第三十八話「生徒会」



 ピクニックが終わり、数日が経つが。

 あのピクニックは非常に良い結果を産んだ。

 もちろん私たちにとって青春(アオハル)の良い想い出になったのもあるが、どうも梶原君がスケッチの楽しさに目覚めたようなのだ。

 部活中はもちろん皆和やかに会話を楽しんだり、時々ゲーム等もしているが。

 それ以外は次の同人即売会に向けての執筆をしている。

 同時に、梶原君もさすがにまだイラストを載せるのはおっかないと拒んでいるが、まあ千尋がプレゼントした古い液晶ペンタブレットを使って、絵を描こうと試行錯誤しているようだ。

 我が「現代文化研究会」の同人誌に、彼のイラストが載る日も近いのではなかろうか。

 それはよい。

 それはよいが。


「いよいよか」

「いよいよだねえ」


 放課後。

 校舎の最上階に設けられた生徒会室の前で、二人して立つ。

 私と千尋であった。

 瀬川やエマ、もちろん梶原君には何の説明もしてない。

 変な心配をさせたくないからだ。

 同じ仲間だ。

 説明する義務はあるだろう。

 それはあるが、全て解決した後で良いのだ。

 責任は私たち二人が背負えば良い。


「たのもー」


 道場破りのように「お取次ぎお願いします」と言う言葉を短縮して告げる。

 ガラガラと横開きのドアを開けた。

 生徒会室は狭い。

 そもそもが会議用ではないのだ。

 生徒会役員が純粋に執務をこなすためだけに設けられた部屋である。

 生徒会役員数は少ない。

 生徒会長、副会長、書記、会計、庶務。

 その五名のみである。

 今回は――


「やあ、よく来てくれたね」

「どうも、こんにちは」


 生徒会長である坪香和美(つぼかかずみ)。

 そして副会長の岩堤穂香(いわつつみほのか)。

 その二名のみが席に座っていた。

 二人とも一度席を立ちあがり、こちら側に手を広げる。


「まあまずは座ってくれたまえ。長い話になりそうだからね」


 生徒会長はそう言うが。

 

「こちらはそんな気、ないんですけどね」


 千尋が冷たく答える。

 だが、ここで席を蹴とばすわけにもいかぬ。

 二人して、目の前の椅子に座った。

 生徒会の二人も、それを見届けてから礼儀正しく席に座り直す。


「さて、通達はすでにしたが。高橋千尋さん、君が部長を務めている『現代文化研究会』について。同好会から部へ昇格する件についてだが――」

「お断りします。メリットが無いので」


 千尋は、すげなく断る。

 まあ当然である。


「……高橋君、まあ聞け。メリットはある。まず同好会に部費はないが、部活となれば部費は出る。知っての通り、部費という物は生徒会に決定権があるんだ。部のOBが直接、部に寄付したりなんかする場合は別だがね」


 生徒会長が、横に目をやった。

 副会長が説明を開始する。

 聞く気ないんだけどな。


「部費というものは、基本的に三点である。まずは各部員から徴収した金額。次に、部のOBなどから使い道を指定しての後援としての寄付。これに生徒会は関係ない。だが、生徒会費から各部活に分配される活動費については、まあ生徒会に決定権がある」

「だから?」

「部活動開始が初年度である上に、『現代文化研究会』の活動では、公的な賞の応募や大会への出場など、胸を張れることなど何一つ存在しないのはわかっている」


 喧嘩売ってんのか、コイツ。

 確かにウチの活動は同人誌を書くだけの集まりだ。

 ついでにいえば、オタク同士の交流だ。

 表舞台で胸を張って「こういった活動を行っています」と言える内容ではないが。

 そんなことをチクチク指摘されたくないわ!


「だが、配慮しよう。特別な配慮をしよう。活動実績は無くても良い。部への昇格を認めようじゃないか」


 副会長への返事はこうだ。

 その顔を指でさして、告げる。


「お前殺すぞ」


 舐めてんじゃねえぞテメエ。

 そこまで正面切って喧嘩売ってんならこっちもやってやるぞコラ。

 そういう覚悟でこっちは来ているんだ。

 立ち上がろうとするが、小柄な千尋に袖を引いて止められる。


「落ち着きなさい、初音」

「これが落ち着いていられるか!」


 副会長は平然とした表情をしているが。

 慌てて、生徒会長が口を挟んだ。


「落ち着いてくれ、藤堂さん。今のはウチの副会長が無礼だった! 許してくれ!!」


 すぐさま、謝罪をしてくる。

 ……私はひとまず、席に座り直した。


「岩堤君! 謝りなさい。いくらなんでも今の言葉は一方的かつ、失礼にもほどがある!!」

「……失礼を口にしました」


 生徒会長に指摘されて。

 不承不承と言った感じだが、とにかくも頭を下げる。

 憤懣やるかたないが、謝罪を受け入れないわけにもいかない。

 

「……」


 何も話したくないが、とりあえずはこちらも頭を下げる。

 一応は受け入れた、という姿勢を見せたのだ。

 そして、これだけでよかろう。

 そもそも私は補佐で、生徒会と交渉するメインは――


「さて、生徒会長。坪香さんとお呼びしても?」

「かまわないよ、高橋君」


 千尋である。

 とりあえずはお任せすることにする。

 生徒会員が全員集まったうえで、何やら他の部活部長さえ集まってピーチクパーチク煩く、千尋が責められる可能性。

 それを私は危惧していたのだが。

 そうではないようだから、千尋に任せて失敗はまずない。

 

「繰り返します。先ほど副会長――岩堤さんが仰ったように、当同好会はしょせんは可哀想なオタクの集まり。これといった自慢できる活動実績はありませんし、これから何か自慢できる賞を目指して活動する――そういった予定もありませんので」


 副会長の言葉をあげつらいつつ、千尋が語る。

 ウチは別に自慢できる活動なんかしてねえから、部になる必要なんかないんだよ。

 部費もいらない。


「先生方もお忙しく、顧問だってそうそう見つからないでしょうし、他の部活動を真面目にされている方々とて部費をウチに奪われるのはお嫌でしょう。お気遣いは不要です」

「……」


 副会長である岩堤とやらが、じっと千尋を見ている。

 さっきからなんだコイツ。

 マジで喧嘩売ってやがるのか?

 私は不愉快だった。


「……実は顧問の先生はすでに候補者がいる。まあ積極的に部活動には干渉しないが、名目上の顧問は用意した。他の部活動の部長たちも――別に反対してない。すでに許可を得ている」

「はあ?」


 なんですでに話が進んでるんだよ。

 こっちはまだ何の了承もしてないんだぞ。

 

「要するにだ、こちらではもはや既定路線なんだ。「現代文化研究会」には同好会から部へと昇格してもらわねば困るんだ」

「――」


 ここで千尋は沈黙した。

 岩堤は相変わらず、じっと千尋を見ている。

 私もまた沈黙して、この状況について考えている。

 何故?

 どうしてここまで強引に部へと昇格させようとする。

 ――その理由について。


「梶原君が原因でしょうか?」


 私たちが思い当たることなど、ただ一つしかなかった。

 梶原君である。

 彼しかいない。


「勘違いしないでいただきたい。ただ、部の昇格条件である規定人員の五人に達したからこそ、我々は生徒会として――」


 副会長が、何かそういった言い訳を口にしようとして。


「やめよう、岩堤君。これ以上は見苦しい。私も、君に嘘をつかせ続けるのは辛い」


 生徒会長がそれを止めた。

 その行為は正しい。

 何かどうでもよい言い訳をくっちゃべったところで、私たちはそれを受け入れなどしない。


「君の指摘通りだよ、高橋君。要するに、「現代文化研究会」自体には何の問題もないんだ。趣味を同じくした同志が集まって、その趣味について高め合う。部費も貰わない同好会活動。それに嫌がらせをしたいわけではない。それについては誤解しないで欲しい。君らのオタク活動への偏見とてない」


 すでに嫌がらせしているだろうが!

 そう言いたいところだが。

 千尋が黙っている以上、私も黙っている。


「その、なんだ。そこに一人の男性が入った。梶原君だ。わかるな? 彼が原因だ」

「というと? 別に梶原君は、あくまで彼の意思でウチの同好会に入っただけなんだけど?」


 千尋が反論する。

 梶原君は喜んでウチに入ったわけで、それをどうこう言われる筋合いはない。


「……」


 生徒会長、坪香は顔を片手で押さえている。

 副会長は千尋を見るのを止めて、労しそうに生徒会長を見ている。


「その、なんだ。私たちは君らが好きな漫画やライトノベルの生徒会じゃないんだ。特別な権限など持たない。ただの生徒代表でしかないんだ。与えられた予算をちょっと配分調整する程度の権限しかない。わかるね?」

「まあそうでしょうけど」


 それはそう。

 千尋はそれに対しては頷いて答えるが。


「つまり教職員や、学校に予算を出してくれるOBと対等な立場ではないんだ。そして、多くの生徒からの嘆願を拒めるほどの強権もないんだ」 


 生徒会長はただ目を瞑り。

 こんな恥ずかしいことは言いたくないのだけれどと、全ての事情を打ち明け始めた。


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