第57話 プレゼント2~プライスレス~ー迅目線ー

 明日は鮮魚のはなまるのアルバイトは休みだ。違う、鮮魚のはなまるは閉店したんだ。アルバイトの最後に閉店のお知らせのポスティングとあいさつにまわったじゃないか。学校は高校2年生が始まるまでヒマだ。春休みの課題も出ているがすぐに終わらせた。忠さんの繋がりで他の鮮魚店でのバイトも決まってる。

 

 平日だし、ショッピングモールに……。ダメだ。オレが思うくらい高価なものを買うならショッピングモールじゃなくて南商店街だな。

 

 ……本音を言えば、夏芽との残り少ない時間、1秒でも長く一緒にいたい。


 忠さんから今度の土曜日に関東に向かう新幹線に乗ると聞いた。


 ……それを聞いたのが火曜日だ。


 夜も開けて、日が変わり朝なのか昼なのか怪しい10時過ぎだ。ATMで降ろした何万円かを持って南商店街に来た。目的は夏芽にお別れのプレゼントを買うためだ。具体的に言えば指輪を首からぶらさげるアクセサリーを買いたいのだ。目的地は矢切さんの雑貨屋だ。


「こんにちはー」

「おっ、やぁ、広瀬くん」


 矢切さんとはクリスマス会以降あまり関わることがなかった。矢切さんの雑貨屋は新田神社の近くにあるのだ。つまり南商店街の店舗としてもっとも奥地にある。


「初詣大変だったね、キミは夏芽ちゃんの彼氏失格なんてことはないよ。今だって夏芽ちゃんに秘密で最後になるプレゼントの雑貨買いにきたんでしょ?」

「え、初詣……? え、あれ聞かれてたんすか」


 初詣の事はオレもだいぶ忘れていた。ただあの日からしばらくしていろはが色々仕掛けてきた。あれからまだ2ヶ月経つか経たないかだ。まるで小学生の頃の話のように感じる。きっと矢切さんは初詣の時にいろはが心配で夏芽に言った『彼氏失格』の話をしてるのだろう。

 

「あんな話題が聞こえてきたら野次馬として聞きに行かないと大阪人の誇りが廃るよ」

「アハハ、いや、あれはオレが悪いっすね。あの事件で改めて初恋よりも今恋が大事なのを思い知りましたね」

「でも、その今恋もなんだよね?」

「えぇ、忠さんや夏芽、もちろん有紀の幸せのためです」

「だったら演技でって伝えるのもひとつの手ではあるよ。それでも広瀬くんにとっても夏芽ちゃんにとっても1番記憶に残るような終焉を迎えようとするんだね」

「えぇ、今のオレには夏芽が必要。でも、来週の大阪には夏芽はいない。最後に今までのを伝えたいんです」

「なるほど。そこまで意思が決まってるならボクは何も言わない。広瀬くんのお望みの雑貨を出そう」

「……オレが送りたいは……」


 オレが夏芽に送りたいものを伝えた。倉庫や在庫棚など色々見てもらった。店内に飾られている雑貨も見た。


「高校生には少し高いけど、これとかどうだい? 夏芽ちゃんの指のサイズがわからないから広瀬くんの希望通り首からぶらさげるアクセサリーがいいと思う」

「あー、いい感じっすね」

「まぁ、さすがに本物のダイヤとか宝石ではないけれど、ボクの親友がけっこう本気で似せて作ったペアリングだね」

「あれ? さっき、高校生には高いって言ってませんでした?」

「プライスレスってことだよ」


 そのまま矢切さんは倉庫の奥に向かっていく。まだ何かあるのだろうか? 『あったあった』とすぐに奥から戻ってくる。


「ホントは誰かに売る気はなかったけどさ、このペアリング。広瀬くんと夏芽ちゃんの為なら相場の半額以下、いや、広瀬くんの言い値で売るよ」

「いや、そんな手持ちで買えないならさすがに……」

「ざっと見積っても10万くらいだよ」

「あっ、ちょうどある」


 矢切さんは驚いて10万円を受け取った。そのまま夏芽に無料通話アプリでなく、電話番号でかける電話をかけた。

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