第5章~エピローグ~

第59話 迅

 宝賀高等学校を今日卒業する。そうだ、高校1年の2学期に転校してきたこの学校をだ。


 色んな出会いや再会があった。最高の彼女だった梶原 夏芽。最高の親友の麻実 茉弥。最古の友だち多奈川 夏美。さらにその彼氏の日辻。オレに片想いをして東京から追いかけてきた久賀 梨絵。オレの初恋の相手である彩莉 いろは。みんな、いい思い出だ。ただ、今あげたメンバーは高校1年の頃の思い出のメンバーだ。2年、3年といろいろな人と出会って友だちになった。


「会長!! 好きでした!! でも、夏芽……のことがまだ……」


 生徒会庶務の後輩の女子生徒が告白してきた。オレは高校1年生の時のクリスマス会実行委員の盛り上げの腕を買われて、高校2年から2年連続生徒会長をしている。副会長も麻実さん、会計は多奈川さん、書記は久賀とオレが転校してきた年のクリスマス会実行委員のメンバーだった。実績として、近所に移転してきた公立高校の西馬高校と合同の体育祭、文化祭など様々な行事の共同開催を行った。これは斉藤理事長が買収した時から企んでいたのだ。これは私立公立の垣根を超えているので地元新聞や全国新聞の地方面を飾ることになった。


 ただ、今の庶務の後輩への返事は……


「ごめん、会長はもう辞めたんだ。卒業なんだ。次期会長はキミじゃないか」


 そうだ、きっとこの庶務の子は来年の生徒会長だろう。今年まで2年オレの独裁生徒会と言われる生徒会だった。実際に、独裁的なことはなにもしてないけども……。


 この返事は告白のふり方としてはマイナスだろう。高校2年になってから新1年生の内部進学の生徒からやたら告白された。きっと、夏芽が転校したと知り、傷心の生徒会長につけこもうとしたのだろう。そんな時にオレが困ってる様子を見てこの子は『はいはい、生徒会長なんてえらくないから、ただの一般生徒だから』と同級生をシッシッと追い払った。オレの周りの女子生徒を追い払った後、『会長も会長ですよ……』と注意してきた。

 だから、生徒会長だとか先輩だとか関係なくダメなことはダメ、きちんと指摘や注意ができると判断した。麻実さんも高校2年になる頃にはある程度本性がわかり、仕切りたいけどめんどくさいことはしたくないや、多奈川さんも日辻と付き合い始めてだいぶ変わった。久賀は高校生になっても変わらなかった。ただ、とある時をきっかけに久賀はオレへの想いを断ち切っている。時折だが、友だちとして超えてはいけないおふざけをみんなたまにする。そのストッパー役で庶務として生徒会に入ってもらった。


 入ってすぐにこの子は『こんな顔が少しいいだけの会長のどこがいいのか、まるでここは会長のハーレムじゃないですか!!』と叫んでいた。庶務は外部進学だったから、宝賀のクリスマス会の話を知らない。つまり、オレが舞台上で、代表という役目を無視して彼女に『キミだけと過ごしたかった』と高らかに宣言したことを知らなかった。ましてやマジメな庶務だから、『今すぐ廃止にしましょう』と校長に訴えに行った。その時、オレも同行させられて東校長に事情を説明するように言われた。その時、夏芽の存在を教えた。


 『夏芽』、そう、『梶原 夏芽』だ。決して『 夏芽』ではない。


 夏芽の話をした時、庶務は驚いていた。小学校の時にのクラスメイトがいた。6年間ずっと同じクラスで、それなりに仲良く、『中学は私立に無理していく』と言っていたらしい。


 『あの梶原さんがかぁ。ふふっ』


 あの時の庶務の子の懐かしさに浸っていた顔を見て、『あぁ、この子も女の子なんだな』と思ったことを覚えている。


 その庶務夏芽の友だちがオレに告白してきたのだ。きちんとふらないと庶務の後輩にも悪い。


「そうだよな、夏芽」


 キラッと夏芽とお別れした時に渡したペアリングが輝いた気がした。

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