第13話 【幕間】クロの回想
「……ってことがありまして」
「ふーん」
死体の山から、掘り出し物でもないかと武器や積荷を検分していた時、ステアが暇だからと言ってわたしとノア様の出会いを聞いてきた。
「クロって」
「なんですか?」
「お嬢のこと、見ただけで、王だって、思ったの?」
「……余計なことまで話した」
「しかも、一目惚れ?」
「そんなこと言ってませんが!」
失敗した、つい懐かしくて口が軽くなった。
「でも、それにしては、お嬢の扱い、ぞんざい」
「あの頃の印象通りのカリスマ的存在だったら、どんなに良かったことか……」
あの時は輝いて見えた主だったけど、今となって慣れてしまえば、なんというか、こう。
「でも確かに、お嬢、悪いところも、ある」
「わがままでめんどくさがりでそのくせ知識欲だけは旺盛で、知を貪るためには手段を択ばず、食事も好き嫌いが多くて、生活能力がなくて………」
「それ、お嬢に、言った方が、いい?」
「やめてください」
出会った時は、この人が誰もが敬うような人格者でも、悪の提督みたいな人でも、どっちでもついてこうと思っていた。
だけどその実、中身がアレだ。扱いも雑になる。
「じゃあ、お嬢のこと嫌い?」
「は?」
「どうなの?」
「………はあ。安心してください、嫌いじゃないですし、むしろ好きですよ。大好きです。あの方のためならなんだってやれます。誓った忠誠心が揺らぐほど、やわな心は持ち合わせていないので」
少し不安そうな顔をしていたステアに、わたしは言った。
口数が少なくてクールに見えるけど、実際は人一倍心配性なこの子のことだ。
わたしが実はノア様を嫌っているんじゃないかと、頭をよぎってしまったんだろう。
「ん。ならよかった」
本当に良い子で可愛い。
これで、ノア様やゴラスケを侮辱されると暴走する癖を何とかしてくれればもっと良いんだけど。
「さ、無駄話はこれくらいにして続けますよ。いい感じの武器とか食べ物とかあったら回収してください」
「ん」
引き続き作業に入り、わたしは隊長と呼ばれていた男の剣、後方に積まれていた兵糧、その他にもいくつかの武器や道具を拾った。
「ステア、どんな感じですか………ってなんですかそれ」
「写真」
それはあの隊長の、めいいっぱい落書きと悪口が描かれた写真だった。
「どこにあったんですか」
「落ちてた」
「随分嫌われてたんですね、こんな小学生のいたずらみたいなことされるくらいには………」
うちのノア様も、こんなことされるような上司にはなってほしくないものだ。
「とにかく、要らないので捨ててきなさい」
「この写真、みせたら、私がいなくても、精神攻撃に、なる」
「いや、その精神攻撃の対象死んでますから」
そんなドヤァとでも言いたげな顔されても。
「他には何かありましたか?」
「今、アイツらに、探させてる」
「ああ、操ってた兵士ですか。しまった、その手があるならもう少し生かしておくべきでしたね」
「大丈夫。もう終わる」
結局、めぼしい収穫は20本の剣と食べ物、それに多少のアイテムだけか。
「まあこんなところでしょう。ステア、その兵士たち殺っといてください」
「ん。『互いを斬り合って』」
ステアに操られていた者たちも全員死に、これで本当に500人いた別動隊は壊滅だ。
「はあ、疲れた……さっさと帰りましょう」
「ん。でも、どうやって、持ってく?」
「馬に乗っければいいんですよ、連中が乗ってた」
「でも、お馬さん、クロの魔法に、巻き込まれて―――」
ステアが指を刺した方向を見ると、そこにはピクリとも動かなくなった馬の姿があった。
やってしまった。馬には罪がないというのに。
「二人で持っていく?」
「冗談よしてください、こんな量を非力な女子2人で持って行けと?……はあ、仕方ありません。どっちかが陣営に戻って、傭兵を連れてきましょう」
「クロが、やったんだから、クロが、行くべき」
「いやいや、ステアが呼びかけた方があのロリコン共はついてくるでしょう」
………。
「ジャン、ケン」
「心を読めるあなたと誰がジャンケンなんかしますか」
「………むぅ。じゃあ、これで、決める」
「さっきの落書き写真?それでどうすると」
「落として、表が出たら、私。裏が出たら、クロが、行けばいい」
「まさか本当にそれが役立つとは思いませんでしたよ」
不正がないように二人で落とした結果、見事わたしはこの場で休憩する権利を勝ち取った。
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