三題小説

お米うまい

御題『許せない・きびだんご・真っ赤な嘘』

絶対に許せない事



「俺さあ、桃太郎の話で、どうしても許せない事があるんだよね」


 私が土産に渡した吉備団子を食べるなり、唐突に語り出した友人に思わず突っ込まずには居られなかった。


「確かに吉備団子と言えば桃太郎だけどさあ、そこはまず渡されたお土産に対する感想なり何かを先に言うべきじゃない?」


「ああ、それは確かにその通り。ありがとう。非常に美味しく頂いている」


「どういたしまして。それで桃太郎の話の、どこが許せない訳?」


 別によくあるヒーローが悪役をぶちのめして、めでたしめでたしという話だ。


 特にそこまで憤るような事があるとは思えない。


「いやさあ、日本に住んでたら大体誰でも桃太郎の話自体は知ってるじゃん? でも、鬼がどんな悪い事をしたから、桃太郎にボコボコにされたのかってなると答えられる人って、そんなに居ないだろ?」


「……言われてみればそうね。私も何で桃太郎が鬼ボコボコにしたのか、知らないわ」


 よく解からないけど悪党扱いされてて、桃太郎にボコられて宝奪われたって印象しかない。


 そういえば、鬼達って具体的に何したんだろう?


「そこがさあ、嫌なんだよ。何か事実とか知らなくても、周りが悪いと言ってれば好き勝手に叩いていいみたいな、そんな物語に見えてしまうじゃん?」


「いや、でもお伽噺なんてそんなもんじゃない?」


「そうでもないだろ。カチカチ山の狸とか、畑に悪戯しまくった挙句に反省の一つもせず、婆さんを鍋にして爺さんに食わせてたド畜生だぞ。あんなの焼かれて当然の屑って子ども向けでもしっかり描かれてるだろ?」


「確かに。あの狸は焼かれて当然の屑よね……」


「猿蟹合戦だって、まあ契約自体は守ってるとはいえ、ボコられる程度の事はしてる訳よ。まあアレも合戦とか言いながら、一対多数のリンチだから、タイトル詐欺感はあるけどさ」


「言われてみれば確かにそうね」


 突っ込まれて初めて気付いたけれど、子ども向けのお伽噺だから事件内容がボカされているだけなんじゃないかと思ったけど、そんな事なかった。


 むしろ結構エグイ内容の事だって、しっかり書いてある物が多い。


 ――赤ずきんとかだって、普通にお婆さん食べてるし、騙し討ちで赤ずきんも食べちゃってるしね。


「ほら、そう見ると桃太郎って何かその辺ふわっとし過ぎじゃん? 俺としてはさあ、こういう悪い事をしたからこそ懲らしめられた。そこは子ども向けの話だからこそ、しっかり伝えておくべきだと思うんだよ」


「はー、意外と真っ当な理由。ちゃんと考えててビックリした」


 いつもいつも思い付きで適当な話をするコイツにしては珍しく。


 思っていたよりも、ずっと真面目な内容に驚いていたのだけれど――


「まあ、全部今適当に考えた思い付きなんだけどさ」


 いつもの調子でそんな風に軽く言うと。


 その男は話しながらも食べ続けていた、最後の吉備団子を口に放り込んだ。


「……何でさあ。アンタって、いつもそういう事する訳?」


 こうして、いつもいつも。


 コイツは私に真っ赤な嘘を並べ立てて私を揶揄うのだ。


 けれど、それよりも許せない事がある。


「こういう話でもしてないとさ、お前、土産だけ置いてさっさと帰っちゃうじゃん? 久しぶりに会ったんだからさ、もっと話してたいだろ?」


「アンタ、そういう事口に出すの恥ずかしくないの?」


 そうやって適当な事ばかり言う癖に、ぼかしてほしい言葉ばっかり真っ直ぐに伝えてきて。


 それに安心して、心の中でも『友人』だなんて誤魔化してしまう自分が一番許せない。


 ――誰よりも先にお土産を持ってきた癖にさ。


「そりゃあ恥ずかしいけど、誤解されて嫌われるよりはマシだからな」


 そうして、いつもいつも好きだと伝えてくれるのに。


 私に嫌われるのを怖がって、自分からは触れようとしてくれない『彼氏』に顔を近付ける。


 他の人に渡しに行く予定だったお土産は、もう明日でいい。


(そうやって言葉で引き留めるくらいなら、偶には無言で抱き締めるなりしてくれればいいのに……)


 そうして私は口が回って、他の人へ渡すお土産だって目敏く見付ける癖に。


 やたらと手だけは遅いコイツの口を塞いで。


 そこから先の私達の話は、人には聞かせられない話である。 

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