第24話 チリヂリになっていく私の心

 いつまでもベッドで寝ているのも嫌なので、ドアを開けて城を探索する事にした。

 だが、そこに広がっていたのは砂漠だった。

 私はゆっくりと閉じた。

 そして、ベッドの上に腰をかけて考えた。

 ここはどこなのだろう。

 さっきまで普通の部屋だったのに、急に砂漠に変わっている。

 ここはコールト王国じゃなかったっけ?

 そんな事を思っていると、人の気配がした。

 いや、でも、そんなはずはない。

 私の部屋はお城から高い位置にある。

 だから、窓に人なんて……と思っていたが。

 私の部屋をジロジロ見ながら叫んだ。

「お前、良い部屋に住んでいるなぁ! さぞかし備蓄もあんだろ! くれよ!」

「その洋服、ちょうだい! それで赤ん坊のおしめにするから!」

「アハハハ、あまーーい香りがする! チョコ! チョコレートだ! パパ! あそこには備蓄がいっぱいあるよ!」

「そんなにあるのなら、少し分けてちょうだい! 一人じめするなんて恥ずかしいと思わない?」

 老若男女、様々な家族や人が窓に群がる人達がそう叫んでいた。

 さっきまでの穏やかで賑わっていたあの光景はどこへやら。

 私は何もない世界に来てしまったのだろうか。

 それとも夢の続きを見ているのだろうか。

――バンッ!!

 突然誰かが窓を叩いてきた。

――バンッ! バンッ!

 今度は二度も叩いてきた。

――バンッ! バンッ! バンッ!

 今度は三回も叩いてきた。

 四回、五回……手はドンドン増えてくる。

「くれっ! くれくれくれくれ……」

「ちょうだい、ちょうだい、ちょうだい……」

「入れて、入れて、入れて……」

 人々の眼が怖い。

 まるで私を化け物でも見るような眼だ。

 あれ? ここは本当にコールト王国じゃなかったっけ?

 あぁ、そうか。

 どの国も一緒だ。

 食糧不足になれば、何もかも足りなければ、みんな獣になるんだ。

 何十人、いや、何百人という人が私の窓を叩き、壊そうとしてくる。

 ヒビが割れてきた。

 最悪な未来がすぐそばまで迫ってきていた。 

「いや、いや、いや……」

 私はベッドの上で丸くなった。

 呼吸が乱れてくる。

 うまくできない。視界がグチャグチャになってくる。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 駄目だ。錯乱している。

 こういう時こそ、老人からもらった心を暖かくさせるお薬が……。

 そう思って辺りを見渡したが、どこにもなかった。

「ない。ない、ない、ないっ!」

 ベッドの下を覗いたり、サイドテーブルを確認したり、枕の下も見たがどこにもなかった。

 失くしたんだ。それとも一回きり?

 あぁ、呼吸が乱れてくる。

 今にも窒息死してしまいそうになっていた……その時。

――バリーーン!!!

 窓ガラスが散乱した。

 人達がワラワラと入ってくる。

「くれくれくれ……」

「よこせ、よこせ、よこせ……」

 奴らは手を伸して私を襲い掛かろうとしてくる。

「いやぁあああ!!」 

 私は逃げようと必死になったせいか、ベッドから落ちてしまった。

 その倒れた時に何かが倒れた。

 見てみると、斧だった。

 形状も私が前に住んでいた小屋に置いてあったのと同じだった。

 どうしてこんな所に……いや、今はそんな事を考えている暇はない。

 私はすぐに斧を取って立ち上がった。

「うわああああああ!!!」

 私は近くまで来た男の首をねた。

 頭が転がっていくと、彼らは食料品だと思ったのかアリみたいに群がっていた。

「ケダモノっ! ケダモノっ! 死ね死ね死ね死ねぇえええええええ!!!」

 私は自分を守るために危害をくわえようとしてくる奴らを手当たり次第に斬った。

 だが、無尽蔵に湧き出て来るので、斬っても斬っても切りがなかった。

 罪悪感はなかった。

 人を殺めているというよりは魔物を退治しているのと同じだった。

 草食動物が肉食動物から身を守るように必死に私は抵抗した。

 老若男女関係ない。

 自分の命を優先するために、私は斧を振り続けた。

「うわああああ!!! あああああ!! いやあああああ!!!」

 その叫びは砂漠の向うから聞こえて来たのか、ドアが急に開いた。

 現れたのはオーリンだった。

 すると、一瞬で奴らの姿は見えなくなった。

 元の部屋に戻っていた。

「ゆ、ユキお姉様?!」

 オーリンは私に駆け寄ってきた。

 が、彼女の顔がなぜか鬼みたいに凶暴な顔に変わっていた。

『備蓄よこせぇええええ!!!』

 オーリンの思わぬ言葉に私は悲鳴を上げて押し倒した。

「きゃっ!」

 オーリンは軽い悲鳴を上げると、人間らしい表情に戻っていた。

 私はふと頭の中でカゴの中に山積みになった林檎を思い出した。

「ねぇ……私の林檎は?」

 私の質問にオーリンは困惑していた。

「聞こえているの? 私がアップルさんからもらった林檎はどこ?」

 私は口調強めに言うと、オーリンは「あの、えっと……厨房に」とか細い声で言った。

 厨房? なぜあんな所に……まさか、料理にするんじゃ。

 私は黙ったまま走り出した。

 居ても立ってもいられなかった。

 もし奴らに取られたら……最低最悪の展開になる。

 私が走っていると、砂漠にいた人間が追い抜いていくのが分かった。

 彼らもどうやら林檎目当てだった。

「邪魔するなぁああああああ!!!」

 私は必死に叫びながらキッチンの方へと向かっていった。


 キッチンでは、シェフは今にも林檎を包丁で皮をむこうとしていた。

「勝手に触らないで!」

 私はそう叫んで彼を押し退けた。

「何をするんだ! せっかくお茶会にあなたからもらった林檎を使ってアップルパイを作ろうと思ったのに」

「アップルパイ? 馬鹿言わないで! これはジャムにするの! 保存食よ!」

 私はシェフから奪うように林檎を取り、優しくカゴごと胸に抱きかかえた。

 そこへオーリンが入っていた。

「あの、何事ですか?」

 オーリンが困惑した様子でシェフに尋ねていると、彼は私の方を指差して怒っていた。

「ユキ様が突然林檎を奪ったんです!」

 奪う――この言葉に私の脳内がグツグツと煮えたぎった。

「奪ったのはそっちでしょ?! 私のものを略奪するなんて……やっぱり、ケダモノね!」

 私の言葉にさすがのシェフも言い返せなかった。

「ユキ様……? 急にどうしたんですか? あの、さっきから様子がおかしいんですけど」

 オーリンはまだ事態の重要さに気づいていなかった。

 が、私は黙ってキッチンを飛び出した。

 早くなんとかしないと略奪が始まる。


つづく。

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