9月30日(日)(5日目)

 夏季休暇最終日である。


 昼過ぎに起きて朝日が出てから眠る怠惰な生活を送る。今しかできない有意義な時間の使い方をした二ヶ月間であった。


 最終日である。終わってしまうだ。この堕落した日々にさよならを告げることになる。堕落した思い出しかない日々が終わってしまう。二か月間堕落しっぱなしであった。これには今更危機感を覚えた。ゆえに珍しい朝早くに起きてしまった俺は何か有意義な一日にしようと決意したのであった。馬鹿がいきなり勉強に目覚めたとか言い出して参考書を買って一時間もしないうちに放り出すアレと同じことをした。


 つまるところすぐに投げ出したのだ。


 やはり「朝はランニングだろう」とかへばりついた固定観念に従うまま運動着と運動靴を履いて飛び出した。それは一時間どころか五分も経つ頃には後悔に変わった。「俺は何故こんなことを……」なんて脇腹を押さえて、意気揚々と飛び出した自分を呪い殺したくなった。


 行きよりも多く時間を使って自宅に戻った。


 そこで怠惰な日常に戻ればいいものを、俺の脳内は「自分はできる」という思い込みが頭の多くを占めていたせいで、損切りという概念が頭から弾き出されていた。「運動不足で急に走り出したのが駄目だったのだ。ならば普段慣れていることをしよう」と的外れな現状分析で方針を決めた。本当、阿呆である。


 悩んだ末に決めたのがジグソーパズルであった。インテリ系たる自分には知的行為こそが相応しいと知性の欠片もないナルシシズム的衝動が決め手であった。そのくせ真っ当に勉学に勤しむ気配がないのがほとほとクズである。


 こうしていつか時間が空いたらやろうと購入しては押し入れにしまい込んだジグソーパズルを引っ張り出す。丸一日がかりならば終わる程度の欠片の数である。その量を前にして立ち竦む。本当にこれに一日を費やしていいものかと。無為に終わるのではと逡巡する。


 ゆえに願をかけた。


 これを完成させたらきっと麗しの君とデートできる。いや、きっと懇ろにだってなれるだろう。そう思うとやる気に溢れた。


 昼食も取らず、一心不乱で欠片を繋ぎ合わせていった。順調過ぎて己が怖くなったり、欠片が全て同色に染まった部分では「こんなもん総当たりしかないじゃろがい!」などと怒りに震えながら解いていった。


 陽も落ち、一日が終わりかけた頃合いにパズルは完成した。


 中世ヨーロッパぐらいの絵画が現れた。絵画のパズルならば購入の際に意識高く見られるだろうと浅い理由で選んだことを思い出した。よく知らぬものは完成させたとしても思い入れが薄い。絵画の右端では犬を足蹴にしている少女もいて、著名ではあるが、あまり高尚な絵ではなさそうであった。


 しかし、そんなことはどうでもいいのだ。完成させたことに意義がある。


 明日はきっと良い日になるだろう!


 願わくば麗しの君との逢瀬を!


 そして、さらば夏休みよ!

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