第52話 完全燃勝 (かんぜんねんしょう)中編
「あー、あー、マイクテス〜」
いきなり放送が入る。
「えー、第7回魔武学体育祭、司会を務めさせていただきます、生徒会書記の
へー、確かに聞き取りやすい声だな。
「カエデちゃーん! こっち向いてー!」
「L・O・V・Eカエデー!」
「可愛すぎる……!」
な、なんだ……ファンか?
確かにビジュアルは完璧だけど凍上さんには敵わないなぁ。
「ありがとー! ありがと~♪ では簡単に今大会のルールを説明させていただきます。これは来賓の方向けの説明になりますので、生徒の方はスルーするもよし、確認するも良しです」
お、ありがたい。
今一度確認しておこうかな。
「まずはじめに、例年までのルール説明です。学校のエリア内は致死性の魔法を禁止していると同時に、高出力の魔法はAMAの効果により発動できなくなっています。付随して、魔法特許センターの規定により、〝対人使用可〟の魔法のみとなっております。デス系、強力な呪詛、
え……学校の体育祭でそれを使おうとする人、いる?
「競技内容に移ります。競技は全18種目で、基本的に1位〜5位までに得点が入ります。ただし、玉入れや騎馬戦などの団体競技は例外で、玉を入れた数、倒した数がポイントになります。3年のクラスで最小、12人しかいないクラスがありますが、こちらも例年通り40人に満たないクラスは、割合で点数が加算されますのでご安心ください」
半分以上のクラスメイトが志半ばで中退してるのか……。
「支援系バフについてですが、同競技者以外の者によるバフなどの支援系魔法は禁止されております。つまり、団体競技に限り、同じチーム内ならバフを掛け合うことが出来るというわけです」
なるほど。
例えば僕らが三人四脚の時、村富さんにバフをかけてもらうのはダメってことか。
「去年から許可されました、デバフについてですが、今年も使用可となっております。他者へのデバフ、
あまり触れてなかったけど、AMみたいに魔法を妨害する魔法を使える人がいるんだよな。
少ないとはいえ、脅威には違いない。
「大まかに説明させていただきました。それでは第1種目、一斗缶潰しの参加者は入場門に集まってください。引き続き、わたくし二条花楓が実況・解説をさせていただきます。じゃあみんな~よろしくね~」
「「「ウオオオ!」」」
……まるでアイドルだね。
しかし初っ端から一斗缶潰しとか……ちょっと興奮する。
他の生徒はきっとテレビとかで魔武学の体育祭を見たりしてるだろうから、初めて見るのは僕くらいなものだろう。
ワクワクしながら観覧席へ向かおうとすると、アッシュくんに止められた。
「皇くん。ちょっといいかな」
……面貸せよ的な感じだろうか。
「う、うん」
誰もいない中庭へ向かうアッシュくんの後ろをついて歩いていく。
ここにきてまた何か言われるのだろうか……。
正直怖い。
「……ここでいいか。契約の件をもう一度確認しようと思っただけだ」
一度MAを展開して周囲を確認したのか、誰もいないことがわかると途端に表情が変わる。
表情だけじゃなく、雰囲気もガラリと豹変した。
やっぱりこの人はヤバすぎる……。
「契約って賭けのこと……? 2人の権利……とか言ってた……。あれの意味、未だによくわかってな――」
「そのままの意味だ。俺に負けたらお前は二度と2人に近づけなくなる」
この寒気の中、こめかみから汗が伝う。
平静を装いながら話し続ける。
「近づけなくって……そんなの、無理じゃない? 2人とも同じクラスで同じ班なんだよ? 冗談だよね……? ただ真剣勝負する為の名目だったんでしょ……?」
そうだ、と言ってほしかった。
だが自分は知っている。
この手の人物が、どれだけ己の言ったことを曲げないか。
自身の発言力、意志を嫌と言うほど垣間見てきたのに。
それでも……聞かないわけにはいかなかった。
「ハッ……ハハ! 真剣勝負だと⁉ 俺とお前が⁉ ハッ、バカが」
あのやり取りはただの体裁だったということを改めて思い知らされる。
「それに無理じゃねえんだ。いくらでもやり方はある。今更ここまできて冗談だ? 笑わせるな」
鋭い眼光より発せられる威圧のせいで、目を開けているのが辛くなる。
「どう……する気なの……」
「それを今、知ってどうするんだ? 聞いたら本気を出すとでも言うのか?」
次第にプレッシャーが押し寄せ、頭痛と吐き気を誘発させる。
「それは……僕には聞く権利があると思うけど……」
どうにか出た虚勢だが、今すぐにでも逃げ出したい。
再び過去が思い起こされる。
いじめられる感覚を何度もフラッシュバックさせながら会話を続けるのが辛い。
「消すんだよ、記憶を。お前のじゃなく、2人の記憶だ」
「え……、どういうこと……?」
「〖
そう言いながら1枚の紙を見せてきた。
「両者の間で決めたことをこの書にそれぞれの血で書くとそれが施行される。お前はあの時、2人の権利をかけて俺との勝負を約束をした。つまり、お前が負けたら2人の権利はなくなるということ。2人の記憶から皇焔という人物を消させてもらう。どうだ、お前にもわかりやすく説明したんだが」
「な、何を……そんな……、当日にいきなり……。ちょっとおかしいよ、そんなの……な、なんで弱い僕にそんなこと……」
2人の記憶から
入学式初日の雨……、味家之屋のアイス……、共闘したアカシックライブラリ……、三人四脚の練習……。
3人で過ごした日々をなかったことに……。
まだ半年足らずだが、一緒に過ごした日々はもう二度と訪れない。
本当に2人の記憶から消えてしまうとしたら、僕は……、僕は……。
「ハッ、弱いからに決まってんだろ」
……これだ。
きっとこれこそが、いじめられる元凶……。
弱いから……いじめられる……。
力も……魔力も……意志も……想いも……。
僕はなんでこんなにも無力なんだ……。
「あの2人と無魔のお前が一緒にいるのは不愉快だ。死なないだけマシだと思え」
そう言いながらアッシュは自分の指を噛み、〖約定血書〗に血で書いていく。
「あとはお前の血判だ。覚悟を決めろ」
ザシュッ
「イっ……!!」
親指に痛みが走る。
刃物でも隠し持っていたのか、アッシュは僕の親指を斬りつけたようだ。
ポタ……
血が滴り落ちる。
……これを押したらもう二度と……2人と笑い合うこともないのか……。
楽しかった日々、甘い考えの自分……。
僕は今までもこれからも……変わらない……?
変えることが出来ない……?
結局、誰も僕を救ってはくれない。
「まぁ残念なことに〖約定血書〗は無理矢理押させてもダメなんだ。当事者同士の合意で押すしかない。故に俺は待つしかな――」
アッシュがチラつかせていた血書に有無も言わさず親指を押した。
「……!!」
「覚悟を決めたよアッシュ。もう迷わない」
「……フ、フ、フフフハハハ! 良いよそれ、ハッ! 中二癖ぇ……たまんねぇ……。だが
そう言ってアッシュは立ち去った。
彼がいなくなり張り詰めた空気が緩和された。
「はぁ……! はぁ、はぁ……」
心臓を押さえないと爆発しそうになる。
このなんとも言い切れない感情……。
怒りなのか
ここまで負けたくない勝負も生まれて初めてだ。
勝ち目がない勝負に、どれだけ夢を持てばその勝負に乗ってくれるんだろう。
2人は完全に僕を信じ切っている。
あのアッシュより……、〝主席で英雄の孫〟よりも〝無魔である僕〟を……。
応えたい、その期待に何が何でも。
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