第391話

今夜は早寝を要求された。パイクお義祖父さまの家には空き部屋が二つあって、一つは屋根裏部屋で、もう一つは地下。どちらかを俺の部屋にしていいって。地下室って憧れるよね。チョット怖いけど。屋根裏部屋も居候の部屋って感じで、いかにもアニメや漫画やゲームの設定感。アンディーは屋根裏部屋の方が好みかな?


いきなり地下室はちょっと怖いので、今夜は屋根裏部屋で寝る事にした。地下室は明日の明るい時間帯に試してみて、大丈夫そうなら夜寝てみる事にする。



ムキュウ ムキュウ

(「ますたー あたち ここ すき」)



アンディーは梁を楽しそうに移動している。家を建てるなら天井の高い家もいいかもな。地下室はどうだ…って? 最初は要らないと思っていたけど、モヤシ栽培には必要かもしれない。う〜ん、天井が高くて地下室があって厩のある家か……節操ないな。


ベッドはパイクお義祖父さまのお手製だ。木工と蔓細工を合わせた作品。床板部分が蔓細工になっていて、通気性に優れている。マットレスは麦藁と詰草を混ぜて作ってある。数カ月に一度、定期的に交換するので衛生的。交換した中身は浄化などを掛けた後に家畜の餌に回る。汗で塩気がするのか家畜には人気なのだとか。


そんな話を聞くと職校の学生寮の寝具の中身を気にしていなかった事に気付いた。様々な素材を試しているらしい。パイクお義祖父さまの予想では年明けにも拭き草の茎から剥いだ皮が使われるのではないか? ……だって。


枕側の壁にはフィオナお義祖母さまの組んだ飾りが飾られている。安眠の御守りなんだって。そう言えば前世でもあったな。ネイティブアメリカンの装飾品のドリームキャッチャーだっけ? 蜘蛛の巣を模した物に羽飾りが下がっていたっけか。異世界にもそんな風習が有るのかと思ってフィオナお義祖母さまに聞いてみたら違った。



「フィオナお義祖母さま、壁に下がっていたのは護符かおまじないですか?」


「ミーシャさん、あれは安眠の御守りですわよ」


「何か謂れがある物なのですか?」


「あら、あれは私のオリジナルなのですわ」


「フィオナお義祖母さまの?」


「ええ。よく眠れるですわ」



ちょっと鑑定してみ………見えない!?



「あ、あれ?」


「ふふ…、ちゃんと発動したのですわ」


「発動?」


「あれはちょっとしたスキルや魔法の発動を阻害するのですわ。安眠にスキルや魔法は不要ですわよ」



フィオナお義祖母さま曰く、スキルと魔法の発動を阻害する魔法陣を組み込んだ組紐細工で、有効範囲は半径三メートル程度。眠る時に無意識にスキルや魔法を発動させない様にするなのだとか。何だよその携帯電話の電波を強制的に遮断する様なシステムは。


特に変わった素材を使う訳でもないので、手順さえ間違えなければ蔓でなくても縫い糸でも、それこそ髪の毛や髭でも組めば効果が発動する。どこか一カ所が切れると効果も切れるので無力化は意外と簡単。野外に設置していても数カ月から数年で素材が朽ちれば無害化する。まぁ、スキルと魔法阻害の魔法陣の効果を超えてしまうレベルの強力なスキルや魔法であれば無効化は出来ないのだけれど。『スキルマジック阻害陣』だそうな。ユニークスキルや念話は無力化されなかったよ。


なので、このベッドで寝ながらアンディーと念話は出来るのだ。



「ミーシャさん、その組紐ですけれども、『キーボックス』は無効化できませんの。なので邪魔だと思ったら『キーボックス』もしくはマジックバッグの中に仕舞ってしまえばよいのですわよ」


「ありがとうございます」



ちょっと待て、『キーボックス』って上位スキルだったのかよ。まぁ小さいと言えども次元収納な訳だしな。それが酔っ払いの落とし物防止で種族特性なんだから恐ろしい。


屋根裏部屋はワンフロアなので広い。流石に荷物も置かれているので全部を使える訳ではないけれども。ベッドと反対側にアンディーのトイレを置いておいた。


アンディーは屋根裏部屋に上がって来てから大層ご機嫌で、柱を登り梁を走り、棟木?垂木? 屋根を支える為に平行に設置されている木材に掴まったり飛んだりと忙しい。もう、ね、野生のムササビ状態ですよ。


そうだ、『汎用魔法』の『注水』とかが使えないんなら、水が飲みたくなった時にサッと飲めないじゃないか。何となく便利に使えるから意識していなかったけど、『注水』って本来なら水魔法のカテゴリーなんだよなぁ。百歩譲って風魔法の『除湿』からの『注水』だ。ただ、除湿すると空気中の水蒸気から水が生まれるのは前世の知識があるから考えが浮かぶ訳であって。


いかん、考え過ぎると頭が重くなる。野草クッキーでも……ってそれじゃあ【魔増マゾそう】中毒だ。きっとこういう症状を抑える為にスキルと魔法を阻害する魔法陣が必要なのに違いない。



キュウ?

(「ますたー だいじょぶ?」)


(「大丈夫だよ。でもちょっとだけ頭が重いかな」)


(「ねるの」)


(「そうだね。ボク、お水を貰ってくるから、そうしたら寝ようね」)



アンディーが背中に張り付く。騎士の定位置だ。水が欲しい旨を伝えたら、水差しならぬミニサイズの樽にレバー式の給水コックが付いたものを渡された。これ、便利だよね。エール

ではなく水が出てくると不思議な感じがするのは俺がだいぶドワーフに染まってきた証拠なんだろう。




―――――

(誤字修正)


(誤) 時限収納

(正) 次元収納

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