第44話:そして誰も居なくなる
約四時間程ダンジョンへ潜った後、良い時間となったので外へと戻った。
四時間は体感となるが、大きく外れてはいないだろう。
営業で培った時間把握能力は、伊達ではない。
一層での事故以降は口で歌うのは止め、鼻歌に留めるようにした。
最終的に五層まで一通り魔物を殲滅したが、他のパーティーとは会わず、帰る時もすれ違わなかった。
どんだけ毛嫌いされているんだと思うが、ポンと治療費に四十万を払えと言われることを考えれば、致し方ないのだろう。
ダンジョンは此処以外にも沢山あるのだ。
もしもの時のリスクを考えれば、皆逃げるだろう。
この罠が中層の奥や深層だったなら問題は大きくならなかったのだろうが……おかげで大量の魔石を手に入れることが出来たので良しとしよう。
しかしこのマジックバックは凄いな。
いくら魔石を入れても重くならないし、膨らむこともない。
何かしら制限があるのだろうが、個人用に欲しくなる。
また、剣に掛けていた祝福は消えろと念じたら、消えてしまった。
異世界とはよく分からない。
「お戻りになられましたか。中はどうでしたか?」
一層から入口の階段を上がると、入る時に話しかけていた門番が声を掛けてきた。
「うじゃうじゃと居たが、五層までは一度殲滅をした。我ら以降に入って来たパーティーが居ないようだが?」
「皆怖がってしまって駄目そうです。この様子ではダンジョンコアを破壊する事になるでしょうね」
やれやれと言った感じに門番は溜息を吐く。
維持費が高くなり、収益がマイナスになるようなら撤退するしかないからな。
ダンジョンとは、一種の店舗みたいなものなのだろう。
「我らには関係ない事だが、精々頑張ることだな」
「ははは。そうですね」
ライラなりの慰めを門番はちゃんと受取り、爽やかに笑う。
ダンジョンの外の広場には、来た時には居たまばらな人もいなくなり、日も傾き始めている。
静かな道を歩き、ギルド出張所へと入る。
「あっ、お帰りなさいま……せ?」
俺達の受付をしてくれた人がギルド内の掃除をしており、冒険者は誰も残っていない。
門番さんが溜息を吐くのも分かる。
「ただいま戻りました。此方の清算をお願いできますか?」
「は、はい。分かりました。所で、ダンジョンはどうでしたか?」
「此方の二人が頑張ってくれたおかげで、五層目まで掃除が終わりました」
「そ、そうですか。それではしばらくお待ちください」
掃除と言った所で少し顔を引きつらせていたが、何故だろうか?
あっ、一層でやってしまった事は、お金を受け取る時に話すとしよう。
「座って待ちましょうか」
「そうだな」
「そうですね」
空いている……誰もいない椅子へと座り、ハンマーを床へと置いて一息つく。
結構(二人が)頑張ったが、 果たして幾らになることやら。
そう言えばミリーさんに預けたシラキリは大丈夫だろうか?
物覚えも良いので大丈夫だとは思うが、少し心配してしまう。
学園とまではいかないが、それなりに良い所には入って欲しい。
「お待たせしましたー。受付までお願いします」
椅子に座り軽く目を閉じていると、受付の声が聞こえた。
どうやら少し意識が飛んでいたみたいだな。
肉体的な疲れを感じないが、精神的にはやはり疲れていたらしい。
最低限生活の目途が立ってきたせいで、悪い意味で精神が安定を始めている。
自己の肯定とはやはり難しいものだ。
いっそ記憶が無ければ良いのに、何の恨みがあってこんな事になっているやら……。
……おっと、先ずは金だな。
「それでは行きましょう。お腹も空いてきましたからね」
三人で受付の所に向かうと、きょろきょろとして検挙不動になっていた。
「えーっと。今回ですが、総額で十万ダリアと、依頼料の五千ダリアになります。また、サレンディアナ様とライラ様の貢献度ランクが昇格となりました」
前回の懺悔室はともかく、今回のでも上がるのか……。
貢献度ランクはそうそう上がるものではないと聞いていたが、ランクが低いとは言え早すぎないだろうか?
「疑問はあると思いますが、後程マチルダが補足説明をするとの事です。サレンディアナ様とライラ様はギルド銀行が使えますが、報酬はどういたしますか?」
またもやマチルダさんが、何かしてくれたみたいだな。
冒険者ランクはともかく、貢献度ランクは上げておいて損はない。
……そう言えば報酬の件について話してなかったな。
「報酬は三分割で宜しいですか?」
「いや、シスターサレンが八で、我とアーサーは一で良い。喜捨として受け取って欲しい」
ふむ。ここは断っても角が立つな。
アーサーの方を見ると、頭を下げてきた。ライラに同意って事だろう。
「分かりました。二万ダリアは引き出していただき、残りは預かりでお願いします」
「我とアーサーの分は我のに入れておいてくれ」
「承知しました」
いそいそと準備を始めるが、今の内に言っておくか。
「それと、一つダンジョンに関して報告があるのですが」
「え? はい。何でしょうか?」
「実は私のミスのせいで、一層の魔物がしばらく湧かなくなってしまったのです」
「…………えっ?」
「実は一層で奇跡を使ってみたのですが、思いの外効果があり、一層全体を浄化してしまったのです」
歌っていたら勝手に発動したのではなく、試したら思った以上の効果があった。
事故は事故でも、故意と無意識ならば、受ける印象が変わる。
「…………一応確認させていただきますが、今の話が本当だとしても状況が状況のため、ギルドがサレンディアナ様を罰することは無いと思います」
「私のミスでご迷惑をかけてすみません」
「いえ! 今回来ていただいただけでも大変助かっています。今後どうなるかは分かりませんが、またのお越しをお待ちしております!」
バッと綺麗なお辞儀をするが、まだ報酬を貰っていないから帰れないんだよな……。
1
報酬の催促をし、俺のハンマーとアーサーの剣を返してから、墓場の掟を後にした。
馬車でホロウスティアに着く頃には、ほとんど日が沈んで、街灯が灯り始めていた。
直ぐに西ギルドの転移門を使い、東ギルドへと帰った。
帰り道にライラが話してくれたが。今日稼いだ金額は決して多いわけではないそうだ。
本気を出せばと頭に付くが、中層の奥の方なら直ぐに稼げるらしい。
あれだけ魔物を惨殺していたが、ライラが得意なのは剣による戦いではなく、魔法での殲滅らしい。
剣の方はまだ修行中とのことだが、俺の記憶が正しければアドニスと互角以上の戦いをしていた気がするが…………まあいい。
位の低い魔石は脆く、物理はともかく膨大な魔力を浴びると直ぐに壊れてしまう。
殺すだけなら簡単だが、魔石の確保を考えると上層は面倒なのだろう。
それに受付の人が言っていたように、下手に強大な魔法を使えば、魔物が一時的に湧かなくなってしまう。
奥の方に行けば行くほど、ダンジョン側の魔力が強くなるので、稼ぐのならやはり奥の方なのだろう。
今回は実体のある魔物とは会わなかったが、奥の方に行けば生きている魔物にも会えるそうだ。
話している最中に思ったのだが、現在のライラの冒険者ランクはEランクだ。
ランクの低いダンジョンの上層の奥の方に行ける程度のランクの筈なのに、何故中層や深層の事を知っているのだろうか?
ダンジョン次第では全体的に浅く、弱い所もあるが、話を聞いている感じそうではないのだろう。
これは後でミリーさんと二者面談した方が良いのだろうか?
……いや、別に俺はライラとシラキリの保護者って訳ではない。
俺が一々口出しするのは、お門違いだろう。
だが、無理をされて死なれては俺の収入源がなくなってしまう。
「お帰りなさいませ。ダンジョンはどうでしたか?」
ギルドのロビーに戻ってくると、マチルダさんが待ちかまえていた。
「人がほとんど居ませんでしたね」
「冒険者はリスクを気にしますからね」
苦笑いをしたマチルダさんは、やれやれと首を振る。
「話があるので、少しお時間を宜しいでしょうか?」
マチルダさんからの話は悪い予感しかしないんだよな……。
かと言ってちゃんと此方にもメリットがあるし、受けた方がメリットはあるだろう。
ライラの方を見ると、軽く頷かれた。
シラキリには悪いが、帰るのはもう少し遅くなりそうだ。
「大丈夫です」
「ありがとうございます。話は副支部長室で行うので、付いてきてください」
あの人の部屋か……上の人間が出てくるって事は、思いの外重要な話のようだな。
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