26 兄との会話 03
お兄様はおそらくは勇気を振り絞って言ってくれたのでしょう。ならば私も勇気を出さなければなりません。
「お兄様……私からも言いたいことがあるので、聞いていただけますか?」
「ああ」
お兄様も私の決意を感じ取ってくれたのでしょう。私の手を勇気づけるように優しく、そして少し強く握ってくれます。
「私は……お兄様たちが思うほどいい子ではありません……」
そう、私はいい子ではないのです。心に汚い
「私がコニーたちと仲良くしたいと思っていることも、平民たちを思いやってあげたいと思っていることも、嘘ではありません……」
「……」
「ですが私にはそうすることによって、その人たちの記憶に残りたいという
コニーに友達になりたいと言っておきながら、こんな身勝手な思惑を心の内に隠している私がどうしようもなく汚いものに思えます……
お兄様が私の手を両手で包み込むようにしてくれました。
「君は前世では幸福とは言えないまま人生を終えてしまった。家族以外の人たちの記憶に残ることもなく」
お兄様とお父様とお母様には、私が前世でこことは違う世界で15歳ほどと決して長生きしたとは言えない年齢で、病弱のままろくに出歩くこともできずに一生を終えたことは話しています。
「誰にでも覚えていてもらいたいという欲求があるものだよ。君の前世からすれば余計にそう思うのは当然だ。むしろ君は控えめに過ぎるくらいかもしれない」
「……」
「君がコニーたちと本当に仲良くなりたいとも思っているなら、それでいいじゃないか」
お兄様はそんな私を肯定してくれました。
「ですが……私は大賢者を目指すと言っても、人々のためという立派な理由からではありません……」
「……」
「前世の家族に手紙を届けたい……そして大賢者になれば大勢の人が記憶に残してくれる……そんな自分勝手な理由からなのです……」
前世の家族に手紙を届けたい。それはお兄様たちにも言っていました。ですが後半は言っていませんでした。今世の家族に貢献したいということは言っていたのですが……
「君の前世の家族も本当に君を愛してくれていたんだね」
「はい……ですが私には心の闇もあります……」
「……」
「前世の両親はなぜ私を元気な体で産んでくれなかったのかと
これは誰にも言えなかった私の心の闇です。前世の家族にも今世の家族にも言えませんでした。私は怖いです。こんなことを聞かされたお兄様が私を
お兄様が私の手を握る手に少し力を込めます。
「そう思ってしまうのが、人間だよ。むしろそれを君が前世の家族には言わなかったことが、君の優しさを示すものだ」
「……」
お兄様は私を肯定してくれました。お兄様は私を見ていてくれる。私を守ってくれる。そう思いました。
「君が大賢者を目指すことに自分本位の
そしてお兄様は私の大賢者を目指す思惑も否定しませんでした。
「エマ。私と一緒に大賢者を目指してくれるかい?」
「……はい。喜んで……」
目に涙が浮かんでいるのを感じます。私はうれしいのです。お兄様が私を認めてくれて、そして私に一緒に大賢者を目指そうと言ってくれることが。
「これは私の誓いの証だ。君と共に大賢者を目指すという」
お兄様が私の手を両手で運んで、そして私の手の甲にキスをしました。
すごく気恥ずかしいです。でも、うれしいと思ってしまいました……
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