4-3 写真に反応しなかったな

 風牙は窓際の席に戻り、背もたれに体を預けた。


「まさか彼女が風だなんてな。しかも《治療》まで完璧に使えるときた」

「あなたですら、《治療》習得に三年は要しましたからね」

「二人だ。気楽に話せよ、桐夜」


 桐夜の家系である各務家は代々霧立家に仕えており、風牙は二歳年上の桐夜と物心がつく前から一緒にいる。現在は学園長とその秘書という関係だが、ともにDクラスを立ち上げた仲間であり、唯一無二の友であった。


「じゃあ、言わせてもらうがな。試すためだけに自分を斬るようなバカな真似は二度とやめろ」

「お前まで咲羅さんみたいなことを言うんだな」

「Dクラスについてもだ。いいことばかり教えて、あれじゃアンフェアだ」


 風牙は鼻で笑った。


「ふん。だから時間を与えただろ。どうせ誰かに聞けば嫌でも耳にする。Dクラスの悪評はな」


 Dクラスは優秀な者が集まる。どんなことでもできる優秀な者が。光と影。両方の面がDクラスにはある。前者は人々に尊敬と憧憬を抱かせ、後者は畏怖と戦慄を与えた。


「昔みたいにバカを許される立場じゃないんだぞ。お前はもう、学園長様なんだからな」


 それまで飄々としていた風牙は、とたんに真面目な顔つきになった。


「……わかってるよ」


 風牙は壁にかけられた歴代学園長の写真に視線をやった。


「彼女、持之の写真に反応しなかったな」


 桐夜は頷いた。


「ああ。しっかりと目にはしていたようだが、動揺はみられなかった。持之さんと面識はないようだな」

「だが、持之の方は彼女のことを知っていたにちがいない」

「持之さんは、彼女が《治療》を使えることを知っていたのか?」

「さあ。個人能力が風であることは知ってただろうけどな。学園長の証を持つ者は個人能力を判定できるんだから。赤ん坊のころに判定しておけば、咲羅さんの記憶がないことも説明がつく」

「彼女の本当の親が、持之さんに頼んだのかもしれない」

「家系図は?」


 風牙は、桐夜に風人たちの家系図調査を依頼していた。婚外子の場合、載っていない可能性が高いが、何かしらヒントがないかと思ったのだ。


「まだ途中だ。出し渋る家も多くてな」

「どんな後ろめたいことがあるんだか」


 二人して乾いた笑いを浮かべた。


「引き続き調査を頼む。あと、学園へ戻るよう祥子しょうこさんに連絡をとってくれ」

「ああ、Dクラスは冗談か」

「半分は本気だ。もっと力をつけたらぜひとも入ってもらいたいね。でも、今じゃない。祥子さんが戻ってきたら、Mクラスの復活だ」

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