第二章
プロローグ
九月を迎え、二学期が始まってから約一週間。
久しぶりに会った同級生たちと夏休みの思い出を語らう時間も過ぎて、いつもの学校生活がまた戻ってきた。
変わったことといえば、夏休み前まで後輩でしかなかった子に、恋人という要素が追加されたことだろうか。
恋をすると世界が変わる、といった言葉を聞くことがある。
今までの人生でそれについて深く考えたことはなかった。
自分が好きになった人が、自分を好きと言ってくれて、恋人になることが想像できなかったから。
けれど人生というのは不思議で、気づけば見目麗しい後輩が彼女になっていた。
口数が少なくて、天然で、人たらしで、自分より背の低い、優しくて美しい年下の吸血鬼。
異性でもなければ人間でもない。けれどそんなことどうでもいいと思えるくらい、とても大切な人。
そんな存在ができて、たしかに少し自分の中に変化があった。
世界が変わる、と言えるほど大袈裟なものではない。
ただ──前にも増して彼女のことをよく見るようになった……気がする。
登校時間が偶然被ったとき、廊下ですれ違ったとき、窓の外で彼女のクラスが体育をしているとき。
そして改めて感じる。
自分の恋人がいかにモテるかということを。
もともと入学時から注目の的ではあった。自分もその流れで彼女を知ったのだから。
けれど最近、その度合いが上がっている気がする。
友情の意味でも、恋愛感情の意味でも、多くの生徒が彼女と仲良くなりたがっているように見える。
それとも自分の中に芽生えた独占欲のようなものが、彼女に向かう視線に敏感になっているだけか。
いずれにせよ、彼女の人気が高い事実に変わりはない。
そのことがほんの少し、胸の内をざわつかせる。
自分はこれからも彼女の一番でいられるのか。
そもそも今、自分は彼女の一番でいられているのか。
彼女と一緒にいられるだけで幸せなのに、一面の青空に漂う少しの雲みたいに、ふとした瞬間に頭をよぎる。
要は、自分に自信がないのだ。
自信がないから不安になる。自信がないから妬く。
もしかして自分は重たい女なのだろうか。
ベッドに横になってそんなことを思っていたら、スマホからポップな通知音が鳴った。
メッセージアプリを開く。相手は彼女だった。
膝の上で丸まって寝る愛猫の写真を送ってくれたらしい。
彼女の華奢な太ももの上に、クリーム色の愛らしい猫が身体を預けている。
──可愛い……。
彼女も自分もあまり積極的に写真を撮るタイプではない。けれど、この可愛さを自分に伝えるためにわざわざ写真を撮ってくれたのかな、なんて思うと、晴れない気持ちが一瞬にして霧散していった。
「好きだなぁ」
友情と恋愛の判断に散々迷った夏休みだった。
けれど、たったこれだけのことでそう思えるこの感情は、やっぱり恋というのだろう。
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