第二章
第7話 事情聴取1 sideアルフレッド
「ポポロム先生……。リアは、
病室のベッドの上に座ったまま、医者であるポポロム先生に訊ねた。
俺はあれから意識を失っていたが、肋骨にヒビが入っていたらしく、処置の途中で意識を取り戻した。そして、しばらく入院することになった。
「リアさんの身体の方は大丈夫です。少々傷ついていましたが、早急に処置しましたので、2ヶ月ほど安静にすれば、回復します」
それは、目に見える外傷だけのことではないだろう。
ポポロム先生が言いづらいのもわかる。
「ただ、問題は心の方です……」
「そう、ですか……」
「でも、あなたも2週間ほど安静ですよ」
「わかりました」
「とはいえ、リアさんのことは心配でしょう」
ポポロム先生は、車椅子を用意してくれていた。
「これで、リアさんに、お会いになられますか?」
「……はい」
正直、怖かった。
リアは、今どんな思いで一人でいるだろうか?
俺やテオに傷つけられ、さぞかし恨んでいることだろう。
リアの病室に入ると、リアはベッドから起き上がり、うつろな目をしていた。
「リアさん、お兄様が来てくださいましたよ」
ポポロム先生は笑顔で接したが、リアは目をすっと横に向けただけで──
さも興味がなさそうに、視線を戻した。
「リア……」
「アルフレッドさん、リアさんに、声をかけたり、優しく手に触れたりしてみてください。その……抱きしめたりなどは、まだ刺激が強いと思うので、徐々に慣らしていくように……」
俺は、リアの手にそっと触れようとした。
しかし、あとほんの数センチというところで、手が震え出した。
手を伸ばせば、届く距離にいるというのに……!
「ポポロム先生……。俺は……リアに普通に触れることができないんです……」
本当は抱きしめたい。頭を撫でて恐怖心を取り除いてやりたい。
それができない。
リアが拒絶するからではない。俺が、俺が臆病で、卑怯者だからだ……!
苛立ちと自分への怒りで、頭を掻きむしるように爪を立てた。
「俺の大切なものを、すべてテオが奪っていく……。テオが……テオがいる限り、俺は……っ!!」
父が生きている頃はまだ良かった。父が抑制となり俺も自分を抑えることができた。テオとなんとか会話もできていた。でも俺は、父を壁にして結局テオから逃げていたんだ。
リアを、守れる自信がなくて。
それなのに、俺は自分の弱さに負けてリアを傷つけて────
「ああああああああああああ!!!!」
俺は、今までの事をすべて打ち明けた。
家族でも、リアでもなく、第三者に。
こんな事は、今まで誰にも話せなかった。
第三者に自分を曝け出す事で、少し楽になった気がした。
「そうですか……辛かったですね……」
ポポロム先生は、黙って話を聞いていてくれた。
彼は、総合診療医師だが、ほぼメインは心療内科医らしい。
とても柔らかな口調で、決してこちらを否定したりはしなかった。
「今のお話を聞いてわかりました。アルフレッドさん。僕は、あなたの心の方も心配です。リアさんは、ふとしたきっかけで良くなると思うのですが、あなたの方は、幼少期から根付いている。この場合、よくなるまでに非常に時間がかかるんです。あなたの心も、少しずつ解きほぐしていきましょう」
「無理です、先生……。俺は、テオがいる限り……」
「テオさんは、警察に任せましょう。きっと捕まえてくれます」
ポポロム先生は柔らかい笑顔で言ってくれたが、俺は素直に受け取ることができなかった。
「じゃあ、リアさん。何かあったら、 ナースコール押してくださいね」
ポポロム先生が言っても、リアは無表情で黙ったままだった。
「アルフレッドさん、少々お話、よろしいですか?」
廊下に出て自分の病室へ戻ろうとすると、事件担当の警察官が警察手帳を見せてこちらへやってきた。
俺は、素直に事情聴取に応じたが、一応重症者扱いらしくポポロム先生も同席してくれることになった。
病室で車椅子からベッドに移ると、警察官はディルクと名乗った。
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