第51話:弱さと強さ
強いとは思っていたが、ライラの戦い様は圧巻の一言だな。
あれだけ使い難そうな剣を分離させたり、合体させたりを繰り返し、更に投げたり盾にしたりしていた。
祝福の効果なのだろうと思うが、ライラが発動する魔法の全てに白い光が纏わり付き、剣を振った後は白い閃光が走っていた。
資料通りならば、此処はA級認定されている場所であり、出てくる魔物も相応なはずなのに、一方的に葬っていた。
ただ、チートと呼べるほど強いわけではない。
何とか次の階層に繋がる階段まで来られたが、ライラの息は絶え絶えであり、消耗しているのは一目で分かった。
今は俺の膝の上で、すやすやと寝息を立てている。
あれ程動いた後なのに、直ぐに寝られるって事は、相当無理をしているのだろう。
しかし、マイケル達の反応を見る限り、ライラの強さはやはり異常なのだろう。
グラデーションの髪は魔力量が多い証であり、それに伴って扱える属性が多い。
確かそう語っていた。
一つの才能と呼べるものかもしれないが、才能は鍛えなければ意味がない。
いくら魔力があっても、魔法名が分からなければ、魔法は使えないはずだ。
あれだけ戦えるようになるまで、相当訓練をしたのだろう。
スラムからのスタートで初めはかなり落ち込んだが、良い拾い物をした。
まあ今は
不安要素は色々とあるが、一番はライラがミスをする事だろう。
ライラにどれだけ魔力が残っているか分からないが、体力は見ての通りだ。
なので、物は試していう事で、いつもの
これまで俺の願いを叶えて来たのだ。
多分ライラを回復させることも出来るだろう。
現在他のメンバーは飯を食ったり、思い思いに休んでいて、此方に注目している者はいない。
やるならば、今だろう。
「天におりまする我が神よ。幼子の献身を汲み取り、癒しを与えたまえ」
ライラの全身が淡く光り、直ぐに消えた。
おそらく成功している筈だろう。
今更だが、五日ではなくて三日にしておけば良かったな。
そうすればここで待っていれば、救援が来る可能性もあっただろう…………いや、流石に罠によって深層にいるなんて思う筈も無いか。
しかし、あの二人組はどうやってダンジョンに入ったのだろうか?
転移装置の所も、ダンジョンの入り口にも門番が居るので、勝手に入るのは不可能だ。
今回ダンジョンへ入る時に、上層に入場申請している人は誰も居なかったはずだ。
直接ダンジョンへと入れる方法があるのか、ギルド内に汚職か癒着している者が居るのか……。
どちらにせよ、あまり良い状況とは言えない。
ギルドについては関わらなければそれまでだが、ライラが居る限りユランゲイア王国の問題は付いて回る。
どうしたものか……ライラと王国がどんな関係か分かれば、また解決策が浮かぶかもしれないが、それを直接聞くのは躊躇われる。
「サレンさん。飲み物とおにぎりです」
悩みながらライラの頭を撫でていると、シラキリが飯を持ってきてくれた。
念には念のため、五日分の食料を持って来てある。
マイケルやオーレン達にも最低三日分は持ってこいと言っているので、餓死するなんてことはない。
トイレの問題もミリーさん御用達の、魔導具があるので問題ない。
一部の物事については、地球より進歩している。
ここら辺は流石異世界と言った所だろう。
「ありがとうございます。シラキリは大丈夫ですか?」
「……大丈夫です」
大丈夫だという割に、シラキリの耳は少し垂れており、元気がない。
まだまだ子供だが、あれだけ戦っておいて、この態度とはな。
自分ではなく、ライラを俺が頼りにしたことを不満に思っていると思うのだが、そこまで不満に思う事か?
まあこのまま不満を持たれても困るし、少しヨイショしておくか。
「シラキリ」
「はい?」
シラキリの頭の上に手を乗せ、ゆっくりと撫でる。
「ライラの様に戦えないのが、嫌なんですか?」
「……別に、そんなんじゃないです」
「後ろを守るのは、シラキリじゃないと出来ない事なんです。ライラでは急に現れる魔物に対応するのは難しいでしょうからね」
俺は何故か回避できているが、地面から這い出てくる魔物は、マイケル達では反応すらできないでいる。
アーサーが何故戦えているかは正直分からないが、シラキリだから、足元や壁から出て来た魔物に対処できている。
ゆっくりと撫でていると、徐々に耳が上を向き始めた。
分かりやすくて助かる。
「ライラはライラ。シラキリはシラキリです。互いに出来る事もあれば、出来ない事もあります」
「…………はい」
「シラキリもライラも今回は頑張ってもらっていますし、此処から出たらご褒美を上げないとですね。何か欲しいものがあれば、考えておいて下さい」
「はい!」
よし、シラキリはこれで大丈夫だろう。
俺の背中にぐりぐりと頭を擦り付けた後に、シラキリは離れておにぎりを食べ始めた。
機嫌が良さそうで何よりだ。
「……どうやら寝てしまっていたようだな。あれからどれ位経った?」
シラキリが持って来たおにぎりを食べ終えた頃、ライラが目を覚ました。
「三十分程です。体調は大丈夫ですか?」
「そうだな……まるで泥の様に寝た後みたいに身体が軽い。それに、魔力もほぼ回復している――シスターサレン?」
俺に膝の上から退いたライラは、目を細めて俺を見てきた。
「レイネシアナ様の御加護でしょう」
「――そうか」
「はい。起きたのでしたら、食事を取ってはどうですか? まだ先は長いですからね」
今回は運良く階段まで来られたが、迷宮型は読んで字の如く迷宮なのだ。
宝箱が落ちている確率が上がる代わりに、一度迷えば出るのも難しいとパンフレットに書いてあった。
今の所宝箱を見つけられていないが、見つけたとしても開けている暇はないだろう。
このパーティーにはマッパーなんて居ないので、現在位置の把握などは難しい……とはならない。
道順の記憶はアーサーができ、進む先が行き止まりかどうかはシラキリが確認できる。
俺のパーティーは結構高性能なようだ。
ライラはゆっくりと食事を終えると、外していた剣を装備した。
「それでは行くとしよう。こんな所に居ても、気が滅入るだけだからな」
その姿は勇ましく、俺よりもリーダーらしいリーダーに見える。
まあ貴族とは人を導く存在でもある訳だし、ある意味リーダーなのだろう。
「そうですね。皆さん大丈夫ですか?」
「大丈夫です。それと……すみませんでした!」
マイケル達に声を掛けると、急に頭を下げられた。
どういう事だとライラを見るが、肩を竦められるだけだった。
「俺は……俺達はただ文句を言うだけで、何もしないで……俺……」
「僕も……少し自分を見失っていたみたいです。すみませんでした。サレンさんを見習って、生きて帰ることを考えるべきでした……」
妙に静かだと思ったら、反省していたのか。
やる気があるのは良いことだが、現状こいつらが出来ることは何もない。
地面から現れる魔物の攻撃を避け、アーサーとシラキリの邪魔をしないでくれれば、それで良い。
「此処は本来私達では、何も出来ずに死を迎えるしかない場所です。取り乱してしまうのも仕方ないでしょう」
俺としては何でライラやシラキリが、ここまで落ち着いていられるのかが、本当に分からない。
「それに、私もそうですが、この深層では無力ですからね。ね、ライラ」
「………………そうだな」
おい、なぜなら視線を逸らして、しかも答えるのに時間が掛かってるぞ?
ライラちゃん? こっちを見なさい。
「だけど、俺達だって冒険者ですし……」
「足元の魔物にすら反応できないのですから、前に出ても後ろに出ても死ぬだけです。反応出来なければ、私の祝福も無意味ですからね」
剣を当てられないのでは、祝福を掛けたところで意味がない。
まあライラに、他の人間に掛けるのは止めるように言われているので、コイツらに活躍してもらうのは不可能なのだがな。
ライラはあまり怒らせない方が良い。
「そう……ですね」
「私も魔法を試してみたけど、全く効きませんでした……」
「こちらも似たようなものですね……私クラスのターンアンデッドでは、足止めにもなりませんでした」
マイケル達の中で唯一活躍できそうなベレスとスフィーリアだが、深層ともなると有効打を与える事が出来なかった。
やはりシラキリやライラが可笑しいのだろうと、再確認させられる。
もしくはそれだけ深層に出てくる魔物が、強いという事だろう。
ベレスの魔法が効かないのはまだ分かるとして、一応アンデッド特効の魔法が使えるスフィーリアの奇跡も、此処の魔物には無意味だった。
スフィーリアの加護が弱いのもあるかもしれないが、それだけ魔物が強いのだろう。
「ライラが強いのは、それ相応の過酷な努力をしてきているからです。もしも悔しいのでしたら、その悔しさをばねに、努力をしなさい」
問題としては、そもそもここから生きて帰れるかだが、この調子なら多分希望を持っても大丈夫だろう。
「落ち込むのは構わないが、そろそろ行くぞ。シラキリとアーサーも良いな?」
話し合いをしている間に、アーサーとシラキリも準備を終え、武器を鞘から出している。
さて、残りも頑張ってもらうとしよう。
今のライラなら、ドラゴンゾンビすら簡単に倒せるだろうから、安心だ。
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