第99.5話(閑話)

タワシ!! タワシ!!


荷馬車!! 荷馬車!!



威勢のよい掛け声が上がる。ここはヒト族の多く住む『イースト・キャピタル』領の領都『ネオ=アカマデイシャンズ』。常に新しい情報と物とが溢れかえり、流行と欲望とが人と金とを動かしてゆく。そんな『ネオ= アカマデイシャンズ』で今一番人気のコンテンツが『スキルオフ・ダーツ』だ。


名前の通り、スキルオフ状態にされる空間に入り、設置された回転する的に向けてダーツを投げる娯楽で、的は何分割かで色分けされており、そこに景品の名前が書いてある。ダーツを投げて的に当たればそこに書いてある商品が貰えるゲームだ。持ち矢は三投。参加費は銀貨五枚 (前世でいうと五千円相当) だ。一番ショボい景品は薬草で価値は銅貨五枚 (前世でいうと五百円相当) 。薬草でも当たればまだマシな方で、三投全て外せば銀貨五枚が水の泡だ。


それでも射幸心を煽られた人々は『スキルオフ・ダーツ』に日銭を注ぎ込む。



何せ、今一番人気の商品、【タワシ】が景品になっているのだから。



ここ数年で急に現れた【タワシ】なる道具は、植物の繊維を束ねて作られた掃除器具であり、台所掃除に牛馬のブラッシング、屋根の掃除に根菜類の泥落とし等々、用途は多岐に渡る。柔らかくコシのある繊維で作られた高級タワシは、貴族が入浴時に身体の汚れ落としに使ったりもするのだという。


ドワーフが生み出した魅惑の道具【タワシ】。『ばにして にした ブラ』、略して【タワシ】。


ドワーフの熟練のしょう鍛冶師が作り上げる【タワシ】は日に数個しか出来ず、取り扱い商店でも常に品薄状態ときている。素材の吟味から始まり繊細な作業の元で生み出される【タワシ】は使い勝手も良く丁寧に扱えば長持ちする。最近ではカラフルに着色されたカラー【タワシ】も登場しているとか。


そんな【タワシ】大小二個セットが景品になっている。ちなみに【タワシ】のお値段は大が銀貨三枚、小が銀貨二枚だ。一発当てれば元が取れる。二発、三発当てることが出来れば結構な儲けが約束されるのだ。



タワシ!!  タワシ!!



【タワシ】コールの中、一人の男が『スキルオフ・ダーツ』に挑戦をする。


一投目、ダーツは大きく右に外れる。


「クソっ!!」


二投目、ダーツは的に届かず地面に吸い込まれるように落下。


「クソがっ!!」



タワシ!!  タワシ!!



ひときわ大きい【タワシ】コールの中、男は息を整えダーツを構える。


三投目。 ヒュッ  ザクッ!!  的に当たる音がする。


「っシャー!!」


ガッツポーズの男。回転する的が止まる。果たしてダーツの刺さった場所に書いてあった文字は……



     『薬草』



「毎度ありー!!」


店員の爽やかな声が響いていた。



それはガルフ=トングが【タワシ】を完成させてから、もう少し先のお話し。


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