妨害に徹するつもりらしいよ。今のところ」
「凍上さん……」
「
「ん……じゃあさ、なんで門音さんのところに向かってるの?」
「うちらのチームのカゴ役はそこまで俊敏じゃないしバトルタイプでもない。だから文華が護衛……。この競技、かなり難易度が高い。もしカゴ役がスタンしたりバインドにかかったりしたら玉を入れられ放題だからね。まずは自陣付近までカゴ役を運んでその後に1位から3位の陣地周辺で暴れる……らしいよ」
「なるほど……。カゴ役が大事なわけだ。みんなしっかり守るわけね」
「入れさせないようにするだけなら文華1人で大丈夫だと、思うんだけどそれだと味方の球も入らないから……。それに……因縁の相手がカゴ役っぽいしネ……」
「因縁……?」
「逆井先輩だよ。文華も変に意識しちゃって……」
……?
なんでまだ知り合って間もないのに因縁の相手にまで発展してるんだ?
そこはよくわからないが……。
「おーっと、次々と味方のカゴ役への援護が始まる!! 大抵のところは魔法障壁と魔法耐性……、攻撃や補助とかと思われます。赤1−4はカゴ役が支援系! バフをかけて自陣まで走り切る! 他チームからの攻撃を躱す!! 桃3−1は支援なし……⁉ 支援がなくとも味方チームはカゴを目掛けて投げ入れる! そんな遠くから入るわけ……⁉ 入る入る!! ホーミング機能でもあるの? その距離から次々球をカゴの中へ入れていく! 赤1−4は……? どうしたんだ! 自陣付近で動きが止まったー!! ヤバイぞ! バインドでも食らってしまったのかー!」
「【
「おっとー、これは! 白1−1、門音選手の
バインドだけでも高等魔法なのに、それ以上に人を操れるのか……。
ヤバ……。
♦如月side♦
「カゴ役さえ自陣に送り届ければあとは……、
個人的な感情に左右されるのはあまり好きじゃないんだけど……、何かやらなきゃいけない気がする。
嫌がってたホッくんに何度もちょっかいを出してたし……。
でもそれ以上に、あたしの前に何度も立ちはだかる巨大な壁って感じ。
舐められっぱなしは性に合わないからね。
ホントは三人四脚までとっておこうと思ったんだけど、あの人相手にこの魔法を使いたい!
いた、あそこだ!
あの人は特に何をするんでもなく、自陣に向かってただゆっくりと歩いているだけだった。
……マジで舐めてる。
自分の魔法の力に溺れてるとしか思えない。
あたしだって転移魔法が使えたら……、こんなに辛い思いなんかしなくてよかった。
それなのに……、神様は不公平だ。
「……【
この魔法は凝集された気圧を
これをあの人に!
ビュゴオオオォォォ
「……むぉ、なんやこれ!?」
これはバフ扱いだから魔法耐性関係なく必ずかかる。
「センパイ、どうです? これで敵からの球は防げますよ。……自分たちの球も入らないですけど」
「お、風ちゃんやん。ウチのことそないに好きなんか? こないな
「……まぁそれを支援と思ってるなんて、ちょっとユルイですね。センパイ?」
「……、これアンタ……障壁なのに持続回復もかかってるやないの。……しっかもドエグい回復量やで? どんだけウチんこと好きやねんな。そっちの趣味はないんやけど……」
「……それは勝手になっちゃってるだけなんでお気になさらず。あたしもそんな趣味ないですから」
「ほぉん。……ま、ええよ。ほなら残り時間まで安全に過ごさせてもらうわぁ」
そういって関西風はあぐらをかいて座りだした。
どんだけユルイんだろ、この人……。
正直なところ、この作戦はある意味〝賭け〟だった。
水色2−1はナデナデ関西率いる手練の集まり。
転移魔法が使えるあの人はやろうと思えばどこへでもワープして、味方の球を入れやすい位置に移動できる。
だからこそ、あえて【大気晩星】を張れば味方の球を入れることができない。
これ以上点数を離されるのは嫌だし。
さすがに水色2−1も予想外な出来事に違いない。
水色が他のチームから点数を奪うのはもう、防ぎようがないからそれは諦める。
でも得点も2ptとかじゃないし、これで加点を大幅に抑えられるはず。
チリーン……残り30秒ですー!
「お、もうじき仕舞いかー。いやー、カゴ役は球に触れられんし直接入れるんは反則やからな。だがの、いくらカゴ役が直接球を入れらんのうても、こういうやり方があるんやで」
残り時間30秒を切ったところで、ようやくあぐらをかいていた部長が立ち上がる。
水色のチームメンバーの1人が隠れて球を集めていたらしく、その人の近くにいって合図をする。
関西風の合図で集めていた球を地面に落とした瞬間、転移魔法が現れた。
「悪いな風ちゃん。ウチがカゴ役になったんはタダの運、運がよかっただけや。これならウチが直接入れたわけじゃないんでの。点数ボロ儲けや。この魔法障壁のお陰で他のチームからもpt取られんかったし、ホンマ――」
「最後の3秒にかけてたんで……」
「……え?」
「【オーバーフォロー】!」
ビュゴオオ!
「な、なんやて……⁉ カゴの中に風を仕込んどったんかいな!」
カゴの中にこっそり忍ばせた風を霧散させ、球を全部吹き飛ばすことに成功した。
「【
ピッピー!!
「試合終了!! そこまでです!」
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