第18話 助手なのか召使なのか分からないよ
「おーい、その草も取ってくれ」
「はーい!」
私はなぜか庭の雑草をむしっていた。
ローリエに助手をしないかと誘われた私は最初は断ろうとしたが、もしかしたら研究の手伝いをしてもらえるのではないかと思い、引き受けてしまった。
その結果がこれだ。
ほぼ雑用に近い。
ローリエは何故か外観の清潔さにこだわっていた。
中はあんなに悲惨な事になっているのに。
「あの……掃除しなくていいんですか?」
私は家の方を指差して聞いてみると、ローリエは「いいの、いいの! 研究がしやすいようにわざと散らかしているから」と手を振って、そのまま家の中に入ってしまった。
わざとって……あんなグチャグチャだったら、大事なお薬が完成した時に
でも、家に帰った所でボゥとする事しかないから良い気分転換になるので、しぶしぶ従う事にした。
一時間ぐらいかけて、庭に生えていた邪魔な雑草をむしり取る事ができた。
フゥと額から溢れ出る汗を拭った。
(はぁ、疲れた)
疲労のせいで溜め息をこぼすと、ガチャっとドアが開いて、ボサボサ髪が姿を現した。
「終わった?」
「はいっ! どうですか?」
私は庭の草花達をローリエに見えるようにした。
ローリエは黙視した後、「悪くないね。テーブルにランチョンマットを敷いておいてね」と言って乱暴にドアが閉まった。
(何よ。ありがとうの一言ぐらいはないの?)
内心プリプリしていたが、黙って従った。
「えっと、テーブルと椅子……あれかな?」
家の裏を回ると、大きな切り株があった。
椅子らしきものがなかったので、近くにあった大きめの石を持ち上げて、ドンっと置いた。
ランチョンマットは日当たりの良い場所で物干し竿に干られていたので、それを取って切り株の上に敷いた。
その丁度にローリエがやってきた。
おぼんにはティーポットとカップが乗っかっていた。
それをマットの隅に置くと、ポットを真ん中に置いて、カップを二つ置いた。
「あれ? お客さんが来るんですか?」
私が尋ねると、ローリエは丸メガネをくいと上げた。
「君しかいないでしょ。ほら、早く椅子を持ってきて」
「は、はいっ!」
私は慌てて近くにあった石を持ってきて、向かい合う形で腰を降ろした。
ローリエはポットに紅茶を注ぎ終わっていた。
「さぁ、冷めないうちに」
「いただきます……」
私は火傷しないように息を吹きかけてから口に入れた。
凄く普通だ。
特に美味しくもなく不味くもなく、香りもそこそこある平凡的な味だ。
「どうだい? 至極平均的な紅茶だろ?」
「え、えぇ、まぁ、はい……あ、安心するお味ですね」
私はなるべく傷つけない程度の返事をすると、ローリエは「安心する味か……いい感想だ」とか言って紅茶を啜った。
「本当だったら洞窟に住む熊からもらった蜂蜜があれば、王族のアフタヌーンティー並の紅茶に変わるんだけど……残念ながら手元にない」
蜂蜜……その言葉を聞くとさっきの火だるま騒動を追い出して、胸が痛んだ。
「ごめんなさい。私が使ってしまったばかりに……」
「いやいや、君は悪くない。悪いのは私だ」
ローリエは全然聞きしていない様子でまた啜り、アチッと呟いた。
なぜさっきより冷めているはずなのに熱かったんだ。
いや、それよりも気になる事があったんだ。
「アップルちゃ……えっと、洞窟に住む熊さんとはどういう関係ですか?」
「ん? あぁ、熊ね……彼とは私が森を彷徨っていた時にバッタリと遭遇してね……最初は警戒していたんだけど、話をしているうちに仲良くなったんだ。
で、私が住む場所がなくて困っていると話したら、快く新しい小屋を建ててくれたんだよ」
「へぇ、そうなんですね……他にも聞いてもいいですか?」
「どうぞ」
アップルちゃんとローリエの意外な関係を知れたからか、もっと知りたいとさらに続けて質問した。
「この森に来る前はどこに住んでいたんですか?」
「うーんとね……ここから遠く離れた場所かな」
「コールト王国よりもですか?」
「うん、まぁ、そうだね」
シナーノ王子が住んでいる国は馬車を飛ばしても三日はかかってしまう。
それよりも遠い所から来たという事は、どれだけ長い時間をかけてこの森に辿り着いたのだろう。
「どうして旅に出ようと思ったんですか?」
「私が住んでいる国は植物もまともに育たない所なんだ。それに病に侵されている人達で溢れかえっていた。だから、国を救うため旅に出たんだ」
「そうなんですね……じゃあ、寝る間も惜しんで研究を……」
「……そうだね」
ローリエはグイッと飲み干すと「じゃあ、私は研究の続きをするから、後片付けよろしく」と言って家の中に入っていった。
最初は変わった人だと思っていたけど、重大な使命を抱えていたなんて……さっきまで文句を言っていた自分が恥ずかしい。
少しでも研究に没頭できるように、私がサポートしないと。
「よしっ! 頑張る……」
「そこで何をしている?!」
私が鼓舞しようとした瞬間に、どこからか怒声に近いような声が聞こえたので、思わずポットを落としそうになった。
辺りを見渡していると、黒いロープの老人が立っていた。
「あら? どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもない! ここで何をしているんだって聞いているんだ!」
「えっと、あの……ローリエさんにお茶を……」
「今すぐここから離れなさい!」
老人はそう言って私の腕を掴んで来たので、力強く振り払った。
「ローリエさんを悪く言わないでください!」
キッと睨みつけると、老人は「わかったよ。そうカッカするな」と言って背を向けた。
「邪魔して悪かった。ただ時には年寄りの忠告に耳を向けるのも大事だぞ……」
老人はそう言って、静かに森の奥へと消えていた。
なんか今日のお爺さんは変ね。
まるでローリエを目の敵にしているみたいだった。
でも、まぁいっか。
今はこのポットとカップをかたすのが優先だ。
つづく。
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