第29話 ミリエラの覚悟

 新月の教団の新しい教主となったミリエラが宇魅那と会談していた。


「宇魅那様、私たちの教団の創設者だった女性が、イバラ姫の身体を乗っ取ったのは聞いていますね?」


「ええ。伺っています」


「その女性を、私たちはマスターと呼んでいたので、今はマスターと言わせていただきます。このマスターは最後に、身につけていた仮面を私たちに残していきました。そして、私たちと現在協力関係にある女性が、この仮面から魔法でマスターの記憶を読み取ることに成功したのです。結論からいいます。彼女はこの国を完全に破壊するつもりです」


「破壊って? どういうことなんですか?」


「彼女のやろうとしていることは、言葉の通り、この国にある全てのものを破壊しようとしているのです。建物も、人間も、全てです。そして、全てを破壊した後、一からこの国を作り直すことを考えているようです」


「そんな!! 人も全てですか!!! ひどい!!! その方は命をなんだと思ってるんですか!!!!!」


「宇魅那様、残念ながら、今、この国の人々の命はあってないようなものです。魔道炉が崩壊したあの日から、ほとんどの人間が、明日生きられるかどうかのギリギリの生活を強いられています。私たちは少なからず魔素の影響を受けていますし、その中には完全に魔物化してしまった人たちもいます。しかしながら、それでもこの国が復興することを信じて、懸命に生きている人々もいるのです。私は、その人たちの気持ちを無駄にしたくない。私たちの教団の信者たちも、皆同じ想いを持って活動しています」


「私も、可能なら、この国を元の、皆が平和に暮らすことのできた状態に戻したいです」


 その言葉を聞いたミリエラは少し考え込んでから、覚悟を決めて宇魅那に話しかけた。


「……宇魅那様は、本気ですか?」


「本気というのは、どういう意味で?」


「あなたの覚悟のことです」


 ミリエラは宇魅那の目をまっすぐに見つめながら問いかけた。


「覚悟ですか?もちろん、あります。私の命にかけてでも……」


「あなたの命だけではありません。この国を守るためには、少なくない犠牲者が出るはずです。それでも、あなたは最後まで責任を持って、この国の人々にこの国を守れと言えますか? あなたは彼らに、この国のために死ねと言えますか?」


「それは……」


「宇魅那様、口先だけの理想では、何も変えられません。物事を大きく変えるためには、それ相応の代償が必要になります。私は、これからマスターに対抗する新しい組織を作ります。この教団だけでなく、この国を守る意思のある全ての人に参加してもらうつもりです。もし、宇魅那様に本当の覚悟がおありなら、私はあなたにこの組織のトップになっていただきたいと考えています。是非、あなたにその覚悟を持っていただき、その姿勢を皆に示していただきたい」


「私にですか?」


「ええ、宇魅那様以外に適任者はいません。あなたなら、きっとこの国の人々をまとめ上げ、必ずマスターを倒すことができます。それだけの才能を持っているからです。何も持たない私にはできないことです」


「私を買い被りすぎです。そんな才能があれば、今頃この国は変わっていたはずです。でも、私には何もできなかったし、誰も救えなかった。何度も変えようとしたけど、できなかった無能なんです」


「それは宇魅那様自身の覚悟が足りなかったからです。ですから、今ここで覚悟を決めてください。そうすれば、皆あなたについていくはずです。もちろん、我々の教団も全力でサポートします」


「……わかりました。私もできるだけのことをやりましょう。皆がんばっているのに、私だけ逃げ出すわけにはいかないですから」


 宇魅那は覚悟を決めてミリエラを見つめ直した。


「それを聞いて安心しました。では、私も覚悟を決めて行動しますね。まずはお金を集めるために教団のスポンサーに会って資金調達のお願いをします。とにかくお金が無いと何も準備できませんし、志だけで動く人間ばかりだけではないので、必要な人材の中には傭兵のように金銭契約が必要な人物もいるでしょうから」


「確かに、短期間で人と物資を集めるにはまとまったお金が必要ですね」


「この教団のスポンサーはマスターと個人的な繋がりがあった人達です。詳しくはわかりませんが、マスターは接待として自分の身体を差し出していたようです。必要であれば、私も身体を差し出して、彼らを満足させましょう」


(それでも、必要な人数は集まらないだろう。教団の信者たちにも、命をかけてもらう必要がある。この国には守るだけの価値がある。そう思って戦うしかない。私にも、守りたい人がいるからね)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る