第21話
パイク=ラックさんに魚醤の材料になっている魚を取りにいかないかと誘われた。パイク=ラックさんは木工に詳しいラック氏族なんだとか。家具も作るけど一番重要な仕事は酒樽作りだとのこと。まぁ、そうだよね。ドワーフ的には酒樽大事だよね(笑)
で、樽繋がりで魚醤が出てくる訳だ。
俺の場合、前世の記憶のせいか魚醤といえばしょっつる鍋なんだが、こっちの世界ではドワーフが蒸した芋に魚醤を掛けて食べていた。まぁ、北海道ではジャガイモにイカの塩辛を付けて食べたりもするそうだから、芋に魚醤もアリなんだろう。
山道を進み藪を分け入りながら渓流を目指す。途中、食べられる果実を見つけたので摘み取りながら歩を進める。本当ならガッツリ採取したかったけどパイク=ラックさんに遅れたらマズいのでそこは諦める。一気に進んだので昼前には目的地に到着。蒸した芋と黒パンで簡単に昼食を済ませた。あー、この組み合わせならコロッケ挟んだ惣菜パンがよかったなぁ。ポテサラサンドでもよいんだけど。マヨネーズが無いからポテサラサンドは無理か。
お目当ての魚、『渓流鰮』が棲む川はそれほど深くもなく流れも程々でつい川遊びがしたくなる感じだった。いや、遊ばないよ。遊ばないけど磨きたくなる石は探すけどね。
パイク=ラックさんが魔法を使って簾みたいな道具を作っていた。葦っぽい草を刈り取り、何かの魔法で束ねていた。簾というよりは長〜い腰蓑といった方が近いか?それを川の対岸と此方側に渡す。いつもの漁場らしく簾を引っ掛ける為の杭が打ってあった。
「獲るぞ」
体感で十〜二十分ほど経ったところでパイク=ラックさんがそう声を掛けてきた。いや、腰蓑簾に魚は掛かってないよ。
ゴッチーン!!
いきなり川の中の大岩に岩が降ってきて大音響が響き渡る。
「ハッハッハ、驚かせたかのう?」
ドヤ顔のパイク=ラックさん。
「ほれ、獲るぞ」
見ると浮き上がった魚が流れてゆき、そのまま腰蓑簾に引っ掛かる。あっ、ガッチン漁だ。前世日本だとやったら怒られる漁法だ。異世界だと土魔法で岩を落とすんだな。
適当に魚を捕獲する。一網打尽系の漁で全部獲らずに見逃す事を『神の慈悲』と呼ぶそうだが、そもそも慈悲の心があればガッチン漁はしないのでは?…と思った。
岸に上がるとパイク=ラックさんは手早く腹を開くと内臓とエラを除去し、処理の終わった『渓流鰮』三十匹を十匹単位で木の枝に刺してゆく。魚の目玉に木の枝を通した物を担ぐドワーフの姿はアレを思い起こ出させる。そう、アレ。北海道土産の木彫りの熊!!
『渓流鰮』は鮎にそっくりな魚だった。これが鮎なら炉端で炭火焼きして背中側から丸かじりしたい。こんがり焼いたものを日本酒に浸したものもいいよなぁ…。
「土魔法の他に、雷魔法を落としたり毒魔法を使う方法もあるぞ。魔法を使えない場合は槍術スキルか弓術スキルだな。暗殺スキルで獲る奴もいるみたいじゃがな」
パイク=ラックさんがそう教えてくれたが、魔法を使うのはどれも前世基準だと禁止されている漁法だし、魚相手に暗殺スキルを使うというのもある意味凄い事だと思う。
そして魚以上にいい感じの石を何個か拾えて俺、ホクホクです。
――――――――――――――
誤字修正
『渓流』三十匹 (誤) → 『渓流鰮』三十匹
(ここが更に誤字だった模様です。修正済)
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