【中世耽美百合小説】「聖ローザ修道院の秘密―薔薇の園の異端者たち―」

藍埜佑(あいのたすく)

プロローグ:

 12世紀のフランス、パリ郊外。石造りの威厳ある建物、聖ローザ修道院が静かに佇んでいます。朝靄に包まれた修道院の庭には、まだ朝露が残り、薔薇の香りが漂っています。若くして修道院長まで登り詰めたエロイーズは窓辺に立ち、その光景を見下ろしています。彼女の瞳には、祈りを捧げる修道女たちの姿が映ります。しかし、エロイーズの心の中には、まったく別の景色が広がっていました。


 エロイーズの思考は、20年以上前の記憶へと遡ります。若かりし頃の彼女が、女性である師アナベルと出会った日のことを鮮明に思い出すのです。アナベルの知性と優雅さ、そして何より、その自由な精神に魅了されたエロイーズ。二人の関係は、師弟の枠を超えて深まっていきました。


 アナベルとの日々は、エロイーズにとって啓示的でした。彼女は女性の知性と自由の重要性を痛感し、同時に、それらが当時の社会でいかに抑圧されているかを実感したのです。アナベルとの別れは辛いものでしたが、その経験が、エロイーズの人生に新たな使命をもたらしました。


 エロイーズは、この修道院を知的女性たちの避難所にすることを決意したのです。表向きは敬虔な修道院としての外観を維持しながら、内部では自由な学問と芸術の追求を可能にする環境を、彼女は密かに作り上げてきました。


 窓から見える修道女たちの中に、エロイーズは隠された知的な輝きを見出します。彼女たちの一人一人が、この世界で抑圧されてきた才能と情熱を秘めているのです。エロイーズは、彼女たちに自由に学び、考え、成長する機会を与えることができることに、深い喜びを感じています。


 そんな中、エロイーズの耳に、修道院の門をくぐる馬車の音が聞こえてきました。新たな修道女の到来です。エロイーズの心は、期待と緊張で高鳴ります。この新参者は、どのような才能を秘めているのでしょうか。そして、この修道院の秘密を守り、共に歩んでいく仲間となれるのでしょうか。


 エロイーズは深呼吸をし、新たな修道女を迎える準備をします。彼女の表情には、慈愛に満ちた微笑みが浮かんでいます。しかし、その瞳の奥には、知的な好奇心と、秘密を守り抜く強い意志が宿っているのです。


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