エピローグ:

エピローグ


 聖ローザ修道院の庭園に、初夏の柔らかな陽光が降り注ぐ朝。エロイーズとヘレンは、いつものように朝の散歩を楽しんでいた。二人の歩みは、長年の共同生活で培われた息の合ったリズムを刻んでいる。


「ねえ、ヘレン」


 エロイーズが静かに口を開いた。


「私たちの人生、想像していた通りになったかしら?」


 ヘレンは、微笑みながら答えた。


「いいえ、エロイーズ。想像以上よ」


 二人は、庭の中央にある大きな樫の木の下で足を止めた。その樹木は、彼女たちの関係と同じく、年月と共に成長し、今や修道院の象徴となっていた。


 エロイーズは、遠くを見つめながら言った。


「私たちの修道院は、まるで大海原に浮かぶ島のようね。知識と愛の灯台として、迷える魂たちを導いている」


 ヘレンは、エロイーズの手を取った。


「そう、そして私たちは、その灯台の守り手」


 その時、修道院の門が開き、新しい修道女志望者たちが入ってきた。彼女たちの目には、かつてのヘレンと同じような不安と期待が混在している。


「あの子たちを見てごらん、ヘレン」


 エロイーズが囁いた。


「私たちの遺産は、彼女たちに受け継がれていくのよ」


 ヘレンは頷いた。


「そうね。私たちの愛と知恵が、時を超えて流れていく。まるで、川の水のように」


 二人は、新しい修道女たちを迎えるために歩み寄った。その姿は、年月を重ねてもなお威厳に満ち、知性の輝きを湛えていた。


「ようこそ、聖ローザ修道院へ」


 エロイーズが温かく語りかけた。


「ここは、知識と愛を探求する場所です」


 一人の若い女性が前に出て、震える声で尋ねた。


「私たちも、あなたがたのように自由に学べるのでしょうか?」


 ヘレンは優しく微笑んだ。


「もちろんよ。ここでは、あなたたちの魂が羽ばたくための翼を授けます」


 エロイーズは付け加えた。


「そして、その翼で世界中を飛び回り、あなたたちの才能を開花させるのです」


 新しい修道女たちの目が、希望に満ちて輝いた。


 その日の夕方、エロイーズとヘレンは秘密の図書館で過ごしていた。蝋燭の柔らかな光が、古い書物たちを優しく照らしている。


「ヘレン」


 エロイーズが静かに呼びかけた。


「私たちの人生は、この図書館の本のようだったわね。一ページ一ページが、驚きと発見に満ちていた」


 ヘレンは、エロイーズの隣に座った。


「そうね。そして、私たちは共に、この物語を紡いできた」


 エロイーズは、ヘレンの手を取った。


「私たちの愛は、時を超えて続くわ。それは、この修道院の基盤となり、未来へと続いていく」


 ヘレンは、エロイーズの目を覗き込んだ。


「エロイーズ、あなたは私の人生の灯火よ。これからも共に、新しい章を書き続けましょう」


 二人は静かに唇を重ねた。

 そのキスは、長年の愛情と信頼、そして未来への希望に満ちていた。


 窓の外では、夕暮れの空が美しく染まっていた。それは、彼女たちの人生が紡いできた物語の、新たな一章の始まりを告げているかのようだった。


 聖ローザ修道院は、これからも知識と愛の探求者たちの聖地であり続けるだろう。エロイーズとヘレンが蒔いた種は、世代を超えて花開き、その香りは遠く未来まで届いていくのだ。


 そして、彼女たちの物語は、永遠に語り継がれていくことだろう。それは、愛と知恵の力が、いかに世界を変えうるかを示す、生きた証となるのである。


(了)

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