第57話 外柔内剛 (がいじゅうないごう)

アッシュの力……ハッキリ言っておかしい。


 恐らく、四天王と言われた1人の力量も相当なものだと思うけど……。




 2学年の差は全く感じられなかった。

 寧ろアッシュにはそれ以上の力を感じた。



「はぁ……。あんなのと勝負するのか……」



 本気の力を目の当たりにし、改めて溜息がでた。

 負けた後の学校生活が容易に想像できる。



 ……もう考えないようにしよう。


 でないと……、本当に心が折れそうだ。



「あれがアシモの本気か……」


「主席、筆頭と言われるだけの所以ゆえんはある」



 気づけばまた2人が隣にいた。



 僕はアッシュの戦いに魅入られていたんだろうか。

 2人が隣にいることに全く気付かなかった。



「ふーん……。ま、よかったじゃん。1対1タイマンじゃなくて。ね♪」



 ポ、ポジティブだ……。



「あ、でもそうか。三人四脚の2人って……僕からしたら可憐な二輪の華だけど、アッシュからしたら二つの鉄球になるのか。1人だけ凄くてもきっと他の2人がついていけないよね?」


「カッ、可憐……⁉」


「皇くん……、アッシュさんの三人四脚のメンバー、知らないの?」


「可憐……」


「うん、知らない……。そう言えば気にしてなかった」


「2つの鉄球……? 何言ってるの。1人は«闇単»の呪術使い、門音美紗緒かどねみさお。もう1人は+%プラパーバッファー、村富愛美よ」


「んげ⁉ 村富さん⁉」


「さっき見たアッシュさんのあの状態にバフがかかるとどうなるか……全く想像できない。何も知らないで呑気なこと言ってられないよ」


「ご、ごめん」


「まあでも三人四脚は攻・守・走がバランスよく全部ないとまず勝てない。今更だけど」


 バランスよく……か。


 如月さんが守になった今、凍上さんは攻と走……、ある意味バランスがいいと言える。


 ……って僕はなにができる……?

 これじゃ他力本願か……。


 自分の無力さに涙がでそうだ……。



「巌さんが戻ってきた」


「……アッシュのヤツ……、何が「死ぬ気で守れ」だ。団体競技を無視しやがって……。少しは年上を敬え……ったく……」



 ……何をブツブツ言ってるんだろ。



「ああ、今戻った。結局奴らだけで盛り上がってたようだがな」


「お、お疲れ様……。巌くん、大丈夫?」


「モルゲンシュテルンは西之にしのという3年に触発されて暴走したと言ってもいい。当初の予定と大分違ったからな。点数が入ったから良しとも言えない」


「そ、そうなんだ……」


 結構怒っているのか、巌くんの表情は険しい。


「とりあえずこの後、休憩を挟むだろ。今のうちにしっかり休んでおいた方がいいぞ」


「そうだね、ありがと。ちょっと喉乾いたから何か買ってこようかな」



「お? なになに? 喉乾いたって? しょーがないなー、もう1種類あるあたしが作った通称、闘神ドリンクを――」


「オッg……⁉ お、お水でいいんだ~それじゃあまた後で~!」


「あ、おい! ホッくん!!」



 凄い勢いで逃げてしまった。

 ……悪いことしたかな。









 自動販売機の場所は何ヶ所かあるが、自分の好きな飲み物は寂れた第2武道館の脇にしかない。


 学校の端っこということでもあるが今現在、部活でも使われていないため人気ひとけが全くと言っていいほどない。


 ある意味、ちょっと不気味でもある。



 ドリンクを買い、戻ろうと第2武道館を横切った。



……。



 ……え、あれ……今声がしたような……。


 人がいないと思っていた場所から声がする……。

 まさかこれが第2武道館に潜む、志半ばに倒れていった生徒の亡霊……!!



 これ以上の恐怖はないが、怖いもの見たさがまさった。



ガラガラ……



 そーっと……ってあれ、やっぱり誰もいない。

 気のせいだったんだろうか。



 扉を締めようとしたその瞬間……。

 地面が頭側、天井が足元側になった。



「え、どうなって……うわあああ!!」



 僕は天井の梁に吊るされていた。



「む……、お前は魔法研究部の1年じゃないか!」



 今度は確実に声がした。


 見上げ……いや、見下ろすとそこにはあのヒガシさんと他に3人いる。

 その1人は見覚えがある……。


 さっきの徒競走で走ってた南芭さんと言われていた人だった。



 ……あれ……?

 もしかして……四天王さん勢ぞろいデスカ……?



「へぇ……、ヒガシの惚れ込んだ女んとこの部員かい」


「もしかしたら僕らの話を聞いたんではないかネ?」


「……おい1年。まさか俺たち3-4が優勝したら生徒会にカチコむって話を聞いてたんじゃないだろうな?」


「え……カチコむ……?」


「おまッ! ヒガシッ!」


「ったく、バカが……」


「ま、僕たちのリーダーはこんなだからネ。仕方ないよ」


「カチコ……む?」



 イマイチ状況が飲み込めない。



「なんだい、そんなこともわかんないのかい! 殴り込みって意味に決まってんだろ!」


「……はぁ、こっちにもバカがいたよ」


「ま、紅一点ってだけだからネ。仕方ないよ」



 ……生徒会に殴り込みって……本気で考えているのだろうか。



「1年……一度ならず二度までも……。どうしても俺の前に立ちはだかるようだな。野望を知ってしまったからには生かして帰すわけにはいかん。ここでその儚い命、散らせてもらうぞ」


「え! 勝手に喋ってきたのに!! ……わ、わ、ワ! ……ングェ」



 吊るされていた状態からいきなり地面に降ろされた……と言うよりも落とされた。



「……っててて……」



 ヒガシさんは学ランの上着を脱ぎ始めている。



「え……⁉ ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」


「……彼はある意味とばっちりだけど仕方ない。観念するといいネ」


「ヒガシ! もうやっちまいな!」



 四天王には良識者はいないのか……!



「覚悟はいいか。【サンセットエゴイズム】!」


 ……っく!!



 ……あ、あれ?



「な……に⁉」



 ヒガシ先輩の放った拳は小さい女の子の手の平に納まっていた。



「3年が1年相手に随分とまぁオイタが過ぎたな」



「く、生徒会長……!」



 あのヒガシさんのパンチを手の平だけで……しかも顔色一つ変えずに受け止めた……⁉


 この人が生徒会長……。



「出たね月詠つくよ! 観念しな!」



「ハァ、お前たち。魔武本開催中にホント、いい度胸だよ。まあクラスにも貢献してるからこれを作戦会議と受け取ってもいいが……。毎度毎度変なことを企みおって……、教育的指導でもされたいのか?」



 四天王と言われる程ヤバい人たちを手玉にとる生徒会長……。

 魔武学は一体どうなってるの……。



「……く……」


「一旦ズラかった方がいいんじゃないかネ」


「何だいそのズラかるって表現は……! みっともないねぇ」


「おい1年。俺は忘れたわけじゃないからな。それだけは覚えておけよ」


「は、はぁ……」


 僕が一体何をしたって言うんだ……。


 四天王は帰っていった。



「ま、付きまとわれるのはもう慣れたんだがな。私と一戦交えることがお望みなのか知らないがこっちはそんなのにかまけてるほど暇じゃないんでな。君もとばっちりで大変な目にあったな」


「あ、いえ……。助けて頂いてありがとうございます」


「うん。礼儀正しい男子おのこだな。ここは魔武イチ、みな内心はおのが一番になろうとするつわものの集まり。わば不良の溜まり場だ。君も気をつけなさい」


「あ、あの!」



 気づけばつい、声を出していた。



「ん、どうしたんだ?」



「あの……『強さ』って何ですか」



 この人ならきっと強さとは何かを答えてくれる気がする……、そう思った。



「ん。難しい質問だな。私が思うに……そうだな。『折れぬ心、倒れぬ体、消えぬ魂』といったところか。強さ、とは人それぞれ認識が違う。そして何に強いかによっても全然違った答えになる。だが、『生きていくことに関して言えば、諦めさえしなければ何にも負けない』、そう思っているよ」



「折れず……倒れず……消えない……」



「長く生きていれば負けることはきっとある。だが、世界に存在さえしていればいつかはその場所に辿があると信じている。そのためには立っていることが必要不可欠なはずだ。これは私の持論。適当に思いついただけだ。こんなものでいいか?」


「あ、ありがとうございます……」


「私は真道月詠しんどうつくよ。魔武イチ生徒会長を務めている。何か困ったことがあったら生徒会に来るがいい、皇くん」


「あ、はい……」



 生徒会長は出入口から普通に去っていった。

 ……なんて堂々として気品のある人なんだ……。


 やっぱりどこの生徒会長もそうなんだろうけど、ああいう人が理想形なんだろうな、きっと。



 ……ん?

 なんで僕の名前を……?

 実は僕って有名人……?w


 なんて……ってどうせアッシュと戦う無謀な男として有名なんだろ……。



 はぁ、戻ろう。









「おーい、皇くん! 何で毎回自分の競技前になるとどっか行っちゃうんだよ!w」


 土山君が血相を変えて走りながらやってきた。


「あっ! ゴ、ゴメン……! ちょっと飲み物を買いに行ってて……」


「わかった! とりあえずもう並んで! 僕が気まずいんだからw 飲み物、預かっとくから」



 ……あ、そうか。

 土山くんは体育祭委員なんだ。

 だからさっきも自分のクラスの生徒に並ぶよう促したりしてたのか。


 よくみると委員会のバッチをつけている。



「わかった、すぐ行くね! ホントゴメン!」



 僕のせいで土山くんが怒られても悪いので、急いで準備をして入場門に並ぶ。


 はぁ、飲めなかったな……マナナジュース。

 唯一、この世界の飲み物でハマった一般的じゃないジュースなのに……。



「続きまして……借り物競争!! 選手の入場です!!」



 ……周囲に知ってる人はいない。

 ま、その方が気楽でいいけどね。



「借り物競争のルールを説明させていただきます! スタートしてからすぐにテーブルに置かれた用紙を1枚とっていただき、それに書かれているモノを持ってる人のところに行き、その人と一緒にゴールを目指してください! 借りる人は誰でも構いません。何故なら……貸した人のチームにもポイントが入ります!! つまり、自分のクラスの人に貸せたら……ポイントが単純計算で2倍です! お得ですねぇ……。ちなみに書いてあるモノが見つからなかった場合はポイントになりません! この意味、わかりますか? つまり、かなり難易度の高いモノもあるというわけです! これはもう限りなく運です! 1枚の紙に運命を託してください! さあ、初めていきましょう! 借り物競争、スタートです!!」

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