第29話ー綾華の狂気


 呆れた表情を浮かべる綾華に、陽葵は少しムスッとした表情を浮かべる。


「えぇ……でも最近気をつけてるよ?」


「陽葵ったら気づいてないんだからもう……」


「何によぉ……?」


 ヤレヤレとした雰囲気で綾華が言うと、ムスッとした表情の陽葵が目を細めた。


「今はそうでも無いけど、蒼と一緒に居る時の陽葵って、口調が蒼っぽいのよ……昔は男の子っぽくて注意したのに、直ったかと思えば蒼っぽい口調になって駄目だったわね……」


「だ、だってさぁ……蒼をさ、意識……しちゃうんだもん」


「可愛いわね!?」


 遠い目をしている綾華に、顔を赤くしてモジモジしている陽葵がまたも乙女らしい言葉を言うと、その可愛さに綾華は驚きを隠せないでいた。


「か、可愛いって……あたしなんかより、綾華の方が可愛いよ……へへっ……」


「そんことないわよ……だって、陽葵はこんなにも可愛いんだもの」


「そう、かな?へへっ……綾華、ありがとう」


「ありがとうも何も本当のことよ」


 親友に可愛いと言われて自信が回復した陽葵は、大人っぽさがある綾華の可愛い所が見たいからと、ニヤリとした顔で過去を掘り返す。


「ところでさ、綾華は最近の樹のどんな所が良かった?そういえばさ!綾華、樹に好きって言われて倒れたよね!」


「………………っ!?そんなこといつあったのかしら!?」


 陽葵の言葉に綾華は少し呆然したかと思えば我に返り、そんなイベント何時あったのかと興奮しながら迫ってきたものだから、バシャりと陽葵の顔に温泉が掛かった。


「うわっ!」


「ごめんなさい……少し興奮してしまったわ。ところで、それは本当かしら!?」


「うん、本当だよ。『僕は綾華のこと好きだから。全然嫌じゃないよ』って!」


 陽葵が声真似をしながら過去の樹のセリフを再現すると、綾華は胸の前で手を交差させ身震いをする。


「そ、そんなぁ……か、か、か、か……カッコ可愛いーーーーっ!!好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き。樹……す、き」


 身震いをしながら一つの単語を連呼する綾華。

 その姿は名状しがたく、幼なじみの陽葵ですら恐怖の色を隠しきれない。

 連呼が終わったかと思えば「樹好き……」と光沢した笑みでニヤリと笑う綾華に、陽葵は絶句し落ち着くことを促した。


「…………………………………………おっふ。少し落ち着こーよ」


「はぁ……はぁ……はぁ……ちょっとね、脳内再生したら好き過ぎて興奮しちゃったのよ。でも、もう大丈夫よ。落ち着いたわ」

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