第19話

     ――――― 今回はジョー=エーツ視点の話です ――――


先日、ここ関所を兼任している集落に風変わりなドワーフ少女が来訪した。ミーシャと名乗る少女は見た目で判断すると40歳そこそこか?やっと髭が生え揃った感じに見えた。駆け出しの冒険者にも見えなかった。氏族名も名乗らないのがこれまた怪しい。誰であれ関所を通る者には基本『素性鑑定』を掛けるので鑑定してみたら「何かしました?」と聞いてくる。いや、関所を通るんだから普通に考えても何であれ簡易的に鑑定もしくは冒険者証の確認をされるだろ?そんな当たり前の事も知らないし、それどころか『素性鑑定』の波長に反応してみせるんだから世間知らずにも程がある。


基本、鑑定系のスキル持ちは自分が鑑定されると違和感を感じる。が、『素性鑑定』は犯罪歴や奴隷歴を確認する程度の弱い波長しか出さない。『素性詳細鑑定』だったら何代か前までの血縁関係者の犯罪歴まで分かるのでもう少し浴びる波長も強くなるが、それでも普通は国境や関所を越える時に『素性鑑定』もしくは『素性詳細鑑定』されるのが分かりきっているから余計な反応はしないのが基本だ。


間者ではなさそうだが、気配を消して観察してみると部屋で『汎用魔法』の『浄化』を使い始めた。どうやら『清浄』も使えるらしい。つまりミーシャは『対物簡易鑑定』、『浄化』、『清浄』持ちということだ。ヒト族に知られたら拉致されて貴族に飼い殺されされる。貴族でなくても商業ギルド系に終身契約もしくは隷属させられて使い潰される系じゃねぇか。



それだけじゃねぇ、ミーシャの奴は見たことない料理を作ってみせたし、変わった調理道具の知識も持っていた。ミーシャの考え出した知識かもしれないし、育ての親代わりだと言う爺ドワーフから得た知識かもしれない。いずれにしろ普通ではないが。



風変わりな知識持ちというと、ヒト族の間では時折、『転生者』や『転移者』などと呼ばれる異世界よりの来訪者が現れると聞いたことがある。その来訪者はヒト族の知らない知識を持っているのだという。ミーシャが異世界出身者かもしれないし、爺ドワーフが異世界出身者なのかもしれないが、あくまでこれは俺の想像の域を出ない話だ。尤も、ドワーフ史では異世界よりの来訪者は現れた記録はない。破天荒だったという鉱帝カークェイ=エーツですら生粋のドワーフだ。俺達の知らない少しばかり変わった知識を持っているからといって異世界出身者認定するのは軽率すぎる。



ミーシャの奴はヒト族領内に行こうとはしてないみたいだが、100歳を越えるまでは『ネオ=ラグーン領』内から出ない様にやんわりと誘導してやらないといけないだろう。あれはヒト族に知られてはいけない、そんな気がする。

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