愛するあなたへ、「ありがとうございました」

「やあ僕だよ。優等生ちゃんだよ」

 日差しの傾き始める中で真っ白なセーラー服を光に照らされながら、僕は大事な言葉を君たちに届ける。

「今までありがとう、そしてごめんね、こんなことになっちゃって」

 建前と本音のようなこんな語り方さえ、もう二度とできないのかと思うと苦しい。

「悲しいよね。僕もだよ」

 本当にもう二度とできないのかと言うと、そうでは無いかもしれない。

 でも、もう二度としない方がいいことはわかっていた。

「僕にはもう、僕自身とこの世界が無理なものだと、手に負えないと、はっきりわかったよ」

 僕は君たちに、大事な話の続きをする。

「僕にはみんなとお話をする能力が欠落している。人として大事な能力が備わっていない」

 コミュニケーション能力。対人スキル。意思疎通。

「そしてこれは無理やりつければいいってものじゃないんだ。僕の性質上、それをしたらみんなが壊れてしまう」

 僕は、人と話しをする時、僕の思いを無理やりみんなにぶつけたり、みんなの嫌がることを突然したりする。

 感情的になったり、攻撃的になったりする。

 もちろん、それをされた相手はタダでは済まない。

 僕は、僕のやっていることが迷惑だと、ちゃんとわかっている。

 嫌という程、理解している。

「だから、僕とはここでお別れ。ね、わかってくれるよね」

 いいや、わからなくても、ここでお別れだ。

 僕は、最後の言葉を言う。

「じゃあね。楽しかったよ」


 世界の光が消える。

 僕の姿は、光とともに世界から消える。


 僅かに一瞬だけ、誰かの涙が見えた。




 私は、ずっとあなたを見ていました。

 なんて言うと、まるで犯行予告のようですね。

 不思議ですか?

 それとも、不気味でしょうか。

 どちらでもない?

 あなたは私のことを、きっと本当は理解しているんだと思います。

 私がどういう人間か、本当はわかっている。

 だからこそ、私を知らないような体でいる。

 あなたは私を見ていないかもしれません。

 私のことなど、はっきり言ってどうでもいいかもしれません。

 あなたは、別の世界を見ている。

 だから、私を理解していたとしても、私に構っている暇などないでしょう。

 正解だと思います。

 だとしたら、この話もきっと、読まれることは無いですね。

 それならそれでよかった。

 そう、ここから先に続く話は、私の独り言です。

 あなたを追い続けた私のただの独白です。

 聞いてもあなたにメリットはありません。

 ここにあるのはきっと、"ほんの少し"。

 後悔でも自責でもない、事実……の中のフィクション。

 ええ、私もわかっています。流石にフィクションだなんて言えないほど生々しい話であることは。

 でも、あくまでフィクションという体で語らせてください。

 私はこれから、そんな"ほんの少し"を語ります。


 私はあなたを見つけてから、ずっとあなたを追いました。

 インターネットでしか関わりがないのに、初めてあなたを知った時から、もうこの数年間だって、ずっと見ていました。

 比喩ではなく、心から想い、追い続けていました。

 あなたの何に惹かれたか?

 自分にはできないことが出来る。

 発言力がある。

 知らない世界にいる。

 私の手の届かない場所にいる。

 どれも私には、初めて見た個性でした。

 あなたは私にとって、インターネットの海の中で、偶然見つけてしまった宝石でした。

 だから、今までにないほどに、強く強く惹かれたのです。

 名前のセンスも、言葉の一つ一つも独特で、考え方も一貫していて、そこだけは少し憎かったくらい、嫉妬するほど惹かれていました。

 あなたと初めて会話をすることになった時、私はろくに言葉を喋ることは出来ませんでした。

 ノリというものも知らず、嘘と真実の見分けもつかず、まだ私にとって広すぎる世界だったインターネット。

 あなたの喋っていることの1割も、私は理解出来ていなかったと思います。

 実は、まだあるんです。

 持っているんですよ。

 あの時の会話の、録音データ。

 憧れのあなたと会話が出来るから、私は会話を一部分だけ、録音をしました。

 容量が全く足りず、本当に数秒程度、それもゲームの攻略方法の話です。

 他の人が聞いても、きっと全く面白くもありません。

 でも私は、時々あなたを思い出した時、それを聞いてあなたを理解しようとするんです。

 あなたが喋っていた内容、意図。

 私は録音データを聴きながら、何度も頭の中で繰り返します。

 思えばあの時、あなたはゲームばかりしていましたね。

 私に、余計な言葉を語ることもしませんでした。

 あなたはゲーム以外のことは、はっきりと断り続けました。

 言い換えれば、ゲーム以外のあなたの姿を、私は見たことがありません。

 あなたは一切姿を見せませんでした。

 でも、だからこそ。

 私は、そんなあなたがきっと、とても好きでした。

 どうか、変わらないあなたのままでいてください。

 私が全部悪かったです。

 あなたに、ゲームではないことを求めてしまいました。

 私が全て間違っていました。

 どうかそのまま、私のことなど気にせず、そのままのあなたでいて欲しい。

 私はそんなあなたが、ずっと好きです。

 もし、悔いているなら自信を持って。

 あなたは悪くありません。ね。

 それとも。

 今はもうゲームなんか、って思っているかもしれません。

 でも、またあなたがゲームをしているところが見れたらいいな。

 いや、知ってます。

 あなたが本当は、私の前に姿を見せようとしたことを。でも、知らないってことにしておきます。

 だって、また一緒にゲームしたいですから。

 今の私が願うとしたら、それだけです。


 ありがとうございました。

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