決戦指令
金輪部隊の総数が推定不能な域に達した。政府は壊滅し、軍警察ももはや組織の体をなさない。部隊レベルの生き残りが抗戦し、地下に潜り、あるいは国民と肩を並べて限られたコミュニティを守っている。いまさらエツランシャを倒しても、元の日本には戻らないだろう。
エツランシャは本人が表明した通り、日本国民の民意であった。かの者が単なる右園死児を悪用するテロリストであったなら、ここまでの事態にはならなかったはずだ。この国は、どこかで致命的に間違ったのだ。そのツケがエツランシャという形でめぐってきた。民主的な滅び、民主的な地獄だ。
それでも我々は最後の戦いを敢行する。聖域に潜入し、神像を破壊し、エツランシャを撃破する。なぜなら我々は、エツランシャの作ったこの世界で生きたいとは思わないからだ。我々はこの世界を醜く汚らしいと思う。それも民意である。我々はエツランシャを殺す民意である。
大義あるバケモノを殺し、覚悟ある金輪部隊の夢をくじこう。この国を人間の国として存続させよう。
これより、聖域攻撃作戦を開始する。
・聖域潜入メンバー
神谷修二
売春婦
大西真由美
小向夜子
ブラインドマン(橋田四郎)
牧野周平のブラインドマン三名
三田倉九
聖域に適合した六名と準適合した三名が本作戦の要だ。彼ら潜入チームを雪村瞳が奪取したトレーラーで聖域境界まで運ぶ。エンジニアの供述によると兵器研究機構の車両には、金輪部隊に味方識別信号を送る装置が搭載されている。ドライバーは、雪村瞳が同じく奪取した金輪部隊装備を着た軍人が務める。
冴島時男。冴島将吾の父親だ。彼は潜入チームを聖域内に送り出した後、その場で待機する。金輪部隊に看破されるなど、チーム回収が絶望的になった時は信号弾を発射する手はずになっている。緑色の信号弾だ。本作戦ではこの色以外の信号弾は使用しない。
なお、ブラインドマン達と三田倉九の暴走は心配しなくていい。彼らは田島茜の設計した強化型自認識潜没ヘルメットを装着している。聖域内での使用を想定したもので、腐食しない。三田倉九のヘルメットは故障しているが、売春婦が抑えている。何が起きても最後には彼女が味方の離反を阻止する。
・予想される聖域内の敵
金輪部隊変異体
飛ぶ脳髄
神像
エツランシャ
金輪部隊変異体は物陰に潜んでいる個体が多いため総数が把握できない。飛ぶ脳髄に関しては過去のデータから無尽蔵に補充生産されると思われるが、同時に活動できるのは五〇体程度が上限であると思われる。
この性質を利用し、作戦中は聖域周辺にドローンと風船を飛ばし、脳髄の索敵機能をかく乱する。ドローンは民間の品を合わせ一二二機確保できた。地上に金輪部隊がひしめいているため精密性のない超遠隔操作となる。風船は軍キャンプのいくつかが随時地上から上げてくれる。民間人も協力してくれるそうだ。
金輪部隊変異体も飛ぶ脳髄も、基本的には三田倉九と、大西真由美の歩く遺体を利用して撃破しろ。大西真由美の視線操作を妨害してはならない。また売春婦の敵対者懐柔能力が敵に通じるかは不明だ。通じぬものとして行動せよ。
空中電波塔にたどり着けたなら、神像の破壊とエツランシャの撃破を試みよ。この二つの脅威は完全に未知数である。臨機応変に対処しろとしか言えない。とにかく刀剣を奪取し、橋田四郎に持たせるのだ。刀剣は右園死児に対して強い殺傷力を持つ。
未知数の敵を未知数の兵器で叩くのは愚かだが、他に手が無い。聖域内のすべての活動において、他のメンバーから離れるな。けっして一人になってはならない。売春婦や大西真由美を中心として、たがいの背を守るのだ。
・兵器研究機構の壊滅について
現在、雪村瞳主導で金輪部隊のバックアップ組織である兵器研究機構の潜伏場所を探っている。金輪部隊の精神統率システムを管理するコンピュータを見つけ、その内容を書き換えられれば、金輪部隊を一般人に戻せるかもしれない。こちらの作戦も可能な限り迅速に進め、金輪部隊無力化をもって聖域攻撃、脱出を支援する。
総員、最後の決戦に臨め。
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