10月4日(木)(9日目)

 最悪な日其の二。


 そうぼやきたくなる日であった。暇を持て余した愚かな学友どもが「妹を見せろ!」と騒ぎ出したのだ。俺と妹の関係性を知ったるひょっとこは「まあまあ」と場を諌めようとした。などと思っていたら「みんなで食べる分のお菓子は事前に買ってきてくださいね!」などと率先して我が家に来ようとしやがった。


 その後、俺の抵抗むなしく、各々良きタイミングで我が家に来る運びとなった。悲しきかな今期は楽しようと午後に講義を入れてなかったがゆえ、講義があるから、という逃げ口上は塞がれてしまった。


 都合よく義妹が外に出ていることを願った。もしくは寝起き姿のまま皆に大衆に晒され恥ずかしい思いしろ。そんな淡い期待は完璧に整えられた義妹の装いに打ち砕かれた。


 しかもこちらの思惑を見透かされたのか「夫がお世話になっております」と柔和な笑顔で出迎えやがった。見た目だけは美少女然としいるゆえ野郎どもから嫉妬を含んだ視線を送られた。というか足を蹴られたし、ケツをしばかれた。


 女に飢えた野郎どもが義妹に群がりアピール合戦を開始する。その姿はまるで蜘蛛の糸に群がる亡者のようであった。ただこの糸の先に待つのは仏様ではなく蜘蛛そのもの。辿り着いたら食われるだけ。かと思いきや、大変グルメだったようで言い寄る野郎どもをバッサバサと斬り伏せていった。優れたオスだというアピールのおおよそを大きく超えた実例を披露したことにより、野郎どもは意気消沈する羽目となったのだ。唯一超えられなかったのは妹が触れてこなかった玩具の優勝者だけだった。もっとも興味は持たれなかったが。


 第一陣は義妹の完全勝利であった。


 講義後、第二、第三と増援が来る。


 時間を示し合わせて一緒に来ればいいものを、奴らそれが面倒なのか現地集合を決め込んだ。ゆえに俺は呼び鈴がなる度に何回も玄関との往復をすることになった。何回も何回も来るもんだから、だんだん怒りで髪が天を衝きそうになる。


 計五回目の往復の際にそれは起きた。けたたましくピンポンを連打されたりした末の出来事であった。


「喧しいわ! ボケ!」


 そう叫んで扉を開けた。常識を弁えない馬鹿野郎どもに言ったつもりであった。いたのは馬鹿野郎どもに唆されチャイムを連打した麗しの君であった。


 そりゃあもう土下座である。土下座しかない。麗しの君は「いやいや悪戯したこちらが悪いのですから」と慰めてくれたが俺の気が済まなかった。もしこれで彼女から怖い人とか思われたら泣いてしまう。


 その騒ぎを聞きつけて玄関に義妹と野郎どもが集まり、非常に煩くなる。騒ぎを聞きつけた大家が全員を敷地外へと追い出した。家主たる俺まで追い出された。毎月家賃を払っている俺の顔を完全に忘れているらしい。戻ろうとしたら竹箒で追い払われた。理不尽である。


 白けた雰囲気となり、流れ解散することになった。だがどういうわけか妹と麗しの君が二人きりで食事に行くらしい。あることないこと吹き込まれては困ると同行を提案したのだが麗しの君に「女子会だから」と断られてしまう。先程の事故でやらかしてしまっている俺はこれ以上の無理を口にする勇気はなかった。


「女子会ならば女装すればいけるのでは」などとひょっとこが底意地の悪い笑みをする。しかも「君の女装はきっと金取れますよ。どうです? 僕プロデュースでやってみません?」とかふざけたことを抜かすものだから、全力で背中に平手をブツケて鬱憤をぶつけたのは言うまでもない。


 飛び上がった奴は今思い出しても、溜飲が下がるぐらいに無様であった。

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