8.薬草モンスターガイド

 僕は王宮庭園植物図鑑を読み返していた。

 あ、誤字がある……。

 何回も読み直したのに、こうしてたまに間違いが見つかってしょんぼりする。

 完成度はかなり高いとお墨付きをもらっていても、こうなのだ。


「そうだ。王宮庭園植物図鑑は専門書だけど、もっと内容を厳選して一般向けに出したらどうかな」

「いいですね、それですよ」


 ラーナが賛同してくれる。

 そのうちナーシーが遊びに来たので、一緒にどの植物を掲載するか吟味を始めた。


「初級ポーションで使う薬草から、中級、上級まで、薬草で固めよう。今回は毒草はなしで」

「うん、そうしましょっか」


 そうして内容を選ぶ。

 レアものは後ろに回して、なるべく一般的なものを選んでいく。

 それから絵なんだけど、白黒にして本文で色を書くことにした。

 文章は活版印刷だ。この世界にはすでにカラーではない白黒の活版印刷機がある。

 今はその原稿を用意する段階だった。

 絵は版画で上から色を塗るものをマーシナル王国学院に協力してもらって冒険者ギルドに配ることにした。


 どんどん作業していく。僕たちは割と暇なので。

 それに内容のほとんどは王宮庭園植物図鑑の転載なので、選ぶ以外の作業がそれほどないのだ。

 言い回しとかは特に違わない。

 王宮庭園植物図鑑が専門書だといっても、七歳児の語彙で書かれているので、難しい表現はほとんどない。

 そういう部分も先生からすれば評価ポイントの一部らしい。


 その錬金術の先生に原稿を見せる。


「どうですか」

「いいね。これは冒険者ギルドが欲しがるだろう」

「でしょう。それでギルドごとにカラーの絵を配りたいので、その色付けのアルバイトをして欲しいんです」

「いいですよ」

「やった」


 すぐに印刷機に掛ける。

 王宮印刷局というのがあるのだ。

 特別価格で刷ってもらう。全国の初心者冒険者に配りたい。かなりの枚数だ。


 走り回っているうちに白黒版は完成していた。

 それにナーシーがお手本で五部色付けをしてもらった。

 一冊は自分用で、四冊を色付け見本として錬金術の先生に貸し出した。


「これを見て、色を付けてください」

「わかりました。じゃんじゃん量産します」

「え、あ、はい」


 こうして生徒二十名を動員して、二百部のカラー版を作り上げた。


「全国の冒険者ギルドへカラー版を配布してください」

「はいっ」

「それから、白黒版は冒険者に配りましょう。一部銀貨一枚ですね」

「なるほど、それくらいなら買ってくれるでしょう」


 ということで配布が始まった。

 利益はほぼゼロだった。

 王立印刷局で印刷したけど、実質同人誌みたいなものだ。


 冒険者たちはギルドにあるカラー版を見て、自分で色を塗ったり、ギルド側で色を塗って割高で配布するカラー版も出来上がってきた。


 王都冒険者ギルド支部へ行ってみた。


「これはこれは、ミレル様。薬草ガイド、飛ぶように売れてますよ」

「ありがとう、やっぱり、こういうの必要なんだよね?」

「はい。あのできればいいのですが、これのモンスター版が欲しいと、冒険者が」

「そういうのって今までないの?」

「はい。本はあるのですが、このような安価な冊子というのは見たことがないですね」

「そっか、なんでないの?」

「それは、利益になりませんから」

「そういえば、薬草ガイドってギリギリ原価なんだっけ」

「そうですね。王立印刷局で大量印刷してギリギリ原価です。民間ではちょっと無理かと」

「そっかぁ」


 ということで冒険者ギルドでモンスターの情報を集めて、ナーシーに絵を描いてもらう。

 さらに王宮の図書室でも本を読み漁る。

 以前もモンスターについて調べたけど、再調査だ。

 それで情報を補完しつつ、信頼性の高い情報にしていく。


 対象は初心者から中級者向けのモンスターと決まった。

 上級者向けのワイバーンなど絵と共に危険だとだけ記載する。

 モンスター二種類につき一ページでも五十ページくらいになってしまう。

 文章を圧縮できるだけ圧縮して、モンスター三種類で三十五ページになった。

 これだとちょっと高くなってしまう。


 そこでマーシナル王国学院の広告をつけることにした。

 それから王立騎士団の団員募集の広告も入れてもらった。

 ちなみに近衛騎士団は王立騎士団から選抜されてなるんだ。

 これでも王女だからね。一応顔が利くんだ。


「それで、どうかな?」

「だいだい合ってるが、ここの文言は変更したい」

「どれですか」

「スライムは最弱とされる、とはいっても弱いわけではないんだ」

「あれ、そうなんですか」

「おお、子供などは危険かもしれない」

「わかりました。比較的弱いくらいで」

「それならいい」


 先輩冒険者たちにも原稿を見せて、意見を拾っていく。

 間違いもいくつも直してもらった。

 やっぱりこういうときは冒険者ギルドは助かる。


 こうしてモンスターガイドが発行されることになった。

 モンスターガイドはほんの少しだけど利益が出る値段にすることになった。

 命が掛かっているのだ、これくらい出して当たり前だと言われた。

 それに納得したので、銅貨五枚くらいの利益だけど、ちょっとだけ儲かった。


 薬草ガイド、そしてモンスターガイドは飛ぶように売れて、今印刷局では追加分を刷っている。

 紙が足りないという悲鳴を聞いた。

 そっか、そんなに刷る印刷物があると思われてなかったんだって。

 これが世に言う「ミレル七歳の奇跡、薬草モンスターガイド編」であった。


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