人でなしどもの愛着 ~こんなクソゲーやってられるか!~
長根木 凪沙
第1話 中村、異世界転移させられる
「ううーん……これだとキャラの声が小さすぎて、何言ってるか分からないな……。もう少し音量上げよう。」
深夜2時、静まり返った部屋で試行錯誤しながらカタカタとキーボードを打つ音とカチカチとマウスを操作する音が響く。
俺は動画サイトでゲーム実況動画を上げているゲーム実況者の『ぽてち』本名、中村 和希。今年33歳 独身、彼女ナシ。
ゲーム実況動画を投稿サイトにあげるため、自宅で一人、動画編集をしている。
約6年前、精神と身体的な限界から会社を辞め、現実逃避で始めたゲーム実況がたまたまバズって、今では78万人チャンネル登録者を抱える人気ゲーム実況者となった。
ここまで俺みたいな根暗な奴が人気になったのは実況を始めた際にたまたま発売されたゲーム『プラネット・リデュークル』というゲームの話題性と面白さ、それにいつも見てくれている視聴者さんのおかげだろう。
このゲームは一人用オープンワールドゲームで、ルート分岐とエンディングが非常に多く、発売から6年経った今でも有志によって新しいルートとエンディングが発見され続け、魅力的なキャラクターも多く、ストーリーも音楽も素晴らしい、遊ぶたびに新しい発見があるとんでもないゲームだ。
ただ、この『プラネット・リデュークル』を作ったゲーム会社、どんなに調べても全然詳細出てこないから若干不気味なんだよな。
流石に神ゲーとは言ってもそのゲームだけやっていると俺と視聴者も飽きてしまうので、たまに別のゲームをやっているが、この『プラネット・リデュークル』も新ルートとエンディングがwikiで更新、開拓される度にそのルートを遊んで実況している。
……まあ、俺の実力不足とクリア条件が厳しすぎて断念したことがあるルートとエンディングもあるけど。
というのもこのゲームはRPG、シューティング、アクションアドベンチャー等々他にも例に挙げていない様々なジャンルのゲームが出来てしまうのだ。そのため、苦手なジャンルが出てくるルートのプレイが出来ないのだ。あのシューティングはもはや人間がプレイすることを想定していないと思う。
「これでよし、と……ふぅ。流石に疲れたな」
実況も一通り編集し終わったので、パソコンの電源を落とす。時計を見るともう朝になっていた。
「うわあ、もうこんな時間か。」
独り言をつぶやきながら、パソコン周りの簡単な掃除をした後、ベットに入る準備をする。俺はゲーム実況者になってから昼夜逆転生活を送っていた。
母さんから「一日中ゲームしてるのはお仕事だからいいけど、せめて昼間に活動しなさい!」って心配されたばかりだからあんまり良くないのは分かってるけど、夜の方が集中できるんだよなあ……。
70代近くになる両親がゲーム実況者っていう不安定な職業を応援してくれるだけでも結構緩い方だと思う。この年代の人たちってそういうのに理解を示さない人もいるし。
ベットに入り、掛け布団を被ってうとうとしていると唐突に甲高い女性の声が聞こえてきた。
「起きてくださいぽてちさん……。あなたは選ばれました。」
俺はついにゲームのやりすぎで幻覚が聞こえてきたと思い、掛け布団を顔まで掛けて眠ろうとする。
「ちょっとお!?起きて!起きろやあ!」
「うるさい……」
「起きろっつの!」
女性は俺に馬乗りになり、両手で布団の上からバタンバタンと南海も叩いてくる。あまりにもしつこく叩かれたことで俺は目を覚ます。
「ええ……なんだよ、もう寝ようとしてたのに……。」
「やっと起きましたかぽてちさん。」
「……なるほど、夢か。」
「寝るなあ!!」
俺の部屋に金髪美少女がいるとかどんなラノベだよと考えながら、布団を被ろうとすると再び叩き起こされた。痛い……。
仕方なく布団をどかして、金髪幼女に目をやるとぷくーッと頬を膨らませていたのは、金髪ウェーブの手入れされた長い髪の海と空の色を混ぜたような綺麗な青色の瞳の10歳ほどの美少女だった。
え、この子、どこから入ってきたの?俺ちゃんと鍵かけてたはずなんだけどな……?
「私は女神です!」
俺の心を読んだように自分の正体を明かし、どやーっと効果音が付きそうな勢いで胸を張る女神。
……正直全然女神に見えない。心の中で自称女神って呼ぼう。
「あ!信じてないな!」
「いや、まあ……はい。」
俺がそう答えると女神と名乗る少女はムキーっと地団駄を踏む。というか、この自称女神、他人の家の布団の上に座ってるの……?
「もういいもん!とにかくぽてちは選ばれたの!」
おい、自称女神さんよ、敬語とれてるぞ。
「はあ……?」
しかし、実際に出た言葉は呆れたような声だった。正直訳が分からなかった。なぜ俺の部屋にいるんだろう?そんな俺の疑問を見透かすように女神は俺の疑問に答え始める。
「私はとある世界の女神です。そして私が貴方をここにわざわざ来たのは貴方に私の作った世界に行ってほしいからです!」
「え?」
俺は困惑した表情で女神を見る。自称女神はドヤ顔で続ける。
「貴方は選ばれたのです!私の作った世界に!」
「あの、俺、普通に生活したいんですけど……」
俺がそう言うと女神はぷくーっとほっぺを膨らませる。美少女がやってるから映えるな。不覚にも可愛いと思ってしまう。
やってることは不法侵入と睡眠妨害でめちゃくちゃ迷惑だけど。
「そもそも何で俺を選んだんですか?」
「それはあなたの実況動画を見たからです!めっちゃ面白かった!」
女神はぐっと親指を立てて見せる。こうやって素直に面と向かって褒められるのはうれしい。いくら年齢を重ねても褒められるのは嬉しいもんだ。
「あ、それはありがとうございます……。」
「というわけで私の作った世界で男の人とくっついて下さい!」
「なんで???」
俺が女神に思わず困惑しながら問うと女神は笑顔で答える。
「何でもいいからイケメンとラブラブになって下さい! 」
「急に何言ってんの!? 俺の恋愛対象は女の子だぞ!?」
「ぼてち、恋愛ゲームもやってたじゃん!」
「あれはゲームの話で現実ではやらないぞ!?」
「ええいごちゃごちゃとうるさい! いいからとっとと行ってこい!」
女神がギャンギャン騒ぎながらいつの間にか幼児向けアニメに出てくるような杖を俺に向けて一振りした次の瞬間、俺の視界は真っ白な光で包まれ、そのまま意識を失った。
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