第22話『悪い噂が流れました』
前回のあらすじ:主人公がもう一人現れました
あれから数日…
マーロイ様の婚約破棄の書状こそまだ届いていないものの、婚約破棄の噂は学内に伝わってしまっていたようで、学内での私の居心地はあまり良いとは言えないものとなっていた。
同情的な態度を取ってくれる人も少なくは無かったが、中にはそもそも王子の婚約者であった私の能力を疑問視する者、私の不祥事を疑う者、私がマリアに嫌がらせをしているという根も葉もない噂を信じる者…
反応は様々であったが、少なくとも皆が私を見る目が変わった事は事実であった。
「全く…勝手なものですね、一人ひとりにニエリカ様の素晴らしさを説いて回りましょうか」
『わぁ、モブーナさん、素敵な考えですね!それじゃあ私は悪い噂を流す人達を拉致してきますね!』
「ちょ、ちょっと!2人ともストップストップ!」
「…何故止めるのですか?」
「いや、気持ちは嬉しいけども…多分今それをやるのは悪手というか…より悪評が広まりそうと言うか…」
そしてまあ…例によってというかなんというか、怒りのあまり暴走しそうになるモブーナとママリアを頑張って静止する。
私のために怒ってくれるというのはありがたいことではあるのだが…まあその、少し行き過ぎている所はあるので今の状況ではむしろ逆効果になりかねないというか…
まあ、噂は噂、数日も経てば皆話題にもしなくなるだろう。
…少なくともこの日はそう思っていたのだが。
「見て、ニエリカ様よ、マーロイ様いびりの張本人…!」
「婚約者という立場を良いことにあんな事やこんな事をしていて、マーロイ様も心を痛めていたそうよ…!」
「そんなマーロイ様を救ったのがマリア様なんでしょう?素敵だわ…!」
「聞いた?マリア様、皆から聖母って呼ばれているそうよ?正しくよねえ…」
(どうしてこうなった…!)
噂というものは独り歩きするもの…とでも言うのだろうか。
気付けば周りの噂は『悪役令嬢である私がマーロイ様をいびっており、彼はそれに心を痛めていたが、マリアがそれを救った』というものになっていた。
はっきり言って全く身に覚えのない噂なのだが、こうなってしまった以上否定した所でそれを裏付ける証拠もなく…
いつの間にか、噂はそれが真実かのように伝わりつつあった。
「ほら、言ったではありませんか、やはりニエリカ様の素晴らしさを伝える会が必要なんですよ」
『とても良いお考えです!場所は学園の講堂でしょうか?あ、もし駄目でも私の住んでいる教会を使わせてもらえるよう説得しますね!』
「ふ、2人ともストップストップ!前よりもどんどん過激になってるから!」
「ではニエリカ様は今のこの状況を指を加えてただじっと見ていると、そう仰るのですか!?!?!?!?」
「そ、それは……………私だってなんとかしたいけど……………」
実際、ここまで来ると学園生活に支障が出てくるまである。
当のマーロイ様は噂を否定も肯定もしていないようだし…一体何を考えているんだか…
兎にも角にも、ここ数日の学園の居心地は最悪であった。
(とは言え、マーロイ様に話を聞こうにも取り合ってはくれないでしょうし…一体どうしたら…)
「あらあらぁ~?辛気臭い顔をして、誰かと思ったら…ニエリカではありませんの!」
「え、エリカ様…」
そんな私の前に現れたのは…他でもない、エリカ・キュービックであった。
「…エリカ様、何か私に用事でも。あるいは…私を笑いにでも来ましたか?」
「大笑いしに来てやった…とでも言ったらどうする気かしら?」
「…っ!」
予想通りの反応に、身体が一瞬強張ってしまう。
だが、そんな私の反応を見たせいか…あるいは、私の後ろに控えているモブーナとママリアの凄い殺気を受けたせいかは分からないが、エリカ様は私と対峙する時にしては珍しく神妙な顔になる。
「…コホン、まあ流石に私も今の貴方を笑うような趣味の悪さは持ち合わせておりませんの」
「…では他に何か…?」
「ええ、ちょっと、気になるものを見てしまったのよね」
「気になるもの…?」
「ええ…以前から貴女にちょっかいをかけていた2人、居るじゃない、名前は確か…キョウリとアキ、とか言ったかしら」
「ああ…そうですねえ…それで、彼女達が何か?」
「噂の出所、あの2人よ」
「…!!!」
キョウリとアキが?
まあ…確かにあの2人は何故か私を目の敵にしていたけれど…こんな噂を流すような狡い事をするような…というか出来るとは思っていなかったが…
「…それ、本当なの?」
「私自身の目で見たのよ?ニエリカ、貴女まさか私を疑う気かしら?」
「い、いやそんな事は…というか、仮にそうだったとして、何故それを私に教えてくれるのよ」
「そ、それは…」
「…それは?」
「わっ、私以外の人に破滅させられるなんて、そんな事あってはならないからですわよ!!!貴女を破滅させるのはこの私ですの!お分かり?」
エリカ様のその一言に、なんとなくほっこりとした雰囲気が流れる。
ツンデレだ、俗に言うツンデレというやつだ。
「…な、何を微笑ましい目で見ているんですの!とにかく!気になるんでしたら本人達にでも直接問い詰めれば良いんじゃないですの!」
プリプリと怒りながら彼女は去って行く。
しかし…実際彼女の言うことが真実なのかどうか、彼女達を一度問い詰めてみる必要があるだろう。
最も…素直に答えてくれるかどうかは分からないが。
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