第5章: 貴族の娘

 秋の訪れを告げる風が、聖ローザ修道院の石壁を優しく撫でていった。その風に乗って、一人の若い女性が修道院の門をくぐった。

 彼女の名はイザベル・ド・モンフォール。

 フランス屈指の名門貴族の娘である。


 エロイーズとヘレンは、修道院の玄関で彼女を出迎えた。

 イザベルの目には、傲慢さと反抗心が宿っていた。


「ようこそ、イザベル」


 エロイーズが穏やかな声で語りかける。


「長旅でお疲れでしょう」


 イザベルは鼻で笑うように答えた。


「疲れてなどいませんわ。それよりも、なぜ私がこんな辺鄙な場所に送られなければならないのか、説明してください」


 ヘレンは優しく微笑みながら言った。


「イザベル、ここでの生活はあなたが想像しているよりも豊かなものになると思いますよ」


 イザベルは冷ややかな目でヘレンを見た。


「豊か? 修道院で? ご冗談でしょう」


 エロイーズは静かに言った。


「イザベル、あなたの両親は、あなたの才能を開花させるためにここに送ったのです。政略結婚から逃れるためでもあります」


 イザベルの目が一瞬、驚きで見開かれた。しかし、すぐに元の冷たい表情に戻った。


「才能? 私には何の才能もありません。ただの駒として育てられただけです」


 ヘレンは優しく言った。


「そんなことはありません。あなたの中に眠る才能を、私たちが一緒に見つけていきましょう」


 最初の数週間、イザベルは修道院の生活に馴染もうとしなかった。他の修道女たちを避け、一人で過ごすことが多かった。しかし、エロイーズとヘレンは根気強く彼女に接し続けた。


 ある日、エロイーズはイザベルに声をかけた。


「イザベル、あなたの部屋から美しい歌声が聞こえてきたわ」


 イザベルは驚いた表情を見せた。


「聞こえていたのですか……」


 ヘレンが優しく言った。


 「素晴らしい声でしたよ。音楽の才能があるのですね」


 イザベルは少し照れたように目を伏せた。


「子供の頃から歌うのが好きでした。でも、両親には時間の無駄だと言われて……」


 エロイーズは微笑んだ。


「ここでは、あなたの才能を伸ばすことができます。音楽も、そしてそれ以外のことも」


 その日を境に、イザベルの態度が少しずつ変わり始めた。彼女は音楽の練習に熱心に取り組むようになり、他の修道女たちとも会話を交わすようになった。


 ある夜、エロイーズはイザベルを秘密の図書館に案内した。

 イザベルの目は、書架に並ぶ数々の書物を見て輝いた。


「これらは……禁書ではないのですか?」


 イザベルが震える声で尋ねた。


 ヘレンが答えた。


「そうです。でも、知識に禁忌はありません。ここでは自由に学ぶことができるのです」


 イザベルは古代ギリシャの詩集を手に取り、夢中になって読み始めた。

 彼女の中で、新たな世界が開かれていくのを感じた。


 数週間が過ぎ、イザベルは秘密の図書館の常連となった。彼女は古代の詩を学び、自らも詩作を始めた。エロイーズとヘレンは、彼女の才能の開花を見守った。


 ある夜、三人は図書館で詩の朗読会を開いた。イザベルが自作の詩を朗読し終えると、エロイーズとヘレンは感動の涙を浮かべていた。


「イザベル、あなたの言葉は魂を揺さぶります」


 エロイーズが言った。

 ヘレンも付け加えた。


「あなたの才能は本物です。これからどんな詩を生み出すのか、楽しみです」


 イザベルは初めて、心から笑顔を見せた。


「ありがとうございます。ここに来て、初めて自分の価値を感じることができました」


 その夜、イザベルは自室で日記を書いていた。

 そこに、ヘレンが訪れた。


「イザベル、今日の詩は本当に素晴らしかったわ」


 ヘレンが優しく言った。


 イザベルは照れくさそうに微笑んだ。


「ヘレン、あなたとエロイーズのおかげです。二人が私を受け入れてくれなかったら……」


 言葉が途切れたとき、イザベルはヘレンに近づき、優しくキスをした。

 ヘレンは驚いたが、優しくイザベルを抱きしめ返した。


「イザベル……」


 ヘレンが囁いた。


 イザベルは涙ぐみながら言った。


「ヘレン、私……あなたとエロイーズを愛しています。二人が私に教えてくれた愛と自由、そして知識への探求……それが私の人生を変えたのです」


 ヘレンは優しくイザベルの頬を撫でた。


「私たちも、あなたを愛しています。あなたの成長を見守ることができて、幸せです」



 その夜、秘密の図書館の奥にある小さな休憩室は、柔らかな蝋燭の明かりに包まれていた。イザベル、ヘレン、そしてエロイーズの三人は、互いの目を見つめ合いながら、静かに佇んでいた。空気は期待と緊張で満ちていた。


 イザベルが最初に動いた。彼女は優雅に、まるで宮廷舞踏会での舞のように、ヘレンに近づいた。イザベルの指先がヘレンの頬に触れた瞬間、部屋の空気が変わったように感じられた。


「ヘレン……」


 イザベルの声は囁くように柔らかだった。


「あなたは私に、自由と愛の意味を教えてくれました」


 ヘレンは微笑み、イザベルの手を取った。


「イザベル、あなたの中にあった美しさを引き出しただけよ」


 エロイーズは二人を見守りながら、ゆっくりと近づいてきた。彼女の成熟した美しさは、若い二人とは違う魅力を放っていた。「二人とも、本当に美しい」エロイーズの声には深い愛情が滲んでいた。


 三人は互いに近づき、優しく抱き合った。その瞬間、彼女たちの間に流れる空気が変化した。それは単なる肉体的な欲望ではなく、魂と魂が触れ合うような、神秘的な雰囲気だった。


 イザベルが最初にキスをした。彼女の唇はヘレンの唇に触れ、そしてエロイーズの唇へと移っていった。それは乙女の初々しさと、新たに見つけた自信が混ざり合ったような、独特の味わいを持つキスだった。


 ヘレンは、イザベルの首筋に優しくキスをしながら、彼女のドレスの紐を解いていった。エロイーズは後ろから二人を抱きしめ、その温もりで包み込んだ。


 三人の服が一枚ずつ床に落ちていく様子は、まるで花びらが散るかのようだった。キャンドルの光に照らされた彼女たちの肌は、柔らかな光沢を帯びていた。


 イザベルの若く引き締まった体、ヘレンの柔らかな曲線、そしてエロイーズの成熟した美しさ。三人三様の美しさが、互いを引き立て合っていた。


 エロイーズが最初に口を開いた。


「イザベル、ヘレン……二人の美しさは、まるで詩のようです」


 イザベルは照れくさそうに微笑んだ。


「エロイーズ、あなたこそ生きた芸術作品です」


 ヘレンは二人の手を取り、ベッドへと導いた。


「私たちの魂が一つになるのを感じます」


 三人はベッドに横たわり、互いの体を優しく愛撫し始めた。

 それは単なる肉体的な行為ではなく、まるで互いの魂に触れているかのような感覚だった。


 イザベルの指先がヘレンの胸に触れると、ヘレンは小さく息を呑んだ。エロイーズはイザベルの背中に優しくキスを落とし、彼女の全身に震えが走った。


 三人の動きは次第に一つのリズムを刻むようになっていった。それは古代の儀式のようでもあり、また現代的な舞踊のようでもあった。


 イザベルが小さく喘ぐ声、ヘレンの優しい囁き、エロイーズの深い吐息。それらが混ざり合い、部屋に甘美な音楽を奏でていた。


 エロイーズの経験豊かな指使いは、イザベルとヘレンを何度も絶頂へと導いた。イザベルの情熱的な口づけは、ヘレンとエロイーズの心を熱く溶かしていった。そしてヘレンの優しい愛撫は、二人を包み込み、安心感を与えた。


 時間の感覚が失われていく中、三人は互いの体を探索し、新たな快感のポイントを発見していった。それは単なる肉体的な喜びを超えた、魂の対話のようだった。


 イザベルは初めて味わう深い愛の喜びに、時に涙を流した。ヘレンはその涙を優しくキスで拭い、エロイーズは彼女を優しく抱きしめた。


 夜が深まるにつれ、蝋燭の炎が揺らめき、三人の影を壁に映し出した。その影は時に一つに溶け合い、時に分かれ、まるで古代の神秘的な儀式を行っているかのようだった。


 イザベルの指先がヘレンの肌を辿る。その動きは、まるで聖なる文字を刻むかのように丁寧で繊細だった。ヘレンの吐息が漏れ、その音色は部屋に満ちた静寂を震わせた。


 エロイーズは二人を見つめながら、ゆっくりとイザベルの背中に唇を這わせていく。その温もりに、イザベルの全身が小さく震えた。エロイーズの舌が、イザベルの背骨に沿って上へと這い上がる。まるで蛇が林檎の木を登るかのように、ゆっくりと、しかし確実に。


 ヘレンはイザベルの胸元に顔を埋め、その香りを深く吸い込んだ。イザベルの体から立ち昇る芳香は、禁断の果実のようだった。甘美で、官能的で、そして少し危険な香り。


 三人の体が絡み合う様は、まるで生き物のようだった。それは蛇でもあり、鳥でもあり、そして花でもあった。肌と肌が触れ合うたびに、小さな電流が走る。その電流は次第に強くなり、やがて三人を包み込む。


 イザベルの喘ぎ声が部屋に響く。それは歌のようでもあり、祈りのようでもあった。エロイーズとヘレンは、その声に導かれるように、イザベルの体を愛撫していく。


 月の光が窓から差し込み、三人の肌を銀色に染め上げた。その光景は、まるで古代ギリシャの彫刻のようだった。生命力に満ち、しかし永遠の美しさを湛えている。


 エロイーズの唇がイザベルの耳元に触れ、小さく囁いた。その言葉は聞き取れないほど小さかったが、イザベルの体は大きく反応した。まるで魔法の呪文を唱えられたかのように。


 ヘレンの指がイザベルの最も敏感な部分に触れる。イザベルの背中が弓なりに反り、快感の波が全身を駆け巡った。それは海の波のようだった。押し寄せては引き、また押し寄せる。


 三人の動きは、次第にゆっくりとしたものになっていった。それは急ぐ必要がないからだ。彼女たちには永遠の時間が与えられているかのようだった。


 イザベルの手がヘレンの髪に絡み、エロイーズの腰に回る。三人は互いの体温を感じながら、深く結びついていく。それは単なる肉体の結合ではなく、魂の融合だった。


 部屋の空気が濃密になり、三人の吐息が混ざり合う。その香りは官能的で、同時に神聖なものだった。まるで天上の楽園に咲く花の香りのように。


 エロイーズの経験豊かな指使いが、イザベルとヘレンを新たな高みへと導く。それは肉体的な快感を超えた、魂の悦びだった。三人は同時に絶頂に達し、その瞬間、時間が止まったかのように感じた。


 余韻の中で、三人はただ静かに抱き合っていた。言葉は必要なかった。彼女たちの魂は完全に一つになり、互いの思いを直接感じ取ることができた。


 イザベルの目に涙が光る。それは喜びの涙であり、感謝の涙であり、そして深い愛の証だった。エロイーズとヘレンは優しくその涙を拭い、イザベルを抱きしめた。


 夜明けの光が窓から差し込み始める。その光は三人の体を黄金色に染め上げた。まるで神々しい光に包まれているかのようだった。


 余韻の中で、三人はただ静かに抱き合っていた。言葉は必要なかった。彼女たちは魂のレベルで完全に理解し合い、一つになっていたのだから。


 イザベルの目に涙が光っていた。それは喜びと感謝、そして少しばかりの別れの悲しみが混ざった涙だった。エロイーズとヘレンは優しく彼女を抱きしめ、その涙を受け止めた。

 エロイーズがイザベルの耳元で囁いた。


「あなたは美しい。そして強い。自分の価値を忘れないで」


 ヘレンもイザベルの頬に触れながら言った。


「あなたの中にある才能と情熱を、これからも大切にしてください」


 イザベルは二人を見つめ、涙ながらに答えた。


「二人のおかげで、私は本当の自分を見つけることができました。この愛と、この経験を、決して忘れません」


 部屋の窓から差し込む朝日が、三人の絡み合った身体を優しく照らし始めた。新たな日の始まりと共に、イザベルの人生も、そしてエロイーズとヘレンの人生も、新たな段階に入ろうとしていた。


 この夜の経験は、三人の心に深く刻まれ、これからの人生における貴重な導きの光となることだろう。それは愛と知識の力が、いかに人を変え、成長させるかを体現した、かけがえのない瞬間だったのだ。


 冬が近づく頃、イザベルは自分の人生を自分で決める強さを身につけていた。彼女は、家族と向き合い、自分の意志を伝える決意をした。


 別れの日、イザベルはエロイーズとヘレンに深々と頭を下げた。


「二人のおかげで、私は真の自由を知りました。これからは自分の人生を、自分の手で切り開いていきます」


 エロイーズは優しく微笑んだ。


「あなたなら、きっとできます。あなたの才能と強さを信じています」


 ヘレンは涙ぐみながら言った。


「イザベル、あなたの詩が世界中の人々の心を揺さぶる日が来ることを、私は知っています」


 イザベルは二人を抱きしめ、最後のキスを交わした。


「必ず戻ってきます。そして、私が得た自由と知識を、他の女性たちにも伝えていきます」


 イザベルが修道院の門をくぐり出て行く姿を、エロイーズとヘレンは見送った。彼女の背中には、もはや傲慢さや反抗心はなく、代わりに自信と決意が満ちていた。


 エロイーズはヘレンの手を取りながら言った。


「また一人、翼を得て旅立っていきましたね」


 ヘレンは頷いた。


「はい。でも蓮華の言うように、彼女の心の一部はいつも、ここにあるはずです」


 二人は互いを見つめ、静かに微笑んだ。イザベルとの出会いは、彼女たちにも新たな気づきをもたらしていた。それは、愛と知識の力が、いかに人を変え、成長させるかということだった。


 そして彼女たちは、これからも新たな出会いと冒険が待っていることを、心から楽しみにしていたのだった。

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