第49話 出鼻くじかれる男




 俺は続ける。


「今のところ、君たちはまだ、マインナーズの協会員になれたってだけなんです。資格は持っているけど、それだけ。まだ働けちゃあいない」


 頭に疑問符の浮かんだ要領を得ないような表情で、5人のうち4人が再度互いに顔を見合わせている。

 これ以上、何と言えばわかりやすいかと考えあぐねていると、見かねたのかマサが捕捉の説明を開始してくれた。


「まだ企業と契約していないからね。言うなれば、今の君たちはプロじゃあなくてアマチュアってこと」


 なるほど、そういえば良いのかと思うも、まだ戸惑った表情の子もいる。疑問点があるのだろう。マサは更に続けた。


「あれ? じゃあ、もらえる給料はどこから出てんの? って思うよね。あれは支度金と準備金。協会から出てんの。でも協会は、企業みたいに利益出してる営利団体じゃあないからね。運営費は都市からの補助金と、ほとんどは協会費でまかなってる。で、その協会費ってヤツはどっから出てるかっていうと、俺たち現役の給料から毎月さっ引かれてるってワケ。ぶっちゃけ、君らの給料ってさ、今んとこ俺らが出してるって言っても、過言じゃあないんだよね」


 おお~っ、と声が上がった。


「そうなんだ……」


 そう言ったのはたくえさんだ。


「知らなかったよ」


 これは仲村渠なかんだりさんの言葉である。まぁ、そういうこともあるだろう。学校の授業でもそうだが、長い時間座学が続くと自分にとって優先度の高い情報とそうでないものとを脳が勝手に仕分けることはある。


「初めて聞いたよ!」


 そしてこちらは常白とこしろさんからだった。このあたりから俺は、さっきまでとは別の不安に襲われる。


山入端やまのはさんは驚かなかったね?」


「え? はい、そうですね」


 洲鎌すくらさんが隣に向かってそう訊ねていて、問われた彼女が返答し、続けた。


「だって、講習でそう聞きましたもの」


「え?」


「嘘でしょ……」


「マジで~……?」


 他3人が愕然としている。対して洲鎌さんがあっけらかんと返した。


「だよね。講師の人、言ってたもん」


 安心したように言うが、端で聴いてた俺もちょっと安心する。

 よかった。今年からそういうのを説明しなくなったのかと思った。

 常白さんが言う。


「つまり、アタシたちまだ試用期間でもないってことなの?」


 そういうことだ。マサが頷いて話を再開する。


「まァ、そういうワケで、君らが普通に給料を得ようと思ったら、企業に所属しなきゃあいけないワケよ。つまり就職ね。でも就職してえってなったらさ、企業側にも君らが欲しいって思わせなきゃいかんワケですよ。となると近接だけじゃあキビしいってコト」


「で、でも、今やダイゴさんの人気は前代未聞レベルだって聞いてます! その方と同じ近接だというのなら、企業の方も引く手数多なんじゃあないでしょうか!?」


 質問は洲鎌さんからだ。

 俺とマサは顔を見合わせる。できればこの質問に対する答えもマサが返してくれれば助かるなァと思いながらアイコンタクトを送っていたら、どうやら通じたらしい。苦笑いを浮かべてマサが洲鎌さんの方に向き直った。


「人気は確かにね。けどさぁ、今ってマインナーズの中で近接やってるのって、この人しかいないワケよ」


 この言葉で女性陣の雰囲気が変わった。全員が全員、驚愕の表情を浮かべたのである。


「ええっ!?」


「ダイゴさんだけなんですか!?」


「嘘でしょ!?」


「あんなに実績あげているのに!?」


「他に誰もやってないんですか!? 一人も!?」


 内情を知らなければこんなモンだろう。それにしても驚き過ぎとは思うが。

 逆にマサにとっては彼女たちの反応は織り込み済みだったようで、うんうんと頷きながら最後の質問に答える。


「そーなんスよ。実際のところ、現役でも興味があるのはそれなりにいるんだろうけど、実戦で使ってるヤツはまだいないんだよね」


「なっ、何でなんですか!?」


 食い下がるように再度の質問をしたのは常白さんだ。これも予測していたのか、マサの返答はよどみない。


「普通のモンスター相手だったら銃火器の方が安定してるって思われてんだろうね。ま、コレに関しちゃあ俺もだけど。試すにしても実戦じゃあリスキーだし、前例も少ないからおいそれとは試せない。企業側としても同じ。せっかく採用したのに即モンスターにやられて引退、とかじゃあ大損だからね」


「でっ、でもそういうのも変えるべきだし、変わるべきだと思います!」


「そうだね、俺もそう思うよ。けど、今はまだそうじゃない、ってことなのさ」


 実際のところ、どうなのだろうか。

 本気で考えるとするなら、エネルギー採掘業3社のうち旧態依然とした古兎野開発ウチとヨネクニは確実にマサの推察通りなのだろう。

 しかし、体感ではあるがキセキであれば始めから近接をやろうとする者にも寛容、もとい多少の興味を示すのかもしれない。とはいえ、楽観的にすぎるだろうか。

 彼女たちは納得したというよりは言葉につまった様子で、俺はこの隙に話を先に進めることにした。


「これが一つ目の理由です。二つ目は、何とか運よく一つ目をクリアして就職できたとしても、今度はチームで受け入れてくれるか、という問題があることです」


 再び全員の視線が集中するのを感じつつ、俺は続ける。


「入社後、あなたたちはおのおの戦力バランスを考えたチームにそれぞれ配属されることになります。具体的に言うと、経験豊富なベテランチームか、何らかの事情により役割的なポジションに穴を抱えたチームです。で、そこでリーダーやチームメンバーに受け入れてもらえなかったらそれまでなんです」


 また騒然としてきた。


「あの、すいません。質問があるなら手を挙げてから一人ずつでお願いします」


 俺には聖徳太子のマネはできない。

 速かったのは狼の女性だった。


「どうぞ、仲村渠さん」


「はい。あの……、私たちはこの5人でチーム組む予定だったんですけど、ダメなんでしょうか?」


 ダメに決まっているが、何と言えば良いのかと考えていると、マサが変わりに答えてくれた。


「ダメというか、ムリだね。新人だけのチームなんて聞いたこともないし、同じチームに新人が2名配属されることすらめったにないよ。配属先を希望できるようになるのも最短で半年くらい先かな」


 ええ~~!? という大合唱が起こった。


「あっ、あのっ……!」


 今度は羊の女性が挙手する。


たくえさん、どうぞ」


「はっ、はいっ! あっ、あのっ、ダイゴさんのチームに入ることってできないんでしょうか!?」


 またもマサと顔を見合わせる。今回ばかりは俺が答えないといけないだろう。


「ムリですねえ」


「なっ、何ででしょうか!?」


「俺が今現在所属してるのが救援部対策課特別室なんですが……」


「知ってます知ってます!」


 食いつきがすごい。全員がうんうんと頷いている。


「そこって結構な実績がないと、まず配属されないんです。新人がいきなり、ってのはありえないでしょうね」


 当然だろう。他の仲間を助けなければいけない仕事なのだから、他を圧倒する実績というヤツがどうしても必要になる。それがゼロなど話にもならない。もしやったらやったで周囲からの見る目と特別扱いに対する批判は絶対に厳しいものとなるだろう。

 女性陣が黙ってくれたので、俺は納得してくれたものと判断して、次に進む。


「最後、三つ目の理由です。一つ目と二つ目を奇跡的に突破したとしましょう。就職がかなってチームにも受け入れられた。で、何度か任務を重ねていくつかの実績も積み上げていけたとして、そのうち合同任務に参加することになります。複数のチームと共に仕事を行うこととなり、そこでは多数の銃火器を使用する仲間と共闘します。で、当然に彼らと連携を取らなければいけないのですが、銃火器の知識がないとそれも難しい。……っていうかほぼ不可能でしょう」


 ここで何人かはようやく納得してくれたような表情となった。逆に言えば、まだ何人かはピンときていないようだが、ここはゴリ押しで行く。


「わかってくれたみたいですね。遅かれ早かれ銃火器のことは知らなきゃあいけないんですよ。連携とるためにはどうしたって相手に何ができて何ができないか、どういう特性を持っていてどう動いたら戦いやすいのか知らなきゃあいけません。同じチームメンバーならこちらにあわせてくれるよう頼むこともできるでしょうが、大多数の複数チームだとさすがにムリです。だとすると学ぶ必要がありますが、どうせ学ぶのなら自分も使えた方が得だし、絶対にその方が理解が深まります」


 一気に言い切った。おかげで、たった一人を除いてなるほどという顔になってくれた。

 そのたった一人が真剣な表情で言う。


「よくわかりました」


「わかってくれましたか」


 俺は安堵した。伝わったのだと。だが、全くそんなことはなかった。


「先生はアタシたちの能力を疑ってらっしゃるんですね?」


「何でそうなる!?」


 そのたった一人とは常白さんであった。


「アタシたちの能力を先生に証明したいので、先生、アタシと今から手合わせしてください!」


「は!?」


 場が固まった。いや、固まったのは実際俺だけだったかもしれない。

 強化調整体ではありえることではないが、頭が痛くなってきた気がする。




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