第1話 孤独な始まり
幼い頃、彼の手には常に鉛筆が握られていた。まだ文字も覚えたての小さな彼が描くのは、いつも女性の身体だった。なぜ女性の身体なのか、自分でもわからなかった。ただ、その柔らかな曲線と陰影が、彼にとっては何よりも美しく感じられたのだ。
幼稚園や小学校では、彼の特異な絵が同級生たちの間で話題になった。最初は興味半分、面白半分で彼の絵を覗き込む子供たちもいたが、次第にその絵の内容が周囲に違和感を与え始めた。「変態」と呼ばれ、次第に彼は孤立していった。
それでも彼は絵を描くことをやめなかった。学校でのいじめが激しくなっても、家に帰ればまた紙と鉛筆に向き合い、静かに自分の世界に浸るのだった。両親もまた、彼の絵に対して理解を示さなかった。特に父親は、「普通の子供になれ」と強く言い聞かせ、彼の絵を破り捨てることもあった。
中学校に上がった頃、彼の絵に対する情熱はますます強くなっていた。しかし、その情熱が彼をさらに孤独に追い込むことになる。クラスメートたちは彼を完全に避け、教師たちも彼の奇妙な趣味に目を背けた。彼は、教室の片隅でひっそりと絵を描く孤独な存在となっていた。
そんなある日、彼の人生を大きく変える出来事が起こった。美術の授業中、彼が描いた一枚の絵が美術教師の目に留まったのだ。その教師は、彼の絵をじっと見つめた後、静かに彼に近づいてきた。
「君の絵には、特別な何かがある」と、美術教師は優しく言った。その言葉は、彼にとって初めての肯定だった。教師は彼の絵に込められた美しさと情熱を見抜き、彼に対して理解を示してくれたのだ。
その日を境に、彼の孤独な日々は少しずつ変わり始めた。美術教師は彼を美術部に誘い、彼の才能をさらに引き出すための指導を行った。美術部の仲間たちもまた、彼の絵に興味を持ち、少しずつ彼に心を開いていった。
いじめはまだ完全にはなくならなかったが、彼は初めて自分の居場所を見つけた気がした。美術部での活動は彼にとって新たな希望となり、彼の絵はますます美しく、独創的になっていった。
美の追求に対する彼の情熱は、誰にも止められない。それが彼の唯一の生きる意味であり、自分自身を表現する手段だったからだ。孤独な少年が見つけた希望の光は、彼を新たな世界へと導いていく。
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