第47話 暴走する姉妹

「ソニアをやったわね!!!」


「許さない!!! 絶対に許さないわよあんた!!!!! ぶっ殺してやる!!!!!」


 ソニアがやられたことで、ベッキーとイザベラは我を忘れて怒り狂った。


 その時、二人に寄生していた魔道獣が怒りの感情に反応した。


 二人の全身がどんどん魔物へと変化していき、完全に魔物化した。


 残りの二人は、無意識のうちに体術でも絶対に負けない強靭な身体を欲していた。


 魔道獣は、二人の欲望に応えて、二人を魔物化させて、絶対的な力を与えたのだ。


「ああ、いい、いいよ。力がみなぎってくるわ。もう負ける気がしないよ」


「私たちがこんな奴らに負けるなんて、ありえないもの。まずはこいつをやっつけるよ。イザベラ」


「了解ベッキー。ボコボコにしてやる」


 圧倒的な力とスピードでアンナに攻撃する二人。


(ちっ、こいつら、魔物化したら、身体能力がかなり強化されたわね。これでは体術で体格差を補えないか……)


 アンナは自分にバフの魔法をかけて身体能力を強化するが、それでも二人の攻撃を回避するのに精一杯となってしまう。


 しかし、避けきれず、何度か攻撃を受けてしまう。


「かはっ!!!」


「あはは。私たちのスピードについてこれないようね。もう私たちにダメージを与えられないよ。このまま三人ともミンチにしてやるから」


「ふふ、まずはその腹を貫いて、ソニアと同じ痛みを味あわせてあげるわ」


「…………」


 アンナはわざと二人の攻撃をくらいながら、相手の身体を掴んで動きを封じた。


「えっ!!! この子、なんて力なの!!!!!」


「ちょっとあんた!!! 早く手を離しなさいよ!!!!!」


「離すわけないでしょ。バカなの?」


 アンナは自分の両腕に体内の生体エネルギーを集中させて、自身の限界まで力を強化していた。


 その隙に、アロウラとスクネが二人の魔物を武器で突き刺して、魔力を奪っていった。


「そんな……不意打ちなんて、ひどいじゃない……」


 アロウラとスクネの武器に魔力を吸い尽くされた二人の魔物は、その場に倒れこんだ。


 アンナは、ソニアと同じようにナイフで倒れている二人の腹を裂いて魔道獣を引きずり出し、炎の魔法で仕留めた。


 三姉妹は自分たちの過去を思い出していた。


 彼女たちは元奴隷だった。


 ローゼンブルグのとある地方都市の置屋で働かされていたところをヴォルフラムという男に保護されて、ヴィランにスカウトされた。


 三姉妹は自分たちを救い出してくれたヴォルフラムへの感謝の気持ちから、彼に協力を申し出て、自ら魔道獣を寄生させたのだ。


「ごめんねヴォルフラム。私たち、負けちゃったよ……」


 アンナは魔道獣がいなくなった三姉妹を治療し始めた。


「なんで、私たちを回復するの? 敵なんだよ?」


「勘違いしないでよね。あらかた傷が治ったらあんたたちからいろいろ聞き出してやるから、覚悟しなさいよ」


 ある程度傷が回復したところで、三姉妹に尋問しようとするアンナ。


「待ってアンナ。向こうから誰かが近づいてくるわ」


 黒ずくめの人間たちがいるのに、アロウラが気づく。


 黒ずくめの人間たちは、閃光の魔法を使い、アンナたちの視界を奪うと、素早く三姉妹に近づき、三姉妹を連れ去っていった。


「みんな、大丈夫?」


「ええ、大丈夫よ。でも、敵さんを連れて行かれてしまったわ」


 黒ずくめの人間たちが現れたタイミングが良すぎることを怪しむアンナ。


 三人はずっと彼らに監視されていたことに気づく。


「どうやら組織の中に内通者がいるようね」


◇◇◇


 三人と三姉妹の戦いの様子を遠くから見ていた男がいた。


 彼は人間の生体エネルギーの量を測定出来る眼鏡型の魔道具を装着していた。


「あの金髪のガキの生体エネルギーは、通常では考えられないほどの高い数値を出している。ふふ、こんなところでレア物に出会えるとは、本当に私はついているな」


 男は、スクネの体内の生体エネルギーの高さに驚いていた。


「ヴィランたちにあいつを監視させるか。隙を見て私のもとへ連れてこさせよう。なあに、焦ることはないさ」


 男は、スクネを手に入れようと画策した。


 魔道獣は寄生した人間の生体エネルギーが多ければ多いほど成長が早くなり、強力になるからだ。


「ヴォルフラムには黙っておくか。奴に勝手に動かれると面倒だからな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る