第55話 鎧袖一触 (がいしゅういっしょく)前編

「次の競技! バケツリレー!! 選手の入場です!」



 凍上さんの他に知ってる人はいるかな?



 ……うーん、パッと見いなそうだな。



「競技説明! バケツの水をこぼさずにどれだけ運べるかを競います。最終的にゴールした順位に加え、水の重さも加点されます。零さずにゴールすれば、1位と同じポイントが入りますので気を付けて運びたいところでもあります。そして注意事項なのですが、«水魔法»での注ぎ足しは禁止です~。アンカーが水魔法使いならもう足し放題になってしまいますからね……」



 ……魔法が使える世界でバケツリレーとかデジタルなのかアナログなのか……。

 そういや前にちゃんと「魔法はアナログ」って話をしてたもんな。


 それよりも凍上さんはどこだ……っと。



 ……お、第一走者か。



「それではスタートします!」



位置について、よーい……パンッ!



「スタートしました! おーっと、緑2ー4! 早くも仕掛けたこれは«風魔法»! 片手が塞がっている今、対処はかなり困難だぞ! 茶3-2は同じく«風魔法»で相殺! あえて同じパワーに加減して相殺した模様! 2つに割れた風が赤と白を襲う!! 赤1-4よろけてかなり水が零れてしまったー! まさかスタート直後から攻めてくるとは思ってなかったのか! おっと、白1-1もよろけたー!」



 ああ、凍上さん……!!



「……が水は零れない! 何故だー⁉ ……っと! なんとバケツの水が凍っているー!! いつの間に凍らせたんだ⁉ だがこれなら零さない! 単純明快、かなり効果的! ……でもいいのかな……? えー、赤1-4は……っと身体強化! 加点ポイントを諦めて順位狙いに来たかーッ? こっから赤は追い上げ……って……、だがしかし白1-1速い⁉ なんと地面を滑っている! これは……! 自身の数cm先を凍らせてまるでスピードスケートのようだー! 身体強化した赤1-4、差を詰めているが……第2走者まであと十数m! だがここで赤1-4が急に止まった⁉ どうしたことかー!! あ、足が動かない! まるで落とし穴にでもハマってしまったように! こ、これは……白1-1の仕業かーっ⁉ 靴と地面が凍ってくっついてしまっている!! 赤1−4たまらず靴を脱いだ! がその隙に白1-1が第二走者へバケツを渡すー! やはり変異属性持ちは強いー!」



 す、凄い……、氷魔法を使いこなしている……。

 いつも近くで見てたから気づかなかったけど……凍上さんはかなり凄い部類だよな……。


 ランダムで選ばれちゃった人……対策をあまり練られてない状態で走ってる人もいるとはいえ、凍上さんは2位にかなり差をつけてバトンを渡した。


 これだけ強いんだ。

 そりゃあアッシュも自分のモノにしたくなるか……。



「おーっと、茶3-2! 前にいる青2-4のバケツを……«土魔法»の投擲とうてきで貫いたーッ! 零れる水!! これだと穴が開いたところまで水が漏れてしまうぞー! どうする青2-4! 急いで修復の魔法をかけておりますがその隙に茶3-2が追い越す! 1位は依然として白1-1! リードしていたお陰で妨害魔法を食らうことなく逃げ切ったかー⁉」



 かなり差をつけてる……これなら勝てる!



「っとー! ここで黒3-4アンカーが登場! 500mはランダムで選出されておりましたがレース系とは運が良かった! みるみるうちにゴボウ……いや、芋づる式に追い抜いていくー!!」



 え、ちょっと待て!なんだあの速さ……!!

 自身の身体強化だけであのスピードがでるのか……⁉



「あっと言う間にー……! 白を抜いた! トップだぁぁぁ!! マジリンピック金メダリストに最も近い男、南芭なんば選手ー!! ゴール!!」



 なっ……あのリードを一瞬で……⁉



「あー……南芭さんかぁー! やっぱ今年も3-4が優勝だよな」

「3年連続になるか。1年の時から黒組って別格だったよな。何より四天王がいるしな」

「あの人たちはガチバケモンだ。1年のアッシュが4人みたいなもんじゃん?」

「考えただけで恐ろしい!!w」



 え……なんじゃそりゃ!アッシュ4人……⁉

 勝てる見込みないんじゃ……。



「続いて2位、白1-1。3位、茶3-2。4位、緑2-4――」



 でも2位だった!

 これは凄いことだよ!



「全走者ゴール!! それでは順番にバケツの重さを量っていきたいと思います」



 カウントされる水量……、みな静かになる。



「計測が終了しました! バケツの重さ1位、白1-1! 2位、茶3-2! 3位、黒3-4! ……っとー? ここで審議です! 白1-1は水じゃなくて氷、性質が変わっているので失格ではないのかという意見が来ています! ……それでは審議に移らせていただきます。結果がでるまでしばらくお待ちください」



 ま、マジか……⁉

 どうなっちゃうんだ……。



「よし、そしたら順位が繰り上がるぜ!」

「でもさー、水を零さないようにしてるんだからよくない?」

「妨害魔法ありなんだから、それに対しての防御と考えたら……ありじゃね?」




「お待たせしました。体育祭運営本部の審議の結果……」



 ゴクリ……。



「バケツの水をいかに零さず運べるかを競うということが根底にあったので、氷でもカウントすることとなりました。よって、最終ポイント、1位、白1-1、90pt! 2位、黒3-4、80pt! 3位、茶3-2、70pt! 4位――」



「「「うおおおおお!!」」」



 まさか1位とは……凍上さんだけでなく、周りの人も凄い頑張ってたもんな。



「うおー! やっぱハナちゃんすげぇなー! 水を零れないようにして自分は氷で速度上げて、妨害までやっちゃうんだから……」


「うん、びっくりした」


「ほんと、凄いよね……ハナちゃんは……」



 凍上さんが退場門から出てきた。



「あ、おかもい! ハナちゃんメチャンコ強いじゃん!」

※おかもいとは、おかえりの意らしい


「そんなことないよ。勝手な判断でバケツの水を凍らせたけど、失格になってたら皆に謝るしかなかった」


 ゴールする直前で溶かせばいいんじゃないかって考えたけど……そういえば火魔法使ってる人、ほんといないよな……。


 魔法の世界なんだから使える人はいると思うんだけど、やっぱりこのご時世、あえて使わないのだろうか……。


 そうなってくると、部長は本当に異端であることがわかる。

 なにしろ炎天化の世界で、あえて«火魔法»でのし上がろうとしてたんだからな……。



「……皇くん、何か言うことないの?」



「え! あ……えと……おかえり!」


「うん」



 期待していた返事だったんだろうか。



「よおし、次はあたしだーっ! 500m徒競走、ブッチギってやりますかー!」


「文華。開花以来、攻撃魔法が使えなくなってるんだから無茶しないように」


「……え」


「うん! 無茶せず派手にブチかましてきますわー!」



 そう言って走って入場門へと駆けていく如月さん。

 ……攻撃魔法が使えないとか……聞いてなかったんだけど……。


 もしかしてあの日、うち来て開花してから……?

 攻撃魔法が使えない……それも〖禁呪書〗の影響なのかな……。



「あー……、文華なりの配慮だったんじゃないかな。アッシュさんとの勝負に集中したかったと思う。それに皇くんは……それを聞いたらまた色々しちゃうでしょ? ……まぁ魔法が全く使えないわけじゃない。攻撃魔法だけ使えなくなってるだけだから心配いらないよ。あの暴風は健在だから」


「……そ、そう……」



「それでは第5種目、500m徒競走! 選手入場です!」



 ……村富さんも出るのか。

 ……んげ、ぶ、部長がいる……!!



 しかも……あれ、もしかして如月さんと同じレース⁉

 まじか……。





◆如月side♦





「あ、ナデナデ関西風……」


「ん? なんや、ウチの顔になんかついてるか? ははーん、もしかしてあまりにもベッピンやもんで見惚みとれはったんかいな?」


「いや。ホッくん……皇くんとこの部長さんだと思ってー。いやー、まさか同じレースとはハハー。……胸を借りますね」


「『いや』あるかいな! ベッピン完全否定の『いや』やったやろ! ったく……。ん……? あー……アンタもしや!w ヒヒ、此度こたびの体育祭、稼がせてもらいますわ~」


「……は、何言ってるんです?」


「なーん、『胸を借りたい』なんて……シシ……。あんさんも結構立派なモン、持っとるんやから借りなくてもええやろ~? ん~?」


「な⁉ ちょっと揉まないでください!」


「ヒシシ……ま、楽しませてもらうわ~」





♠皇side♠





 部長と如月さん、いつの間に仲良くなったんだろ……。

 何話してるのかな。


 レースは……村富さんが3走者目で……如月さんと部長は最後か。


 ……あの部長に勝てるのかな。



「500m徒競走の説明です。……まぁ走るだけなんでそれほど説明はいらないですが、1つ注意点がありまして……。支援バフや身体強化をかける際は、スタートしてからにしてください。開始前にかけていたら失格になります。競技では詠唱の速さも競われますので~。それではレースの方、始めさせていただきます!」



第1レース……位置について――



「皇くんとこの部長さんって……もしかして論文発表した人?」


「あ、うん。そうらしいね。本借りたけど忙しくてまだ見れてないんだよね……」


「逆井……ひかるさんだっけ?」


「あ、光と書いてミツと呼ぶらしいよ」


「そうなんだ」



第3レース……位置について……



「あ、村富さん走るね」



パン!



「今スタートしました。水色2-1、桃3-1、灰3-3、スタート直後に身体強化! やはり単なる徒競走には大体の選手は身体強化持ちで固めてくるー! さすがに強化完了までは若干時間がかかりますね。早くても3秒ほどはかかるか! 白1-1はもう走っているが……ほほー! 支援バフを走りながらかけられるのは凄い! しかもこれは……+%プラパーバフ⁉ レアですねぇー。さあ周りも強化完了! っとー……あれ! 白1-1、あっと言う間に抜かされたー⁉ 橙1-3も魔法で妨害しようとしたが身体強化が済んだ選手は容易たやすかわしていった! 1位、桃3-1! 2位、水色2-1! 3位、灰3-3!」



 あ、あれ……村富さん……?



「あの子、そんなに足速くない……」


「あ、あら……」


「ランダムで決まったから仕方ないんじゃない」



 プライド高いからフォローしづらい気はする……。



「そうね。私もそう思う」



 ……。



「さて……ここまで大半の選手が身体強化、自バフという流れでした。あとはランダムで選ばれてしまった不運な選手……! 走りが苦手な人もいたでしょう……。恥ずかしさのあまり休んでしまいたいと思ってもおかしくありません! それほどこのルール……! 鬼畜仕様だと! 皆が口を揃えて言うはずです! だがそれでイイ! 学長の真の狙いは『未知なる挑戦』にあるー!!」



 あ、やっぱりそんなコンセプトなんだ……。





◆如月side♦





「よっしゃ始まるで。ほな、ウチについてきてみぃ」


「……言われなくても」



(このナデナデ関西風に……あたしの走りを見せつけてやる……)



「〘颯舞はやてまい〙……!」



ビュウウオ!



「……!! ヒュゥ、ええ風やん……。気持ちがええわ」





♠皇side♠





「おーっと……? 開始前から白1−1の中心へ風の渦が巻いている! MAを展開してるだけでとんでもない魔力だ! スタート前ですが自バフではないので許容範囲と言えます!」



 如月さん……!



「さぁ、それでは最終レース……準備はいいでしょうか!」



位置について……よーい……パンッ!



「スタートー……! ……クッ、その瞬間……突風が……白1-1より吹き荒れ――!! ……、……え、えええ⁉ な! なんとー!!!」



 あ、ああ……や、やっぱり……!



「お、おい!」

「ま、マジかよ!」

「嘘だろ……」

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