文豪転生記

狐伯

序章

「恥の多い生涯を送ってきました。」

          太宰治「人間失格」より

 とある青年の手記を借りて、自分の人生をこう表したのは何年前だっただろうか。この「恥の多い生涯」を昭和の時代に自らの手で終わらせた。と思ったら次は令和の時代に始まった。

─────────

「売れ行きはどうだ?」

突然声をかけられ、はっと顔を上げる。声の主は僕の父、木村啓寿きむらけいじゅだった。

「まだお客さんはきてない」

今いる木ノ葉書店このはしょてんは父が店主の小さな書店だ。僕は休日によく手伝いをしている。繁盛せずとも閑古鳥が鳴くこともないのだが、今日はまだお客さんが来ていない。

「そうか、父さんは奥で作業してるから何かあったら呼んでくれ」

父はそう言うとまた店の奥へ引っ込んだ。父の背中を見送ると視線を手元へ戻す。視線の先には書きかけの原稿用紙とボールペン。僕、木村治希きむらはるきは小説家を目指す中学3年生である。ただ、なかなか良い作品が書けないのが悩み。そんなことを考えているとドアにつけてある鈴が鳴った。お客さんだ。手に持っていたボールペンを置き姿勢を正して出迎える。

「いらっしゃいませ!」

─────────

 これは治希を含め、〝転生〟という共通の体験をした人が、多く集まる木ノ葉書店の物語である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る