10月2日(火)(7日目)

 昨日の日記を書いたあと、いつまでいるのか話し合おうとしたら、そのまま布団に直行しやがったので結局、話は今日の夜にまでもつれ込んだ。それはそれとして寝言はうるさいし、寝相が悪い。わざわざ布団を離して敷いたというのに床を転がってまで侵入してくるな。蹴り出しても蹴り出しても襲来するな。


 おかげでこっちが寝不足だ。


 講義のサボりたさが青天井。だが我が学友に代返をしてくれる友達甲斐があるやつなど一人もいない。一回ひょっとこに代返を頼んだ馬鹿者がいたが、あまりにもわざとらしい声色のせいで一発でバレたという事件が過去にあった。それから我が学科は代返率が皆無な優秀な学科になってしまった。


 高校をサボり寝言をアブラゼミのように絶え間なく鳴らし続ける義妹に書き置きと合鍵を残して家を出た。合鍵なんぞ渡したくなかったが、暇つぶしに我が居城を物色されては敵わない。だったら講義中は合鍵を渡してでも外に出てもらった方が建設的だ。


 講義後、ひょっとこや学友からの遊びの誘いを断り、家路につく。麗しの君も誘うとも言われたが断腸の思いで断った。麗しの君に向ける我が愛を知る学友たちは何事かとざわついた。ひょっとこなんて「ついに何かやらかしたんですね!」とワクワクを隠そうとしない顔で言ってのけた。


 奴のことだ。このままでは尾ヒレがつき、麗しの君にあることないこと伝わりそうだ。麗しの君に伝わるまでに訂正しておこうと仕方なく理由を伝えることにした。リスクヘッジである。


 義妹が押し掛けてきたと伝えると学友はニヤケ面で「手を出すなよ」などと茶化してきやがった。くたばれ。


 空が茜色に染まる頃に帰宅した。妹は寝巻き姿のままだった。せっかく合鍵を置いて出たのに何処にも出掛けずに我が居城を満喫していた。宅飲みで持参されたが手付かずのままだった酒のつまみを貪っていた。誰かが忘れていった艷本を興味深そうに読みながら。安アパートの主たる俺よりも豪放磊落な様。これを満喫と呼ばずして何を満喫と呼ぶのだろう。


「こういう子が好みなの?」と馬鹿にする口調で巨乳を露わにする女性のページを俺に向けてきた。その本を引っ剝がし、丸めて頭を叩いてやった。


 散らかしまくった部屋を片付けた頃には、既に夕食を取るのには少し遅い時間になっていた。


 コンビニで手早く調達した弁当を食べつつ、ようやく滞在期間について問うことができた。


 答えは一言「帰るつもりないけど」だそうだ。親と喧嘩して家出したから帰りたくないらしい。高校も既に出席日数はほとんど足りているとのこと。受験はどうするのか問い質したものの「天才だから大丈夫っしょ」と傲岸不遜を口にした。


 腹立たしいものの義妹はそれを言えるだけの実力がある。ただそれは昨年、志望校のランクを下げに下げまくってギリギリ今の大学に滑り込んだ俺の前で言うことではない。


 今日はこれぐらいにしておこう。


 ペンを動かす度に苛立ちが指先に籠もって仕方ない。


 これ以上書いたら、これまた野郎どもが残していった麦酒を飲んで酔い潰れた妹に手が出そうになる。……決して艶色な意味合いではない。

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