夏のイケニエ。

さんまぐ

第1話 人生初のアルバイト。

高校三年生の夏。

受験勉強から逃げ、実務的な勉強がしたいからと言い、専門学校を志望したら夏休み中には進路が決まった。


夏は友達も受験勉強や就活をしていて遊べないが、冬になら推薦が終わった連中とは遊べる。


旅行なんていいかもしれない。

そんな思いからアルバイトを決意した。

人生初のアルバイト。


高校生活でアルバイトに興味がなかった?

働くより遊びたかった?

そうではない。


学校に異常な奴がいた。奴らと言ってもいい。

3人組の連中で、飯塚、豊本、角田というのだが、とにかく3人でつるんでいる。

そして周りに迷惑をかけている。


お互いのルールなのか知らないが、お互いの家には行かない。

家にあげる真似もしない。呼ぶこともない。

だがつるむ。


商業施設を徘徊し、家に人をあげる事を許可してる奴の所に押しかける。

行き場がないのに集まる。


そんな3人が高校生になって始めたのは、他人のアルバイト先に襲撃する事、コレにより何人も酷い目にあったのを見ていたので、とてもアルバイトなんてやる気にならなかった。


ファミレスでバイトを始めた奴は3日目に襲撃されて、コーヒー一杯で何時間も粘られる。

そして店長がクレームを入れれば「僕達、磯野くんの友達なんです!」と言って誤魔化し、更に3人は磯野に何とかしろと迫る。


何とかしろは「堂々とたむろさせろ」から「可愛いバイトの子を紹介しろ」まで多岐に渡る。


たかだか3日目でそれをやられた磯野はようやく見つけたバイトだがクビになり、野球のバットとグローブを新調する夢を諦めていた。


ファミレスでなければ?

そんな考えは甘い。


コンビニバイトの中嶋は1週間目に来られて、「俺、蒸し鶏クンはノーマル味も好きだけど、ヒート味も好きなんだよね。混ぜてよ」「そもそも時間切れの奴くれよ」、「このエロ本縛ってるバンドを外してよ中嶋」とやられて中嶋はバイト先をクビになる。


つるむ仲間ではない以上、飯塚達はオモチャ感覚で壊して遊んで後は知らないとやる。

もっと酷いと、引越しのバイトを始めた波野は、原付で引っ越しのトラックを追いかけられて、搬入の邪魔までされて、荷物と新築の家を台無しにする羽目になり、賠償金まで支払うことになった。


またオモチャが一つ壊れたくらいの感覚の飯塚達は、波野からのクレームもどこ吹く風で笑い飛ばしていた。

だが、3人ひと組で3年間生きて来た飯塚達は、アンチが増えようが関係なく、周りも自分のバイト先に来られるくらいならと言って、他にアルバイトを見つけた奴が現れると告げ口しあっていた。


これにより高校生活でバイトはしなかった。

だが冬場に遊びに行きたい。

その気持ちでアルバイト先を探したが、いい場所がない。


最初は専門学校のある駅の方を選んだが、繁華街は豊本が1番喜ぶ場所で、何をされるかわからないのでパスをした。

それどころか専門学校の場所まで知られたら、この先も待ち伏せとか何があるかわからない。

3人の進路は何も知らない。関わりたくない。


飯塚達は1人1人には常識はあるが、3人揃うと何をしても良くなる。


その結果、考えたのは短期バイトだった。

噂の窓口になる角田の耳に入る前に辞めてしまって金を稼ぐ。それを重ねて遊ぶ金を稼ごう。

そう思っていた。


短期バイトは結構あったが、未経験者歓迎とあっても経験者が来ると勝ち目はない。


やっぱりバイトは無理かと諦めようとした時、隣町の端に昔からある地元経営のスーパーマーケットが短期バイトを募集していたので、電話をかけると「男でも構わない」、「短期のバイトを探していた」と言われ、給料も午後3時から夜10時まで働くだけで一万五千円も貰えるとあって驚きながら話を聞くと、「オーナーが外国帰りでね。決算が8月末で、棚卸の人員が必要なんだ。それでスーパーマーケットって皆簡単と誤解するかもしれないけど、今のウチに男は少ないし、高所の荷物を下ろしてくれる男手が必要だから探しているんだ。どうかな?」と言われて、即日面接に行くと、「狩場君、18歳。若くていいね。棚卸のある8月24日の日に必ず入ってくれればいいんだ。頼んだよ?」と言われて採用された。

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