第1話 兄の葬式で出逢った運命の人

 大好きだった兄が死んでしまった。

 不慮の事故だった。

 今日は人生で最悪の日だ。

 空も兄の死を悲しんでいるのか、酷くよどんでいた。

 兄の墓石の前で、神父が供養していた。

 無事に楽園に行けるようにと祈っていた。

 楽園? 楽園なんてないよ。

 あったかもしれないけど、もううしなってしまった。

 皆、兄の死を悲しんでいた。

 私の両親もこの国のトップだから涙を流す演技をしている訳ではなかった。

 心の底から彼を愛していたらしい。

 それは私も同じだけど。

「ジョナお兄ぃ様ぁあああ……」

 墓の前で、姉のベニーが膝から崩れ落ちて慟哭どうこくしていた。

 周りにいる彼女の友達が必死に慰めていた。

 かく言う私は独りぼっち。

 誰も私に寄り付かない。

 まるで亡霊みたいだ。

 それもそっか。

 兄の葬式が行われている場所から離れているから。

 私は今、川の近くに生えていたミントを積んでいた。

 ミントは兄が好きな植物だった。

 これを繋いで冠にして、兄の頭に乗っけれれば喜んでくれるかもしれない。

 私はそう思いながらミントを探していた。

 しかし、夢中になり過ぎたのだろう、足を滑べらせてしまった。

「きゃっ!」

 傾斜があるからか、ゴロゴロ転がっていき、川に落ちてしまった。

 普段は穏やかに流れているが、今日に限って荒れていた。

「ぷはっ! だれ……ぷはっ! だれか助け……て!」

 必死に呼ぼうとしたが、波が普段より高いせいか、水が口元まで塞いでしまってうまく呼吸ができなかった。

 喪服用のドレスを着ているせいか、まるで水の中にいる幽霊みたいに沈んでいった。

 あぁ、私死ぬんだ。

 でも、よかった。

 死んだらまた兄に会う事ができるかもしれない……そう期待をして全ての力を抜いた、が。

「大丈夫か!」

 すると、男の声がした。

「これに捕まって!」

 パシャンと水面みなもから音がしたので見てみると、ロープだった。

 それを見た瞬間、私はたちまち力を取り戻し、無我夢中でロープを掴んだ。

 徐々に地面の方に戻っていき、川から上がる事ができた。

「ケホッ! ゴホゴホ……」

 私は溺れている最中に飲んでしまった川の水を吐き出していた。

「大丈夫ですか?」

 すると、先程ロープを投げてきた人物が私に近づいてきた。

「あぁ、ありが……」

 私はお礼を言おうとして顔を向いた。

 その瞬間、全身が凍りついてしまったかのように凝視していた。

 私を助けてくれた人物は兄にそっくりだった。

「ジョナお兄ちゃん!」

 私は兄が戻ってきてくれたと思い、彼をギュッと抱きしめていた。

「ちょ、ちょっと待って! 僕は君のお兄さんではない」

「……え?」

 私は改めて彼の姿を見た。

 髪色が金髪だった事以外はほぼ兄と同じだった。

 でも、本人が言っているから他人の空似そらになのだろう。

「ご、ごめんなさい……」

 私は恥ずかしさのあまり、彼から距離をおいた。

 すると、彼は「僕はシナーノ王子。コールト王国からやって来たんだ……君の名前は?」と自分の自己紹介をしてから、私に質問してきた。

「私はユキ。テリーシャ王国の第二王女です」

 私がそう答えると、彼は「よろしくね。ユキ」といきなり名前で握手を求められてきた。

「よろしくお願いします」

 私は彼の手を強く握りしめていた。

 どういう訳か、私の心が暖かくなっていた。


 これが私とシナーノ王子との禁じられた恋の始まりである。


つづく。

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