第48話 バレンタインデー1~涙~
私立高校受験が終わった。次に来るイベントは……公立受験だ。ホントはそうするべきだ。お互いの親公認でわたしの家に迅くんがいる以上避けられないイベントがある。
そう、2月14日のバレンタインだ。私立高校の合否がわかるのも今年は2月14日だ。合否がわかるまでは遊ぼうと思って、今日はそのためにスーパーのバレンタインフェアの売り場にいる。
迅くんは梶原家で遠慮している感じはしない、むしろ、くつろぎすぎて少し心配だ。居候だから迅くんには自分の部屋がないし、基本的に寝るとき以外はリビングだ。時折、お父さんの部屋にDVDを取りに行く。甘いものを食べているのは……たまに見る。
それこそ、お姉ちゃんから棒アイスをわけてもらったり……あれ? わけてもらってる時って、だいたい、お姉ちゃんの食べかけを、それか迅くんが食べかけている棒アイスをシェアしている……。
それってなにも考えなくとも間接キスだ。
お姉ちゃんもやっぱり迅くんが好きなのかなぁ? 迅くんは一人っ子だし、そういうもんだと思っていそう。初めてお姉ちゃんと迅くんが棒アイスをシェアしていたのを見たのは、迅くんが『このチョココーティングのんカカオ濃くてうんま!!』と言っていた。となると、迅くんは苦めのチョコが好きなのだろう。
カカオ濃いめのチョコレートを多めに買って帰った。スーパーを出ると、迅くんとすれ違った。
「あれ? 夏芽?」
「迅くんこそどうしたの?」
「昨日のルーレットで家事当番が明日の昼までオレなの忘れててさー、カレーの材料買いに来たんだよなぁ。後、犬飼さんちの駄菓子屋で洗剤買ってきてって忠さんから頼まれたからさ。でも、駄菓子屋が洗剤売ってるって面白いよなぁ」
そうなのだ、お父さんは迅くんが来てから数日後に、家事をすべてルーレット制にしようとなった。どんな順番で出来でも文句は言わないという条件だ。お父さんも職業柄けっこうキレイにいろいろする。迅くんもお父さんほどではないが、そこそこキレイに物を取り扱う。1番ダメなのはお姉ちゃんだ。ここはわたし含むみんなでカバーしている。
「じゃ、わたしも……」
「買い物重いだろうし。帰り、一緒に……ダメだ、帰りはオレも両手ふさがってるな、先、帰りなよ」
「そっか、じゃ、またあとで」
気分ルンルンで家に帰った。バレンタインは明日だ。苦めの生チョコを作ろう。作り始めてしばらく経った。
後は冷やす工程を残すだけ。作り方のレシピサイトを触った。
「忘れはないね」
ふと、わたしの頭に去年のバレンタインにあった同級生の話を思い出した。チョコに経血を入れると言う話だ。試しに……いや、違う、この話には続きがあった。経血を入れたチョコを作った同級生の彼氏は食べ、『おいしい』と言ってくれた。経血を入れたことを話すとすぐに別れを告げられたのだ。なお、この彼氏は経験豊富な社会人だったらしい。その同級生とわたしは仲良くなかったが、周りが慰めるときに大きな声で『社会人だから彼氏が忙しいんだよ~』とか『経血いれるのだって愛情表現なのに理解できないのがおかしいよ』と言われていた。
――中学2年生が社会人と付き合う……?
すごい疑問だったのを覚えている。
何はともあれ経血を入れるのはやめよう。衛生面でも問題だ。
そうだ、わたしは常人だ。でも、常人の中学生が高校生と付き合うのだろうか……。
目の前にあったのは湯煎するには多すぎたチョコレートだ。少しだけかじった。いや、最後まで食べるつもりだけども。
「おいし……」
少しだけ涙が出てきた。どうしてだろう……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます