第46話 神様の夢

とても久しぶりに僕は、神様の夢を見る。


僕の周囲には、何もない。ただただ光だけが満ちている。光があまりにも強すぎて、自分の体すら、どこにあるかわからない。もしかしたら僕には体なんてなくて、意識だけが光の中に浮いているのかもしれない。



『僕』はどこ?

僕って、いったいなんだ?

自分の体が見当たらなくても、僕だって言っていいの?




でも、僕は確かに光の中にいる。それはわかるんだ。だって『暖かい』し『眩しい』のを感じるから。


刺激に対する知覚、そしてはっきりしとした感覚。それらがあるから、僕はちゃんとここに存在しているんだって思える。


僕は疑いようもなく確実に、光の中にいる。




僕の全身を、光の粒子が包み込む。光に実体はないはずなのに、それは僕の肌に『触れられた』感触として残る。


ピッタリとした膜が、僕の全身に張り付いていく感じ。その膜は空気の存在を許さないほど隙間なく全身を覆うから、当然僕の体の内部にも侵入してくる。鼻の穴から、耳の穴から、口の中にも。



でも不思議と苦しくないし痛くない。不快感もない。あるのは全てを許されたという安心感と気持ちよさだけだ。



僕の全体が、光の薄膜に覆われていく。皮膚だけでなく、体の内側にある臓器も全部。


その光はごく薄い膜のはずなのに柔らかくて、弾力があって、つるつるしているようなすべすべしているような、でもふわふわもしていて、すごく懐かしさがある。


この正体不明の『懐かしさ』は、なにか生命の根源的な記憶に根ざしている気がする。


きっと全ての人はみな例外なく、生まれる前にこの光の膜に包まれたことがあるに違いない。




僕はこの光の膜そのものが、神様なのだと思う。


光は全てを分け隔てなく照らしてくれる。光があれば、闇は消えてしまう。闇の中に光を射すことはできても、光の中に闇を射すことはできない。光はどこまでもまっすぐで、強くて、平等だ。


僕は光に包まれたい、神様に愛されたい。そのためなら、死んでもいい。改めて、強くそう思う。



この世の誰よりも強く光を求めるから、この世の誰よりも強く神様のことを思うから、だから僕のことを愛して欲しい。僕の中にある闇を光で消し去って、癒して欲しい。


もっと愛して、もっと愛して、もっともっと愛して……。目覚めずにいつまでも見ていたい夢だったのに、エクスタシーを感じる直前でその夢は終わってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る