セクハラ
「富田さん、ご無沙汰してます。見ない間にちょっと太りました~??」
「誰が豚や!そんなことより赤姫ちゃん、やぁっと来たかぁ!退屈してたんよ。ブスばっかで美味しくもない酒飲んでた所や。はよこんかい!」
富田さんは私の太客で多少問題を抱えている客でもある。
お金をたくさん使ってくれるのは良いが言動や行動がよろしくない。
他の客の顔や体型を貶め、自分の部下に高い酒を入れたり無理やりお酒を飲ませたりと自己中で傲慢な態度が目につく。
ただ私からしたらお金を使ってくれるから、ある程度の行動を許してしまっている。
「いやぁ、いつ見てもべっぴんやね。ほら肌なんかもちもちして気持ちええわ」
片手に酒を持ち、もう片方の手で頬を撫で回してくる。
「えぇほんとですか。ありがとうございます、うれしぃ」
(あぁ、肌が荒れちゃう。この人手がベタベタして気持ち悪いのよねぇ)
「なぁ、前の話考えてくれたん?」
「前...あぁ付き合おうって話ですか。お店の決まりでダメなんですよーごめんねぇ」
「なんやねん、この店のルールは恋愛は自由にっていうやろが」
(アンタみたいな客がいるからルールができんのよ)
気分を悪くした富田さんはお酒をどんどんと飲み始めスピードを上げていく。
この調子では潰れるのも時間の問題か、仕方ない店長を呼んでこないと。
「すみません、少し席外れますね」
腰を浮き上がらせ、席を外そうとしたが富田さんに手首をガシッと掴まれてしまい立つに立てない状況になってしまった。
「富田さん大丈夫ですか?今何かもってこよ」
「赤姫ちゃん、ほんま胸デカくて柔らかそうやね」
酔いが回ったのかいつもの発言なのにイヤらしく舐め回すように胸を見つめてくる。
「ちょっとー恥ずかしいです」
照れたように顔を背けるがそれがいけなかった、少しできた隙に富田さんの腕が伸び下から胸を支えるように鷲掴みにされてしまった。
「おぉーー!!思っていたよりもデカくてやわらけぇ!良い胸しとるわ、美味そうやな!!」
「ちょ、富田さん。やめてください」
彼の手は私の胸の柔らかさを味わうかのように揉んだり撫でたりしている。
「乳首、ぴこーん!ここや!」
さらに鷲掴みにしたまま両親指で乳輪を押してくる。
(普通に痛いし、誰かにヘルプ来てもらわないと)
周りをチラッと見回すが混雑しているため中々気づいてくれない。
ただある1人を除いては、彼女だけがこちらをじっと見つめ拳を握りしめていた。
すぐに立ち上がりこちらに来ようとしているように感じるが顔を左右に振り大丈夫だと伝え安心させる。
「もう、本当に怒りますよ!富田さんなんて嫌いですからね」
「そんなこと言わんといてな、ちょっと酔いが回ったのかなぁ?」
私の胸を掴んだ手を離し手のひらを擦り合わせ反省してるアピールをするがどう対応するのが正しいのかわからない。
ここで本当に切ってしまうと太客が消えることになる。ただ許してしまうとこれからも迷惑行動が増えていくことも想像できる。
悩みに頭を動かしていると、富田さんが先程よりも近い距離にいることに気づいた。
「どうしたの?もうヘルプさん呼ぶからね」
今度こそ立ちあがろうとした時、ガバッと抱きしめられ着用していたドレスの間から手を差し込まれ胸を直に鷲掴みにされる。
全身からブワッと鳥肌が立ち上がる。
「コリっとした乳首も感じてる証拠やな。気持ちいいやろ、本当はこうされたかったちゃうか?」
「いや、やだっ!離れて!」
他の男性よりも大きな体型をしている富田さんに女の私が勝てるはずもなく、好き放題に揉まれつねられてしまう。
嫌がることにも疲れてきた時、富田さんが急に引き離された。
(なんであの女の子がここにいるの?)
そこには先程まで席でこちらを見つめていた彼女が富田さんの襟足を掴み私から引き離していた。
もちろん手は私の胸を触ったままだけど、どんだけ触りたいのよ。
「何するんだ!...おぉ綺麗な顔してるやん、後で相手してやるわ。ほれ離さ」
「その汚い手を退けなさい」
「んぁ?なんてぇ?」
「聞こえなかったかしら、あぁ目が覚めていないようなら覚ましてあげるわ」
彼女は先程まで富田さんが飲んでいた瓶に入っていた酒を持ち富田さんの頭上まで持ち上げていく。まさか...ね?
そのまさかの瞬間がやってきた、瓶をひっくり返し中に入っていた酒を全てぶっかける。
「おいっ、なにしてるんや!これいくらしたかわかってるんか!クソガキ!」
激昂した富田さんは私の胸から手を離し彼女に迫ろうとしていた。
「やめてください!!彼女に近づかないでっ」
私の声なんか当たり前のように聞こえておらず一歩さらに近づいてしまう、もし彼女が私のせいで怪我をしようものなら全力で私が殴られにいく。
顔が商売道具だけど女の子1人守れないで他のお客さんを笑顔になんて出来るわけない。
そんな心配を他所に彼女は落ち着いていた。
「大丈夫」
そう呟き彼女は瓶を振り下ろした。
ガシャン!!!と大きく物が割れる音がした。
次の瞬間富田さんは崩れるかのように倒れ伏せてしまった。
「うっぐぐ、イテェ。救急車...」
情けなく蹲り頭を抱えている。
彼女は顔色ひとつ変えずに富田の隣にしゃがみ近づいていく。
耳の近くで何か話したように見えたけど、私の距離からだと何て声をかけたのかはわからないが何か恐ろしい事を呟いたのだけは理解できた。
だって富田の顔が真っ青どころか色というものが消えていた。
普通ここまで顔色が消えることはないと思う....彼女はなんて言ったのか私は知ることができなかった。
「赤姫さん大丈夫...な訳ないですね。ちょっと来てください」
彼女に手を引かれて、裏口に連れて行かれる。
店長が心配そうにこちらを見てくるので、私は大丈夫という思いで頷き返すと店長はほっとしたのか何処かへ行ってしまった。
彼女の温かい手から熱が伝わり自然と体がぎこちない動きになってしまう。
「どこ行くのよ?あそこ片付けないといけないし」
「大丈夫、誰かやりますよ。そんなことより赤姫さんは自分のこと考えてください。それも仕事です」
「えぇ、そうね。助けてくれてありがとう」
「っ卑怯です。そんな笑顔見せられたら」
「ん?どうしたの」
「赤姫さん触られた所教えて下さい、私が上書きします...嫌じゃなければ」
恥ずかしそうに俯いてしまうその姿に庇護欲が湧き上がるが、表情に出さないようにグッと我慢する。
それよりも上書き?上書きってことは富田に触れられた部分をこの子が触ってくれるってこと?
私としては嫌じゃないし、こんな可愛い子なら逆に嬉しいけど。
富田に強く握られた胸は今でも多少の痛みが残っていて記憶に残りそうだから普通にそのままにするのは嫌、お風呂とかで洗いたいけど仕事中で入れるわけない。
となると答えは
「嫌なら全然いいで」
彼女が良い終わる前に口で塞いでしまう。
こういうシーンに憧れていた私は調子のってカッコつけでキスをしてしまった。
「お願いね」
「っ、知らないですから」
私からのキスで彼女に火をつけてしまったのはこれから知ることになる。
再度口付けされ、彼女の顔をじっと眺める。
(ほんと綺麗な顔してる)
その顔を眺めながら口付けに溺れていく。
彼女の気持ちを確かめるように角度を変えてソフトタッチのキスを何度もする。
あぁ彼女に溺れたくない。
きっと溺れたら戻れない、なんとなくだけど予感がする。
好きになったら1番になりたくなる。だからこんな事してはいけないのに体が求めてしまう。
でも考えてしまう、好きな人の1番になれたらどれほど幸せななのか。
私も誰かにとっての1番になれる日が、もうすぐ訪れそうな気がする。
早く私を1番にして
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