第32話:力を示そう

 馬車に揺られ、久々に冒険者ギルドへと来た。


 相変わらず人の出入りは激しく、皆が戦うための武器を持っている。


 俺の様な神官的な人も杖やメイスを持っている。


 当たり前だが、流石にハンマーを持っている神官は居ない。


 始めて来た時は俺の方に集中していた視線も、今はライラやシラキリの方に集中している気がする。


「おっ、サレンさんじゃないっすか」

「お久しぶりです。ちゃ……アドニスさん」


 冒険者ギルドに入ろうとした所で、チャラ男改めアドニスが挨拶をしてきた。


 チャラい雰囲気は相変わらずだが、悪い男ではない。


 例えるならば、バイトの陽気な先輩って所だろう。


「丁度良い所に来た。ミリーさんが何所に居るか知っているか?」

「ミリーか? あいつならまだ説教受けていると思うぜ」


 アドニスに先導されて冒険者ギルドに入ると、マチルダさんの前の席に座っているミリーさんが居た。

 流石に声までは聞こえないが、ミリーさんは背中を丸めてしょぼくれている感じがするな。


「な」

「何かしたんですか?」

「何かって……その二人から話を聞いていないのか?」


 二人から?


 ライラとシラキリの方を見ると、目を逸らされた。


 これはアドニスに聞いた方が早いか?


「何をしたんですか?」

「俺も他から聞いただけの話なんだが、原因は俺が面倒を見ているあの四人組の冒険者だったらしい」

 

 アドニスの話を纏めると、事件は昨日の夕方。

 場所は訓練場で起きたそうだ。


 どうも双竜ノ乱ツインヘッドドラゴンの四人が、他の冒険者に難癖を付けられたのが始まりらしい。


 どうやら俺の事やイノセンス教の事とかを話していたら、冒険者の癖にーとか、これだから田舎上がりとか言われ、売り言葉に買い言葉で喧嘩となった。


 訓練場での喧嘩は日常茶飯事であり、ちゃんと刃抜きされた武器を使っているのならば、他の冒険者達も囃し立てるだけだ。

 何ならその場でどちらが勝つか、賭けを行ったりもするそうだ。


 双竜ノ乱は四人組のパーティーなのだが、相手は六人組のパーティーで、人数的に不利であった。


 それでも双竜ノ乱は一歩も引かずに戦うのだが、やはり劣勢となる。


 そこに飛び込んだのがライラとシラキリだ。


 戦いが始まった時はなんの騒ぎだと遠くからで見ていたが、戦いの原因を知ってシラキリが飛び込み、仕方なくライラも飛び込んだそうだ。


 因みにその場にはミリーさんも居たらしいが、酒を飲みながら見ていたらしい。


 シラキリが乱入した理由だが、本人曰く俺を馬鹿にしていたのが許せなかったそうだ。 


 小さいガキとは言え、相手も気が立っていたのでシラキリとライラにも攻撃を仕掛けるのだが…………。

 

 主にシラキリが六人をボコボコにして勝利してしまったそうだ。


 双竜ノ乱の四人はシラキリがボコボコにしているのを眺め、ライラは……何だがシラキリの圧を感じるので、これ以上は考えないでおこう。


 そしてミリーさんが怒られている理由だが、監督不行き届きだったからという事だ。

 ついでに賭けで儲けたからとか、訓練する場所で酒を飲んでいるからとかだ。


「なるほど。そんな事があったのですね」

「まあ嬢ちゃん達の口から話すのは躊躇われる話だが、怒らないでやってくれよ。悪いのはこっちのひよっ子共だからな」

 

 ぼりぼりと頭を掻きながらアグニスは顔を横に向ける。


 視線の先を見ると、双竜ノ乱の四人が居た。

 

 なんだか申し訳なさそうな顔をしているが、高々三日で問題多すぎないか?


「あまり暴力沙汰は困りますが、彼らも悪気があった訳ではないのでしょう」

「そう……だな」


 若干声が詰まったが、何か文句でもあるのだろうか?


 察しはつくので無視するがな。


 そうだ。一応こいつも信徒だし、報告しておくか。


「話は変わりますが、遂に信徒が二十人を越えましたので、近々正式に登録をしに行こうと思います」

「それはめでたいな。昔新興の宗教に幾つか誘われたことがあったが、殆どこの都市から消えていく中で二十人も集めるなんて」

「運が良かったのでしょう。ミリーさんに感謝ですね」


 あの酒場で一気に増えるなんて、思いもしなかったからな。


 あれがなかったら地道に布教しなければならない所だった。

 

「また後でお祝いはさせてもらおう。暫くは馬鹿をしたひよっ子共の面倒を見てやれって頼まれちまったからな」

 

 じゃあなと手を振ってから、アドニスは双竜ノ乱の所に向かっていった。

 

 さてと、怒るなとは言われたが注意位はしておかなければな。


「二人共、私の事を思って行動してくれるのは良いですが、あまり無茶をしては駄目ですよ」

「……はい」

「別に無茶ではなかったさ。あの程度ならば問題ない」


 しょんぼりと耳が垂れるシラキリとは違い、ライラは反省の色は見えない。


 そりゃあハイタウロスに比べれば問題ないかも知れないが、忘れてはならないことが一つある。


「確かに問題ないかも知れませんが、少しの不注意や慢心が招く結果を、忘れた訳ではないでしょう?」

「……そう……だな」


 ライラとシラキリは、どちらも死にそうになっていた。

 ライラの方は詳しく知らないが、それでもライラを殺せる存在はいるのだ。


 更に言えば、死にかけて生きているって事は、また命を狙われる可能性があるってことだ。


「二度ある事は三度ある。その様な言葉がイノセンス教にはあります。意味は分かりますね」

「……そうだな。少し気が抜けていた。以後、気を付けよう」


 分かってくれたようで何よりだ。


 自分で言っといて何だが、この二人の抱えている問題は解決するか、巻き込まれないように距離を離すか選ばなければならない。


 俺がどうにか出来る問題なら良いが、巻き込まれて死ぬのだけは御免だ。


 世話にはなったが、自分の命に比べれば小さいことだ。


 人など……他人など信用するから馬鹿を見るのだ。


 ――また頭に痛みが走ったな。


 気を取り直して、怒られているミリーさんの所に向かうとしよう。


「少し説教臭くなってしまいましたね。それでは行きましょう」

「――うむ」

「はい!」


 俺達が話していた間も、ミリーさんはまだマチルダさんに怒られている。

 多少近寄り難いが、恩を売るには丁度良いだろう。

 

「……ですから、年上であるあなたが注意しないでどうするんですか。確かに冒険者は自己責任ですが、だからこそ若い世代に対して責任を持ち、未来に誇れるような……」


 …………これはあれだな。年寄りが長々と説教を続ける奴と同じだな。

 エルフだから見た目はJKだけど、.心はBBA……おっと、これ以上は黙っておこう。


「すみません」

「あっ、サレンさん」

「おお、サレンちゃん久しぶり。元気してた?」


 俺に気付くなりミリーさんは急に元気になり、視線でどうにかしてくれと訴えかけてきた。


「先日は二人が迷惑を掛けたようですみません」

「いえ。新人が失敗するのは仕方ないことです。ですから失敗をする新人を導くのが、先輩としての役割だと言うのに……」

「ミリーさんには助けてもらっているので、大丈夫ですよ。それに、失敗は誰にでもあるものです。叱ることも大事ですが、寛容な心で許すことも大事ではないでしょうか?」


 因みに会社では新人のミスを許しながらも、その分俺が働くことになったので、それはそれはストレスが溜まった。


 そして酒や趣味でストレスを発散し、表面上出さないように気を付けていた。


 上司からも対人関係や、ミスの挽回の仕方については褒められる事が多く、新人達との関係も良好だった。


 叱咤などはせず、飲みの席で愚痴を聞き、失敗について話してそれで終わりだ。

 

「ふぅ。仕方ないですね。今回はこれで終わりにしますが、折角もう少しでB級に上がれるのですから、皆のお手本になれるよう頑張ってくださいね」

「分かったよー。それじゃあこれで失礼するよ。サレンちゃんに呼ばれたからね」


 呆れ気味のマチルダさんから逃げるようにして離れ、テーブルが複数置かれている場所まで逃げる。


「いやー。助かったよ。最近色々とあったせいかピリピリしていてね。まさかこんなに長く説教されるなんて思わなかったよ。それで、なんか用があるの?」

 

 げんなりと項垂れているが、余程マチルダさんの説教が堪えたらしい。

 説教って結構疲れるんだよな。


 その癖説教をする方は疲れ知らずである。

 

「色々って何かあったんですか?」

「あれ? その二人から聞いてないの?」


 再びライラとシラキリの方を見ると、再び視線を逸らされる。


 この二人には今度、報連相についてみっちりと教え込むとしよう。

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