第1章: リナの発見

第2話 日常と違和感

リナ・アラカワの一日は、規則正しく進んでいく。朝の目覚ましが静かに鳴り響き、彼女はICチップに埋め込まれた記憶ストレージシステムが自動的に送信する最新情報を目にしながら起床する。彼女の生活は、デジタル化された社会の中でシステムに完全に依存していた。


リナの部屋は、未来的なデザインが施されたシンプルな空間で、壁には仮想ディスプレイが取り付けられており、リアルタイムで彼女のスケジュールやニュース、天気予報が表示されている。リナは朝のルーチンとして、まず最初にそのディスプレイで仕事の確認をする。データはすぐにICチップを通じて脳に直接インプットされるため、彼女はわずか数分で一日の予定を把握する。


「今朝の天気は晴れ、気温は21度。外出時には軽装を推奨します」とディスプレイが淡々と告げる。


リナは、記憶ストレージシステムの技術者としての一日を始めるために、ゆっくりとベッドから起き上がる。彼女の仕事は、システムの保守とエラー修正を行うこと。記憶ストレージシステムは、ユーザーの過去の記憶を完全に再現できるように設計されており、リナはその運用と管理を担っていた。


しかし、最近、リナは些細な違和感を感じ始めていた。彼女が職場でデータの確認をしていると、たまに表示される「システムエラー」の警告が、彼女の注意を引くことがある。それは単なる小さなバグかもしれないが、リナはその度に心がざわつくのを感じていた。


「またか…」リナは画面をじっと見つめながらつぶやく。エラーの詳細には、「データ不整合」の文字が並んでいた。彼女はそのエラーがユーザーの体験に影響を与える可能性があることを理解していたが、具体的に何が問題なのかを掴むことはできていなかった。


昼食の時間になり、リナは自動化されたカフェテリアで食事を取る。周囲には、彼女と同じように記憶ストレージシステムの管理を担当する同僚たちがいるが、彼らはそれぞれが違和感を抱えている様子は見受けられなかった。リナは、自己の違和感が個人的な問題なのか、それともシステム全体に関わる問題なのかを悩んでいた。


昼食後、リナは再び職場に戻り、システムのログを確認する作業に戻る。今日もまたエラーの警告が表示されている。これまでは問題がないように見えていたが、最近になってからその頻度が増していた。リナは、その原因を突き止めるために、自分の担当範囲を超えて調査を始めることを決意する。


「何かおかしい…」リナは自分の思考を整理しながら、エラーの記録を細かく調べ始めた。彼女は、記憶ストレージシステムが本来の機能を果たさないことが、単なるバグではなく、何か深刻な問題を抱えているのではないかと疑い始めていた。


日が暮れ、リナは帰宅する。家の中は静かで、仮想ディスプレイが彼女の帰宅を迎えた。彼女は再び、記憶ストレージシステムのエラーに思いを巡らせる。直観が外れていると願いながらも、その不安が次第に増していくのを感じていた。

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